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伊藤 有毅

監修医師
伊藤 有毅(柏メンタルクリニック)

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専門領域分類
精神科(心療内科),精神神経科,心療内科。
保有免許・資格
医師免許、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医

広場恐怖症の概要

広場恐怖症は不安症群の一つに分類され、特定の場所や状況、それらの認知に対する強い恐怖感や不安感を特徴とします。
例えば、この恐怖感は、パニック発作が発生する可能性や、脱出が困難であったり、助けが得られなかったりするような状況、またはそのような状況を予測することで起こります。
広場と言う名前が含まれていますが、必ずしも広い場所ではありません。
それにより日常生活に大きな支障をきたし、社会的孤立や生活の質の低下を招くこともあります。

広場恐怖症の原因

広場恐怖症の原因は複雑であり、多くの要因が関与しています。

遺伝的要因

遺伝的な素因が広場恐怖症のリスクに影響を与えることがあります。不安症の家族歴がある場合、広場恐怖症の発症リスクが高まります。

環境的要因

幼少期のトラウマやストレスとなった経験が広場恐怖症の発症に寄与することがあります。
例えば、幼少期に虐待やネグレクトを受けた経験がある場合、広場恐怖症のリスクが高まることがあります。

心理的要因

広場恐怖症は、パニック症やその他の不安症と関連して発症することがあります。
過去にパニック発作を経験したことがある人は、その再発を恐れて広場恐怖症を発症することがあります。

脳の化学的要因

セロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質の不均衡が、不安や恐怖感の制御に影響を与えることがあります。

広場恐怖症の前兆や初期症状

広場恐怖症は、特定の「状況」「認知」に対して恐怖や不安を抱き、その場を回避しようとしますが、特定の状況や認知は人によって異なります。
安全な場所(通常は自宅)に逃げることが困難だと思うときなども挙げられます。
多くの場合、公衆の面前で倒れ、孤立無援となることを想像して、通常の人では起こらないような顕著で過剰な恐怖または不安となります。
具体的には広場恐怖症の前兆や初期症状には以下のようなものがあります。

公共の場所への恐怖

店やショッピングモール、映画館、雑踏など公衆の場に入るとき、電車やバス、飛行機といった公共の交通機関を利用するときなどがストレスとなるため、広い空間や人混みを避けるようになります。
そのため、エレベーターを避けて階段を使う、などの恐怖を感じる場所や状況を避けるための行動が増えます。

外出時の強い不安

外出する際に強い不安感や恐怖感が起こることが多くなります。

パニック発作

パニック発作が発生するのではないかという恐怖感が強くなります。
実際にパニック発作が生じることもあります。
パニック発作を伴う場合は、恐怖症の重症さの現れとも言われています。

社会的孤立

恐怖感から、結果として社会的な活動を避けるようになり、友人や家族との交流が減少します。

このような症状が現れた際は心療内科、精神科を受診しましょう。

広場恐怖症の検査・診断

広場恐怖症の診断は、臨床面接、心理検査、医療歴の評価などを通じて行われます。
正確な診断を行うためには多面的なアプローチが必要です。
以下に、広場恐怖症の診断方法を説明します。

臨床面接

症状の評価

精神科医や心理カウンセラーなどが患者さんと面接を行い、具体的な症状、発症時期、頻度、持続時間、症状の重症度などを評価します。

家族歴および医療歴の確認

広場恐怖症のリスクを評価するために、家族歴や過去の医療歴についても質問します。
不安症やパニック症の家族歴があるかどうか、過去にパニック発作を経験したことがあるかどうか、などを確認します。

生活歴の調査

幼少期のトラウマやストレスフルな出来事、現在の生活環境やストレス要因についても詳細に調査されます。

心理検査(広場恐怖症尺度)

広場恐怖症の症状の重症度を評価するための自己報告式の質問票です。
患者さんが経験する不安や恐怖の具体的な状況、頻度、強度を評価します。

補助的な検査

広場恐怖症の診断を行う際には、ほかの身体疾患(甲状腺機能異常や心臓疾患など)を除外するための身体検査や血液検査も行われることがあります。

診断基準

広場恐怖症の診断には、DSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル第5版)やICD-10(国際疾病分類第10版)の診断基準が用いられていました。
近年、DSM-5-TRICD-11が発表されており今後はその診断基準が使われるようになると考えられますが、以下では現在広く使われているDSM-5ICD-10を引用します。

DSM-5 診断基準

  • 特定の場所や状況に対する強い恐怖または不安
  • その状況を避ける、または強い不安を感じながら耐える
  • 恐怖や不安が過度であり、実際の危険や社会的・職業的機能に重大な影響を与える
  • 症状が6か月以上持続する
  • ほかの精神障害や身体疾患では説明できない

ICD-10 診断基準

  • 公共の場所や広い空間に対する恐怖または不安
  • 恐怖が過度であり、日常生活に重大な影響を与える
  • 症状が6か月以上持続する
  • ほかの精神障害や身体疾患では説明できない

広場恐怖症の治療

広場恐怖症の治療は、主に心理療法薬物療法の二本柱で行われます。

心理療法(認知行動療法)

認知行動療法は、広場恐怖症の治療に最も効果的とされる方法です。
患者さんの思考パターンと行動に焦点を当て、以下のような技法を用います。

認知再構成

患者さんが持つ不適応な思考(例えば、「外出すると必ずパニック発作が起こる」など)を特定し、それを現実的で適応的な思考に変える手助けをします。

曝露療法

患者さんが恐怖を感じる状況に段階的に直面させる技法です。
曝露は、実際の状況やイメージトレーニングを通じて行われます。
これにより、恐怖感を減少させ、回避行動を減らすことが目指されます。

リラクゼーション技法

ストレスや不安を軽減するために、深呼吸、筋弛緩法、瞑想などのリラクゼーション技法を教えることがあります。

眼球運動による脱感作と再処理法(EMDR)

特にトラウマが原因となっている場合に有効な治療法です。

マインドフルネスに基づくストレス低減法(MBSR)

マインドフルネスは、現在の瞬間に集中し、評価せずに受け入れることを促進します。
MBSRは、不安やストレスを軽減し、心理的な柔軟性を高めるために用いられます。

薬物療法

広場恐怖症の薬物療法では、以下の薬剤が使用されます。

選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)

SSRIは、うつ病や不安症の治療に広く用いられる抗うつ薬です。
広場恐怖症においても、パニック発作や慢性的な不安を軽減するために使用されます。

セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)

SNRIもSSRIと同様に、不安やパニック症状を軽減するために使用されます。

ベンゾジアゼピン

ベンゾジアゼピンは、短期間で強力な不安軽減効果を持つ抗不安薬です。
ただし、依存性があるため、長期使用は推奨されません。

補助的な治療法

広場恐怖症の治療には、心理療法と薬物療法に加えて、以下の補助的な治療法が用いられることがあります。

グループ療法

同じような経験を持つほかの患者さんと交流し、相互支援を通じて不安を軽減することができます。
経験を共有することで孤立感を減少させ、共感と支援を得ることができます。

広場恐怖症になりやすい人・予防の方法

広場恐怖症になりやすい人として、以下の要因が挙げられます。

家族歴がある人

不安症やパニック症の家族歴がある場合、広場恐怖症のリスクが高まります。

過去にトラウマを経験した人

幼少期の虐待や重大なストレスイベントを経験した人は、広場恐怖症を発症しやすいです。

神経質な性格の人

高い神経質傾向を持つ人は、不安症全般にかかりやすいです。

広場恐怖症の予防には、以下の方法が推奨されます。

ストレス管理

ストレスを適切に管理するためのスキルを学び、実践することが重要です。
リラクゼーション法やストレスマネジメントのテクニックを取り入れることが推奨されます。

早期介入

不安やパニック発作の初期症状が見られた場合、早期に医師などの助けを求めることが重要です。
早期介入は、症状の進行や悪化を防ぐために効果的です。

サポートネットワークの構築

家族や友人、支援グループと良好な関係を築くことで、広場恐怖症の発症リスクを低減できます。
心理的なサポートを受けることが、症状の予防に役立ちます。

参考文献

この記事の監修医師