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パニック障害
大迫 鑑顕

監修医師
大迫 鑑顕(医師)

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千葉大学医学部卒業 。千葉大学医学部附属病院精神神経科、袖ヶ浦さつき台病院心療内科・精神科、総合病院国保旭中央病院神経精神科、国際医療福祉大学医学部精神医学教室、成田病院精神科助教、千葉大学大学院医学研究院精神医学教室特任助教(兼任)、Bellvitge University Hospital(Barcelona, Spain)。主な研究領域は 精神医学(摂食障害、せん妄)。

パニック障害の概要

パニック障害(パニックしょうがい)は、突然の強い不安や恐怖に襲われるパニック発作を繰り返す不安障害の一種です。パニック発作は、動悸、息切れ、めまい、発汗、窒息感、胸痛などの身体症状を伴い、発作が起こると「死んでしまうのではないか」「気が狂ってしまうのではないか」といった強い恐怖を感じます。発作は通常、数分から30分程度で治まりますが、その後も「また発作が起こるのではないか」という予期不安が続き、日常生活に大きな支障をきたすことがあります。

パニック障害の原因

パニック障害の原因は完全には解明されていませんが、以下の要因が関与していると考えられています。

脳内神経伝達物質の異常

セロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質のバランスが崩れることが関与しています。これらの物質は、脳内で情報を伝達する役割を果たしており、そのバランスが崩れると不安や恐怖が過剰に反応することがあります。

心理的要因

強いストレスやトラウマ、過度の心配や不安が引き金となることがあります。例えば、幼少期の虐待や親との離別、重大な生活の変化などが心理的ストレスとなり、パニック障害の発症リスクを高めることがあります。

身体的要因

過労、睡眠不足、カフェインやアルコールの過剰摂取などが発症を誘発することがあります。これらの要因は、身体の疲労や神経系の過敏性を高め、パニック発作を引き起こしやすくします。

パニック障害の前兆や初期症状について

パニック障害の初期症状としては、以下のようなものが挙げられます。

動悸
心臓が激しく鼓動する感覚。これは、急激な不安や恐怖に対する身体の反応であり、心拍数の急上昇によって引き起こされます。
息切れ
呼吸が苦しくなる。過呼吸状態に陥ることが多く、これにより酸素と二酸化炭素のバランスが崩れ、さらなる不安を引き起こします。
めまい
ふらつきや気が遠くなる感じ。脳への血流が一時的に減少することが原因とされています。
発汗
冷や汗をかく。急激な不安や恐怖に対する身体の反応として、汗腺が活発に働きます。
窒息感
息が詰まる感じ。喉や胸の圧迫感が強まり、呼吸が困難に感じられます。
胸痛
胸の痛みや圧迫感。心臓発作と誤解されることもありますが、パニック発作によるものです。
吐き気
胃の不快感や嘔吐感。消化器系が影響を受けることで、吐き気や胃の不快感が生じます。
手足の震え
震えやしびれ。過度の緊張や不安により、筋肉が震えることがあります。
非現実感
現実感がなくなる、周囲がぼやける感じ。自分が現実から切り離されたように感じることがあります。
死の恐怖
死んでしまうのではないかという強い恐怖。これが最も特徴的な症状であり、パニック発作の核心的な要素です。

これらの症状は、突然発生し、通常は10分以内にピークに達します。発作が収まった後も、再発への不安が続くことが多い傾向です。

パニック障害の前兆や初期症状が見られた場合に受診すべき診療科は、精神科や心療内科です。パニック障害は突然の強い不安発作を特徴とし、精神科・心療内科で診断と治療が行われています。

パニック障害の検査・診断

パニック障害の診断は、主に患者さんの症状と病歴に基づいて行われます。具体的な検査としては、以下のものがあります。

診断基準

精神科臨床では、一般的にDSM-5(アメリカ精神医学会)やICD-10(世界保健機関(WHO))などの診断基準を用いて、診察、診断を行いますが、ここではDSM-5に示されている診断基準を紹介します。以下の13の症状のうち4つ以上が突然発生し、10分以内にピークに達する場合、パニック発作と診断されます。

  • 動悸・心悸亢進
  • 発汗
  • 震え・身震い
  • 息苦しさ
  • 窒息感
  • 胸痛・胸部の不快感
  • 吐き気
  • めまい・気が遠くなる感じ
  • 身体がしびれたり、ジンジンする異常感覚
  • 熱感・冷感
  • コントロールを失うことに対する恐怖
  • 死の恐怖
  • 非現実感・現実感喪失

パニック発作が繰り返し起こり、「また発作が起こるのではないか」という不安や、発作に関連する行動を避けるようなことが1ヶ月以上続くと、パニック障害と診断されます。

身体検査

パニック発作の症状はほかの身体疾患と類似しているため、病状や経過に応じて医師の判断で心電図や血液検査、胸部X線などの身体検査を行い、ほかの疾患を除外します。これらにより、心臓疾患や呼吸器疾患などの身体疾患の可能性を精査します。

パニック障害の治療

パニック障害の治療は、主に以下の方法で行われます。

心理療法

心理療法はパニック障害の治療に効果が期待されますが、その技法の一つである認知行動療法(CBT)は特に、パニック障害の治療において効果的とされています。CBTでは、以下のような技法が用いられます。

認知再構成
不安や恐怖を引き起こす思考パターンを特定し、それを現実的で適応的な思考に置き換えます。患者さんは自分の思考がどのように感情や行動に影響を与えるかを理解し、より健康的な思考パターンを身につけます。
曝露療法
安全な環境で徐々に恐怖の対象に直面させることで、不安を減少させます。患者さんは恐怖の対象に対する耐性を高め、回避行動を減少させることができます。
リラクゼーション技法
深呼吸や筋弛緩法などを用いて、身体的な緊張を緩和します。身体的な不安症状を軽減し、ストレスレベルを下げます。

薬物療法

薬物療法は、パニック発作の頻度や強度を減少させるために使用されます。主に以下の薬剤が使用されます。

SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
セロトニンの再取り込みを阻害し、脳内のセロトニン濃度を高めることで、不安を軽減します。効果が出るまでの期間は個人差がありますが、最低でも1~2週間かかることがあります。
ベンゾジアゼピン系抗不安薬
比較的、即効性があり、急性のパニック発作を抑えるために使用されることがありますが、依存性や耐性などの副作用の指摘があるため、使用されるとしても短期間の使用であることが多いです。

その他にも、病状に応じて漢方やその他の種類の向精神薬が処方されることがあります。

ライフスタイルの改善

パニック障害の治療には、生活習慣の改善も重要です。以下のような方法が推奨されます。

規則正しい生活
十分な睡眠とバランスの取れた食事を心がけます。身体のリズムが整い、ストレスに対する耐性が高まります。
適度な運動
有酸素運動を定期的に行うことで、ストレスを軽減します。運動はエンドルフィンの分泌を促し、気分を改善します。
カフェインやアルコールの制限
これらの物質は不安を増幅させ、パニック発作の症状を長続きさせてしまう可能性があるため、摂取を控えることが望ましいです。特にカフェインは神経系を刺激し、パニック発作を引き起こしやすくします。

パニック障害になりやすい人・予防の方法

パニック障害になりやすい人の特徴

パニック障害になりやすい人には、以下のような特徴があります。

不安や恐怖心が強い
もともと不安を感じやすい性格の人。これにより、ストレスやプレッシャーに対する反応が過剰になりやすいです。
ストレスに弱い
ストレス対処能力が低い人。ストレスに対する耐性が低いと、パニック発作を引き起こしやすくなります。
過去にトラウマがある
過去に強いストレスやトラウマを経験したことがある人。トラウマは長期的に心理的な影響を及ぼし、パニック障害のリスクを高めます。

予防の方法

パニック障害の予防には、以下の方法が有効です。

ストレス管理
リラクゼーション技法や趣味を通じてストレスを軽減します。日常のストレスに対する耐性が高まり、パニック発作のリスクが減少します。
健康的な生活習慣
規則正しい生活、適度な運動、バランスの取れた食事を心がけます。身体の健康が保たれ、精神的な安定が得られます。
カフェインやアルコールの制限
これらの物質は不安を増幅させる可能性があるため、摂取を控えます。
心理的サポート
不安やストレスを感じたら、早めに専門家に相談します。心理的サポートを受けることで、ストレスや不安に対する対処法を学び、パニック発作のリスクを減少させることができます。

パニック障害は適切な治療と予防策を講じることで、症状をコントロールし、日常生活を取り戻すことが可能です。早期の診断と治療が重要ですので、症状に気づいたら専門家に相談することをおすすめします。

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