目次 -INDEX-

適応障害
伊藤 有毅

監修医師
伊藤 有毅(柏メンタルクリニック)

プロフィールをもっと見る
専門領域分類
精神科(心療内科),精神神経科,心療内科。
保有免許・資格
医師免許、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医

適応障害の概要

適応障害は、ストレスによって、気分の落ち込み、意欲低下、不眠や身体症状が出現している状態で、よく見られる疾患の一つです。
医学的には、個人的不幸・心理社会的ストレス因子に対する短期間の不適応反応のことで、ストレス性障害の一つです。
ストレスになっている原因が消失すれば、状態は速やかに改善すると考えられます。
アメリカの診断基準(DSM-5)では、症状はストレス因子の始まりから3ヵ月以内に出現し、ストレス因子の消失後6ヵ月以内に改善するとされています。
また、ストレスの原因が持続する場合には、適応障害も引き続き持続します。

適応障害の原因

適応障害は、外因的および内因的要因の組み合わせによって引き起こされます。外因的要因としては、職場、学校、家庭での環境変化や人間関係の悪化、親しい人との死別や健康問題などが挙げられます。このような要因は、個人にとって大きなストレス源となり、些細な出来事でも重大な心理的影響を与えることがあります。なかでも、死別反応と適応障害は区別が必要であり、死別反応は想定される範囲内での反応ですが、適応障害はそれを超えた反応を示します。

一方、内因的要因としては、個々の性格やストレス耐性が関与します。すべての方が同じ状況下でストレスを感じるわけではなく、耐性の低い方は些細なストレスでも適応障害を発症しやすいとされています。また、社会的なサポートの有無も大きな影響を与え、支援が少ない環境ではストレスの影響を受けやすくなります。

適応障害の前兆や初期症状について

適応障害の前兆として、日常の小さな変化や出来事に対する過剰なストレス反応が見られます。例えば、仕事や学校での些細なミスに対して強い心配を抱えたり、小さな人間関係のトラブルに感情的に反応したりすることが一例です。これに加えて、常に疲れを感じる状態や集中力の低下が続くことも、適応障害の警告信号となり得ます。

初期症状は精神的および身体的な側面から幅広く現れます。精神的な症状では、抑うつ気分が顕著であり、些細なことで涙もろくなることがあります。また、不安感が強まり、理由なく焦燥感や過剰な心配を常にするようになります。イライラが増し、小さなことに対しても怒りやすくなります。これにより、仕事や勉強への集中が困難になり、興味や意欲の低下も起こります。

身体的な初期症状としては、不眠が代表的です。入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒などの睡眠障害が生じやすく、日中の疲労感も増します。無関係に感じられる頭痛や消化器系のトラブルも起こりやすく、腹痛や下痢、便秘などが突然に発生することもあります。さらに、動悸や胸の締め付け感が伴うことがあり、全身の倦怠感や重だるさが長期間続くこともあります。

適応障害の初期症状が現れた場合、精神科または心療内科の受診が推奨されます。気分の落ち込みや意欲の低下がある場合は精神科、身体的な症状や食欲不振や倦怠感が主な場合は心療内科を選んでください。

適応障害の検査・診断

適応障害の診断には、精神障害の診断とDSM-5が用いられます。この基準により、患者さんが直面しているストレス因子に対する反応の度合いとその影響を評価します。

ストレス因子に対する反応の評価:患者さんは、ストレス因子にさらされた後、3ヵ月以内に感情面または行動面での症状を示す必要があります。これらの症状は、ストレスの原因に不釣り合いな程強い苦痛を伴うことが一般的です。

機能の障害:症状は、社会的、職業的、またはほかの重要な生活領域での機能の重大な障害を引き起こす必要があります。機能障害は、日常生活の質に直接影響を与え、患者さんの能力を低下させることがあります。

ほかの精神疾患との鑑別:適応障害の診断は、うつ病や心的外傷後ストレス障害(PTSD)など、ほかの精神疾患の基準を満たしていない場合に限定されます。また、正常な死別反応とも異なる必要があります。

症状の持続性:ストレスの原因が解消された場合、症状は6ヵ月以内に消失することが期待されます。これは適応障害の特徴的な側面であり、症状の一時的な性質を反映しています。

診断プロセスには、患者さんからの詳細な情報収集と観察が含まれ、必要に応じて心理検査や評価スケールが使用されることがあります。適応障害は、適切な支援と治療により改善するため、早期の診断と介入が重要です。

適応障害の治療

適応障害の治療は、主にストレス因子の除去や環境調整、個人のストレス耐性の向上を目指します。具体的には、暴力的な関係からの離脱支援のように、明らかなストレスの原因を取り除く方法が含まれます。しかし、ストレスの原因が家族など離れることが難しいものの場合、異なるアプローチが必要です。

ストレス耐性は個人差があるため、治療は患者さんの適応力を高めることにも焦点を置きます。認知行動療法をはじめとするカウンセリング技法が適しており、患者さんがストレス因子をどのようにとらえているかを理解し、適応する新しい方法を学びます。また、問題解決療法を通じて、現在抱える問題に対して具体的な解決策を共同で模索します。

適応障害の治療では薬物療法は優先されませんが、感情や行動に重大な支障をきたしている場合には抗不安薬や睡眠導入薬、抗うつ薬を使用することもあります。薬物療法は症状の緩和を図り、患者さんが日常生活をより良く送れるよう支援します。しかし、対症療法に過ぎず、根本的な解決には至らないため、環境調整やカウンセリングと併用することがあります。

治療の一環として、患者さんの置かれている環境を詳細に評価し、必要に応じて家族や職場の方たちも巻き込んでサポート体制を整えることが重要です。また、自宅での静養が改善につながる場合もあり、環境調整の一環として考慮されることもあります。

適応障害のなりやすい人・予防の方法

適応障害は、個々の性格特性やストレス耐性によって発生しやすさが異なります。なかでも発症しやすい方の特徴として、責任感が強く真面目な性格、完璧主義、人の目を気にする心配性、感情的に傷つきやすく落ち込む傾向、変化に慣れるまで時間がかかる繊細さ、助けを求めるのが苦手などがあります。これらの特性を持つ方は、ストレスを一人で抱え込んだり、過度にプレッシャーを感じやすい傾向にあります。

適応障害の予防には、ストレスを適切に管理することがとても重要です。日常生活や仕事でのストレスは避けられないものですが、ストレス解消法を見つけ、十分な睡眠とバランスの取れた食事を心がけることが基本です。また、ご自身のストレス耐性を高めるために、定期的にリラクゼーション時間を設けることもおすすめです。

さらに、環境が過度のストレスを引き起こしている場合は、環境を変更することも検討する必要があります。例えば、職場のストレスが原因であれば、適切な休暇を取る、仕事の負担を減らす、あるいは職場を変えることが推奨されています。また、個人の考え方やとらえ方を変えることで、ストレスに対する反応を改善することも可能とされています。認知行動療法やリワークプログラムなど、専門的な支援を受けることで、自己理解を深め、適応力を育てられます。

最終的に、「自身を大切にする」という姿勢を持つことが、精神的な健康を保つうえで重要です。自身の心に耳を傾け、必要なサポートを得ながら、ストレスフルな環境に対応していくことが、適応障害の予防につながります。


この記事の監修医師