

監修医師:
伊藤 有毅(柏メンタルクリニック)
精神科(心療内科),精神神経科,心療内科。
保有免許・資格
医師免許、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医
目次 -INDEX-
向精神薬中毒の概要
向精神薬中毒は、医薬品の一種である向精神薬が適切でない方法で使用された結果、身体的または精神的な依存が生じる状態を指します。
向精神薬の中毒または依存の兆候には以下のような症状があります。
- 耐性の形成
同じ効果を得るために、徐々に薬の量を増やす必要がある。 - 離脱症状
薬を使用しないと、不安、発汗、震え、激しい切望などの離脱症状が現れる。 - 過度の使用
処方された用量よりも多く使用する、または使用期間を延長する。 - 日常活動の悪影響
薬の使用が仕事や学業、家庭生活に悪影響を与える。
向精神薬中毒の原因
向精神薬中毒の一般的な原因
- 長期間の使用
向精神薬は、不安、抑うつ、睡眠障害などを治療するために用いられますが、長期間にわたって使用することで、身体的または心理的な依存が発生することがあります。例えば、慢性的な不安障害の治療で長期にわたりベンゾジアゼピンを使用した場合、耐性が発生し、より多くの薬が必要になることがあります。 - 過剰な処方と向精神薬に対する知識不足
医療クリニックによる過剰処方や、処方された向精神薬の使用に対する知識不足も、中毒の原因となることがあります。薬の副作用や依存リスクについて十分な情報を知らないと中毒になってしまう恐れがあります。例えば自己判断で飲む量を増やしてしまい中毒になる例もあります。 - 自己薬理行動
個人がストレスや感情的な問題に対処するために、処方された目的以外で薬を使用することもあります。このような自己薬理行動は、中毒への道を開くことがあります。 - 社会的・環境的要因
家族や友人からの薬物の入手や、薬物使用が社会的に容認されている環境にいることも、薬物乱用を助長する要因となります。
向精神薬中毒の前兆や初期症状について
初期症状の特徴
- 用量の増加
徐々に薬の量を増やす行動になります。中毒依存の典型的な兆候です。例えば、不安薬を処方された人が、処方された量より多く消費し始める場合、注意が必要です。 - 耐性の形成
身体が薬に慣れ、より高い用量を必要とするようになる現象です。耐性が形成されると、薬の効果を感じるためには通常よりも多くの量が必要になります。 - 離脱症状
薬の使用を中止または減量した際に、不安、イライラ感、発汗、震え、睡眠障害などの症状が現れることがあります。これらは身体が薬に依存している証拠です。 - 薬に対する過度の関心
日常生活や活動よりも薬を取ることへの関心が増すという行動変化も見られます。時間や資源を薬を入手することに費やすようになることがこの兆候です。 - イライラ
薬がないとイライラしてしまい気が動転してしまいます。自分自身がコントロールできなくなり、周りの方についつい強く当たってしまうことがあります。 - 吐き気
向精神薬を一度に服用して中毒になると、胃が異物と認識をして錠剤などを吐き出そうとします。 - 発汗
- 眠気昏睡
上記のような初期症状が現れた場合には救急外来や精神科を受診することが推奨されます。
向精神薬中毒の検査・診断
診断のための検査プロセス
- 面談
診断の第一歩として、医師は患者さんの薬物使用歴について詳しく話を聞きます。これには、使用している薬の種類、量、使用方法、使用を始めた経緯、薬物使用が及ぼす影響などが含まれます。 - 身体検査
身体検査を通じて、薬物使用が患者さんの健康にどのような影響を与えているかを評価します。心拍数、血圧、呼吸パターン、皮膚の状態などがチェックされます。 - 毒物検査
血液検査、尿検査、または髪の毛からの検査を行い、体内の薬物濃度を測定します。これにより、どの薬物がどの程度体内に存在するかが明らかになります。 - 心理的評価
心理的評価を行い、患者さんが薬物依存症の兆候を示しているかどうかを判断します。この評価は、依存症の程度を理解し、治療計画を立てるのに役立ちます。
診断後の対応
正しい診断がなされた後、医師は患者さんに最適な治療計画を提案します。これには薬物依存症の治療を専門とするプログラムへの参加、カウンセリング、および必要に応じて薬物治療が含まれることがあります。
向精神薬中毒の治療
向精神薬中毒は、適切な治療を受けることで克服が可能です。この状態を治療するためのアプローチは多岐にわたり、患者さん一人ひとりの状況に応じてカスタマイズされます。ここでは、向精神薬中毒の治療方法について、患者さんが心地よく感じるよう優しく説明します。
治療の基本的なアプローチ
- 医療的介入
中毒の治療はまず、安全な環境での医療的介入から始まります。胃洗浄や腸洗浄などが挙げられます。 - 行動療法
薬物使用の背景にある行動や心理的な要因を理解し、変化させるためのカウンセリングが行われます。メンタルケアを実践していくため、精神科医との連携も実施致します。 - 医薬品による治療
一部の患者さんには、離脱症状の管理や欲求の抑制を助けるための薬物療法が推奨されることがあります。これには、抗うつ薬や抗不安薬、依存症治療薬が含まれることがあります。また活性炭を用いて中毒を回避する方法があります。
継続的なフォローアップ
治療後のフォローアップは、長期的な回復の鍵です。定期的なカウンセリングセッション、継続的な医療評価、サポートグループへの参加が、再発を防ぐために重要です。また、家族や友人のサポートも、治療過程で重要な役割を果たします。向精神薬中毒の治療は一人ひとりに合わせてカスタマイズされ、各個人のニーズに対応することが大切です。専門の医療チームと協力し、健康な生活への道を歩んでいくことが、治療の成功につながります。
向精神薬中毒になりやすい人・予防の方法
- 長期的な処方利用者
慢性的な痛みや不安障害など、長期間にわたって向精神薬を使用している人は、耐性や依存が発生しやすいです。 - 過去の依存歴がある人
過去にアルコールやほかの薬物依存の経験がある人は、向精神薬にも依存しやすい傾向にあります。 - 心理的ストレスが高い人
職場や家庭での高いストレスにさらされている人は、リラックスを目的として薬を乱用するリスクが高まります。
予防方法
- 医師との適切なコミュニケーション
処方される際は、医師との間で開かれたコミュニケーションを持ち、使用する薬剤の効果、副作用、使用期間の明確な指示を受けましょう。 - 処方指示の厳守
処方された用量と期間を守り、自己判断での用量変更や延長を避けることが重要です。 - 定期的な評価
定期的に医師の評価を受け、必要に応じて治療計画の調整を行うことが助けになります。 - 代替療法の検討
可能な場合、カウンセリングや身体療法など、薬物以外の治療法を取り入れることで、薬への依存を避けることができます。 - サポートシステムの活用
家族や友人、サポートグループからの支援を積極的に求め、ストレス管理や感情のコントロールを学びましょう。
向精神薬中毒は予防が可能です。適切な情報とサポートを持って正しい使い方を心がけることが、依存症を防ぐ鍵となります。もし薬の使用について不安がある場合は、医師や専門家に相談することをおすすめします。
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参考文献




