

監修医師:
伊藤 有毅(柏メンタルクリニック)
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専門領域分類
精神科(心療内科),精神神経科,心療内科。
保有免許・資格
医師免許、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医
精神科(心療内科),精神神経科,心療内科。
保有免許・資格
医師免許、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医
不安障害の概要
不安障害は、人間が本来持つべき正常な不安反応が、長期間にわたって日常生活に支障をきたす状態を指します。具体的には、動悸や呼吸困難、めまい、不眠、イライラなどの身体症状を伴う不安発作(パニック発作)を引き起こすことがあります。不安障害には、社交不安障害、全般性不安障害、パニック障害などが含まれ、それぞれ症状の周期や強度が異なります。 不安障害の診断基準は、米国精神医学会のDSM-5やWHOのICD-10に基づいており、過剰な不安と心配が持続し、生活の質に重大な影響を及ぼす場合に診断されます。不安障害の原因
不安障害の原因はいまだに解明されていませんが、いくつかの主要な要因が関与していると考えられています。まず、遺伝的要因が大きな影響を持つことが示唆されています。家族に不安障害の方がいる場合、発症リスクが高まります。また、脳の神経伝達物質の異常も関与しています。セロトニンやノルアドレナリンといった神経伝達物質のバランスが崩れることが、不安障害の発症に寄与するとされています。 さらに、環境的要因として、幼少期のトラウマやストレスフルな出来事が、後の不安障害の発症に深く関わっていることが多いようです。これには、虐待やいじめ、家庭内不和などが含まれます。また、現代社会の過度のストレスや競争、情報過多なども不安障害を引き起こす一因とされています。 加えて、生理的な要因として、自律神経系の異常が挙げられます。不安障害の患者さんは、交感神経が過剰に活動することが多く、動悸や発汗、息切れなどの身体症状を引き起こします。全般性不安障害(GAD)の患者さんでは、持続的な緊張感や疲労感、集中力の低下などが特徴的です。 心理的要因も無視できません。不安障害の患者さんは、ネガティブな思考パターンや過度の心配を持つ傾向があります。例えば、社交不安障害では、自身が周囲から否定的に評価されるという恐怖が根底にあり、人前での行動に強い不安を感じるようになります。不安障害の前兆や初期症状について
身体的な前兆として、動悸、息切れ、発汗、手足の震え、めまい、頭痛、胃腸の不調などが挙げられます。これらの症状は、パニック発作として急に現れることもあり、息苦しさや窒息感、胸痛などの強い身体的症状が伴う場合もあります。また、長期間にわたる慢性的な不安は、筋肉の緊張や慢性的な疲労感として現れることもあります。 精神的な前兆として、集中力の低下、イライラ感、過敏な反応、睡眠障害などが見られます。特に睡眠障害は、入眠困難や中途覚醒、早朝覚醒という形で現れ、不安感をさらに増幅させる悪循環に陥ることが多いようです。また、常に悪いシナリオを考え、過度に心配することで、日常生活での決断や行動が制限されることも少なくありません。 不安障害の前兆は、患者さんが日常生活のなかで過度な心配や不安感を抱くことが特徴です。仕事や学業、家庭生活、人間関係など多岐にわたる事柄が含まれ、その不安は現実のリスクをはるかに超えることがしばしばです。 上記の症状が見られた場合、まずは内科や心療内科、精神科を受診しましょう。内科では、身体的な疾患が不安の原因でないかを確認するための検査が行われますが、異常が見つからない場合は、心療内科や精神科での精査が必要となります。精神科では、患者さんの詳細な病歴や症状をもとに、適切な診断と治療方針が立てられます。不安障害の検査・診断
不安障害の検査および診断は、詳細な病歴聴取と身体検査を基盤としています。まず、患者さんの主訴およびこれまでの生活面での不安による影響を詳しく聴取することが重要です。どのような場面で不安を感じるのか、頻度や強度、不安がどの程度日常生活に支障をきたしているかを評価します。 身体的検査として、甲状腺機能異常や、ほかの内科的疾患が不安症状の原因でないことを確認するため、血液検査や尿検査が行われます。さらに、必要に応じて頭部CTやMRI、脳波検査などの画像診断を行い、脳の器質的な異常を排除します。自律神経失調症のような症状が現れる場合、これらの検査は重要です。 精神的評価には、診断面接や標準化された心理テストが用いられます。診断面接では、米国精神医学会のDSM-5(診断と統計マニュアル第5版)やWHOのICD-10(国際疾病分類第10版)などの診断基準に基づき、患者さんの症状を詳細に評価します。具体的には、6ヵ月以上続く過剰な不安や心配、これに伴う身体症状(例えば、筋肉の緊張、疲労感、集中力の低下、睡眠障害など)が診断の基準となります。 また、薬物の使用歴や過去の精神科的治療歴も重要な情報となります。特に、ベンゾジアゼピン系薬物や抗うつ薬の使用は、依存や耐性のリスクを考慮しなければなりません。不安障害の治療
不安障害の治療は、主に薬物療法と認知行動療法の二つの柱で構成されています。 薬物療法では、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)が第一選択薬として使用されます。これらの薬剤は、脳内の神経伝達物質セロトニンやノルアドレナリンのバランスを調整し、不安症状を軽減します。SSRIにはパロキセチン、セルトラリン、エスシタロプラムなどがあり、SNRIにはデュロキセチンやベンラファキシンがあります。これらの薬剤は、効果が現れるまでに数週間を要するため、即効性を期待する場合にはベンゾジアゼピン系抗不安薬が短期間併用されることがあります。ただし、ベンゾジアゼピン系は依存性や耐性のリスクがあるため、長期使用は避けるべきです。 認知行動療法(CBT)は、心理療法の一種であり、不安を引き起こす思考パターンや行動パターンの修正を目指します。具体的には、患者さんが抱える不安の原因や認知の歪みを明確にし、現実的なものに再構築することで症状の改善を図ります。心理教育、リラクゼーション技法、暴露療法、認知再構成法など多岐にわたる技術を組み合わせて行われます。暴露療法は、不安を感じる状況に徐々に慣れさせることで、回避行動を減らし、不安に対する耐性を高めることを目的とします。 このように、不安障害の治療では、患者さんの症状の重症度や生活背景、ほかの併存疾患の有無を考慮して個別化された治療計画が必要です。治療の初期段階では、症状の緩和を目指し、薬物療法とCBTの併用が推奨されることが多いようです。治療が進むにつれて、患者さんの機能回復とQOLの向上を目指し、長期的なサポートが行われます。不安障害になりやすい人・予防の方法
不安障害のなりやすさには、性別の違いが影響します。女性は男性よりも不安障害を発症しやすいとされています。ホルモンバランスの変動や社会的な役割の違いなどが影響しているためです。また、神経質で感受性が高い性格の方もリスクが高いとされています。こうした方は、環境の変化やストレスに対して敏感に反応しやすく、結果として不安障害を発症することが多いようです。 さらに、家族に不安障害やほかの精神疾患の既往がある場合、リスクが高まります。なかでも、幼少期の経験も大きな影響を与えます。過保護や逆境、虐待などのストレスフルな環境で育った場合、成人後に不安障害を発症しやすくなります。 不安障害の予防には、ライフスタイルの改善が有効です。まず、規則正しい生活リズムを保つことが重要です。十分な睡眠、バランスの取れた食事、適度な運動は、精神的な安定化を助けます。また、リラックスする時間を持つことも大切です。趣味やアート活動、自然のなかでの時間など、リラックスできる活動を取り入れることで、ストレスを軽減し、不安を予防できます。 以上のように、不安障害はさまざまな要因が関与する複雑な疾患ですが、適切な生活習慣と心理的サポートを通じて、リスクを低減できるでしょう。参考文献




