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解離性障害
伊藤 有毅

監修医師
伊藤 有毅(柏メンタルクリニック)

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専門領域分類
精神科(心療内科),精神神経科,心療内科。
保有免許・資格
医師免許、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医

解離性障害の概要

解離性障害とは、本来であれば統合されている意識とは異なる、変容した意識状態が生じたり、記憶の障害が生じたりする状態です。過去の記憶や、自分が自分であるという感覚(アイデンティティ)、思考、感情、五感、身体のコントロールなどの正常な統合が一部、または完全に失われてしまいます。 具体的な症状は以下の通りです。

  • 健忘 特定の状況や時間の記憶が分断され抜け落ちてしまい、その期間に自分らしくない行動をとります。
  • 体外離脱体験 自身の身体から抜け出して、自分自身を離れた場所から眺めているように感じられます。現実感を失い、夢の中にいるような感覚に陥ります。非現実感が強まり、色彩や立体感も欠落して感じられてしまうことがあります。
  • フラッシュバック 過去の衝撃的な記憶や体験、感情が突然現実感を持って目の前に現れます。
  • 離人感 自分の感情が感じられなくなってしまう、または自分が自分であるという感覚がなくなってしまいます。
  • 想像上の友達 (imaginary companion) 主に幼少の頃、ほかの人に見ることのできない「想像上の友達」を創造して遊び相手、相談相手として接します。

これらの症状は解離性健忘、離人感・現実感消失障害、解離性同一障害(多重人格障害)などに分類されます。これら以外にも大変多く、幅広い症状がみられます。このような解離症状を総合して解離性障害といいます。

解離性障害の原因

解離性障害の原因は以下の3点が示唆されています。

  • 心的外傷(トラウマ)体験 死に直面するような心理的に強い負荷となる災害や事故、暴行、虐待や監禁など。
  • 幼少期における身体的または性的な虐待 特に親または養育者からの虐待を受けることで解離性障害の症状が重くなる傾向があります。
  • 極度のストレス 仕事や人間関係、いじめなどといったストレスにさらされ続けている、または大事な人の死や別れなど過去に体験したストレスも解離性障害の原因となり得ます。

このような心的外傷に関する記憶を欠落させたり、ストレスフルな状況から逃れるために別な人格を創造したりなど、過去の記憶やストレス過多の現実から逃避することで精神的な苦痛を軽減して解放されようとする、心の防衛としての動きが解離を生じさせます。

解離性障害の前兆や初期症状について

解離性障害の前兆や初期症状には以下のようなものがあります。

  • 記憶や時間の欠落 特定の記憶や、重要な出来事、個人的な情報が欠落してしまいます。また時間の感覚が失われ、ある期間の記憶を喪失します。 心的外傷やストレス因に関する記憶のみが限局的に欠落することが多い傾向ですが、稀に自身の名前や経歴の全てを健忘してしまうこともあります。
  • 現実感の喪失 自分が現実に存在しているという感覚が薄れます。自分が自分であるという感覚が薄れ、非現実感が強くなります。自身の感覚も現実感を失い、色彩や立体感もなくなり、周囲の非現実感も強まります。
  • 複数の人格の存在 解離性同一性障害では、一人の人間の中に複数の人格が存在するようになります。 それらの人格が互いにコミュニケーションをとることもありますが、ほかの人格の存在を認識できない場合もあります。

このような症状が現れたときには精神科を受診してください。

解離性障害の検査・診断

問診により、患者さんの心的外傷、ストレス要因、家族の既往歴などを詳しく聞き取ります。それにより喪失された記憶、離人感、異なる人格の存在など、解離性の症状を確認します。また統合失調症や詐病などとの鑑別を行います。 脳の外傷や薬物が原因で解離性障害に似た症状が現れることがあります。MRI検査、脳波検査、血液検査などを用いてそのような身体的要因の可能性を確認することもあります。 また、ほかの人格と医師が直接の接触を試みることもあります。 心理検査も行い多角的に評価をしていきます。

解離性障害の治療

解離性障害は有効な薬はなく、簡単に治療できるものではなく、長期的に治療に取り組むことが重要です。 解離性障害の原因として心的外傷が関わっていることから、心理療法における認知行動療法により、思考や行動を修正する治療が主として行われます。 心理療法の過程において患者さんとの信頼関係を築くことが重要になりますが、とくに解離性障害においては、信頼関係の構築と治療に長い時間を要する傾向があります。

解離性障害の治療は、時間的制約または経済的理由から全ての患者さんが受けられるわけではありません。その際は呼吸法や筋弛緩法などといったリラクゼーション法を用いて、不安やストレスの緩和に努めることもあります。 上記の通り解離性障害に有効な薬剤はないのですが、抗うつ剤や抗不安薬による薬物療法を行うこともあります。 しかし、今現在も高いストレスや暴力などに脅かされている環境下にある患者さんも少なくありません。その場合はその環境からの脱出を先行して行う必要があります。

解離性障害になりやすい人・予防の方法

解離性障害になりやすい人の特徴

解離性障害になりやすい人の特徴は以下の通りです。また、家族に精神疾患の既往があると、リスクが高まります。

  • 心的外傷を持っている人 災害や事故、暴行などの一過性のものから、虐待や監禁など長期に渡る経験などが心的外傷になり得ます。
  • 幼少期に身体的虐待、性的虐待を受けた人 特に親や養育者によって虐待を受けた場合に重症度がひどくなると言われています。
  • 重大なストレスを日常生活で感じている人、または幼少時に与えられた人 仕事や人間関係、重い病気など日常生活においてストレスに晒されている、または大切な人の死や別れなど過去に強いストレスを受けていると解離性障害になりやすくなる傾向があります。

解離性障害の予防法

解離性障害はストレスや、心的外傷を主な原因としています。そのため、過去につらいことがあったり、ストレス過多の環境に置かれている、または過去の衝撃的な記憶が突然現実感を持って現れるといったフラッシュバックの症状を自覚したりしているのであれば、精神科を受診して、医師からの支援を受けることが大事です。また医師に相談した上で、心理士などの専門家によるサポートを受けることも検討しましょう。 しかし、解離性障害は本人が自身の症状に気づかず、病識を持っていないことも多い傾向です。その場合にはご家族や周囲のサポートが必要となります。

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