

監修医師:
伊藤 有毅(柏メンタルクリニック)
精神科(心療内科),精神神経科,心療内科。
保有免許・資格
医師免許、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医
目次 -INDEX-
ギャンブル依存症の概要
ギャンブル依存症とは、競馬やパチンコ、宝くじ、カジノなどのいわゆる賭け事に対する欲求が抑えられなくなる病気のことです。
「ギャンブル」の定義は、あるものを賭けてより価値のあるものを手に入れる行為のことです。
現在、日本国内で主にギャンブルとみなされているものには、競馬、競艇、競輪、オートレースの公営ギャンブル、宝くじやスポーツくじ、パチンコ、スロットなどの遊戯があります。
このほか、金銭や物品などを賭けて行う麻雀やルーレット、バカラ、ポーカーなどのゲームもギャンブルと言えますが、これら非合法なギャンブルは刑法185条、186条で犯罪行為と規定されています。
ギャンブル依存症の患者さんは、賭け事にのめり込むあまり社会的、経済的に支障をきたしているにも関わらず、自らの意思ではギャンブルをやめられなくなる恐ろしい病気と言えます。
厚生労働省の調査によると、日本国内でギャンブル依存が疑われる人数は推計で320万人ほどと言われています。
また、最近では海外の事業者が提供しているインターネット上のオンラインカジノ利用者もコロナ禍における外出自粛を背景に利用者が増加しており、さらなるギャンブル依存症患者の増加が懸念されています。
ギャンブル依存症の原因
では、ギャンブル依存症の原因は何なのでしょうか?
ギャンブル依存症の発症メカニズムははっきりしていません。
ですが、ギャンブルを引き金に脳内の報酬系と呼ばれる部位に異常が生じることが原因とみなされています。
アルコールや薬物への依存症との共通点も多く、神経科学の観点からも研究が進められています。
脳内報酬系とは、私たちが喜びや幸福感、快感を感じる脳の部位であり、この領域からはドーパミンという神経伝達物質が放出されます。
ギャンブルを繰り返すことで、脳内報酬系はギャンブルによって得られる喜びに対して感度を失い、常にギャンブルを求め、より強い刺激や報酬を欲する衝動に駆り立てられるようになります。
さらに、食事や他のレクリエーションなど、日常生活で楽しむことができた事柄に対する喜びを感じる能力も低下します。その結果、日常生活がギャンブルを中心に展開するようになると考えられています。
ギャンブル依存症の前兆や初期症状について
ギャンブル依存症の前兆や初期症状に明確な規定はありませんが、依存症の特徴として、仕事中などでもギャンブルのことが気になる、ギャンブルをしないと落ち着かない、負けたお金をギャンブルで取り返そうとする、周囲への噓、借金を重ねる、などの行動が挙げられます。
ギャンブルを行う人すべてにギャンブル依存症の可能性があります。
趣味として費やす時間やお金をコントロールでき、適切に楽しむ程度であれば問題ありませんが、生活の中でギャンブルの占める割合が多くなってくると要注意です。
当たりを引いた時の快感や高揚感によって脳内の報酬系が刺激され、依存症へとつながっていきます。
脳や精神の分野となりますので、治療の際は精神科、心療内科を受診してください。
また、医療機関によっては依存症専門の科を設置しているところもあります。
ギャンブル依存症の検査・診断
ギャンブル依存症の検査、診断においては、対象者が普段どのくらいギャンブルを行っているか、日常生活にどの程度の影響を及ぼしているか、ギャンブルに臨む際の心理的状況はどのようなものか、といった点をヒアリングし、必要に応じて脳の状態をCT検査などで調べる場合もあります。
また、いくつかの項目に回答することでギャンブル依存症の可能性を判定できるスクリーニングチェックもあります。
代表的なものにDSM-5アメリカ精神医学会作成の心の病気に関する診断基準)、SOGS(サウスオークス・ギャンブリング・スクリーン、アメリカのサウスオークス財団が開発したスクリーニングテスト)、カナダの博士らによって開発されたPGSI、日本で開発されたLOSTと呼ばれる簡易テストなどがあります。
以下に一部を引用して紹介しますので、思い当たる方、身の回りにギャンブル依存症が疑われる方がいる場合など、参考にしていただければ幸いです。
DSM-5の診断基準
- 1時間だけ楽しもうと思っていたのに、気が付くと半日経っている
- 「もう1回やれば当たりがくるはず」と何度も挑戦してしまう
- 終業時間が近づくとパチンコがしたくて落ち着かない
- ギャンブルで失ったお金はギャンブルで手っ取り早く取り戻したい
- 財布のお金が無くなると、わざわざ銀行やATMまでお金をおろしに行く
- 身内や知人から嘘をついてまでお金を借りる
- パートナーから離婚話を持ち掛けられてもギャンブルを続けてしまう
- この先のお金のやりくりのことが心配になり、仕事や日々の活動に手が付かないときがある。
- 絶望的な気分になり死ぬことを考えることがある
LOST
- ギャンブルをするときには予算や時間の制限を決めない、決めても守れない(Limitless)
- ギャンブルに勝ったときに「次のギャンブルに使おう」と考える(Once again)
- ギャンブルをしたことを誰かに隠す(Secret)
- ギャンブルに負けたときにすぐに取り返したいと思う(Take money back)
※2つ以上当てはまるとギャンブル依存症の可能性があります
ギャンブル依存症の治療
ギャンブル依存症の治療では主に精神療法が用いられます。
代表的なものが認知行動療法で、特定の行動に結びついた考え方の癖や認知を正していく訓練を行います。
ほか、専門的な治療、相談と併せて、自助グループへの参加も有効です。
自助グループとは、特定の問題を抱える人たちが集まり、相互理解や支援をし合うグループのことです。
同じ問題を抱えている人たちが対等な立場で話ができるため、参加者の孤立感の軽減に役立ち、安心して感情を吐き出すことで自身の気持ちを整理することができます。
さらに、グループの参加者が回復していく様子を見て希望を持つことで、回復へのモチベーションが維持できるといった効果が期待できます。
また、ギャンブル依存症の患者さんはうつや不安障害、他の依存症(アルコールや薬物)を併存していることもありますので、それらの疾患の治療が必要な場合もあります。
ギャンブル依存症になりやすい人・予防の方法
ギャンブル依存症は複数の要因が合わさって発症すると考えられており、明確な原因があるとは言えないのが現状です。
ですが、発症の原因に挙げられている要素としては、以下のようなものがあります。
- 家族にギャンブル依存症の患者さんがいる
- 家族にギャンブル依存症の患者さんがいる
- 幼少期、青年期のギャンブル体験
- ギャンブルにアクセスしやすい環境下にある
- 過去にギャンブルで大勝ちした体験がある
- 性格的に衝動性が高い
このほか、アルコールや薬物への依存がある、うつ、ADHDといった精神疾患、発達障害を持つ人の中にはギャンブル依存症を抱えている人がおり、また、パーキンソン病の治療を受けている人は薬の副作用でギャンブル依存が見られることもあります。
予防策としては、やはりギャンブルにアクセスできない環境を作ることです。
本人に自覚がない場合もありますので、周囲の人が気づいた段階でギャンブルから遠ざける、治療や専門機関への相談へ促すことも大切です。
ギャンブル依存症は放置するとその後の人生に多大な損害を及ぼす恐れのある病気です。
本人やその家族も含めて、個人、身内の問題と抱え込まずに早めに周囲に助けを求め、適切な行動を取るようにしてください。
参考文献




