監修医師:
舘野 歩(東京慈恵会医科大学附属病院)
自己愛性パーソナリティ障害の概要
自己愛性パーソナリティ障害(NPD: Narcissistic Personality Disorder)は、自己の重要性を過度に感じ、他者からの賞賛を強く求め、共感の欠如を特徴とする精神疾患です。
NPDの患者さんは、自分が特別であり、ほかの特別な人々や高い地位の人々とだけ関わるべきだと信じています。また、過度の賞賛を求め、他者を利用する傾向があります。
自己愛性パーソナリティ障害の原因
NPDの原因は完全には解明されていませんが、遺伝的要因、環境要因、心理的要因が関与していると考えられています。
遺伝的要因
遺伝的要因として、NPDは家族内で遺伝する可能性があることが示されています。親や兄弟姉妹にNPDやほかの精神疾患がある場合、その子どもがNPDを発症するリスクが高まります。
環境要因
環境要因として、幼少期の経験がNPDの発症に寄与することがあります。以下のような経験がリスク要因とされています。
過度の賞賛
親や養育者から過度に賞賛されること。
過度の批判
親や養育者から過度に批判されること。
トラウマや虐待
幼少期にトラウマや虐待を経験すること。
心理的要因
心理的要因として、自己評価の不安定さや過度の自己防衛がNPDの発症に関与していると考えられています。
自己愛性パーソナリティ障害の前兆や初期症状について
NPDの前兆や初期症状には以下のようなものがあります
自己の重要性の誇張
NPDの患者さんは、自分の業績や才能を誇張し、他者からの認識を求めます。これにより、自己評価が過度に高くなります。例えば、仕事や学業での成功を過度に強調し、自分が他者よりも優れていると感じることが多い傾向です。
無限の成功、権力、美しさ、理想的な愛に対する空想
NPDの患者さんは、無限の成功、権力、美しさ、理想的な愛に対する空想に没頭します。これにより、現実とのギャップに苦しむことがあります。例えば、自分が将来大成功を収めると信じ、そのための具体的な計画や努力を怠ることがあります。
特別であるという信念
NPDの患者さんは、自分が特別であり、ほかの特別な人々や高い地位の人々とだけ関わるべきだと信じています。これにより、対人関係が限定されることがあります。例えば、特定の社会的地位や職業に就いている人々とだけ交流し、他の人々を見下すことがあります。
過度の賞賛の必要性
NPDの患者さんは、他者からの賞賛を強く求め、賞賛が得られないと不満を感じます。例えば、常に他者からの称賛や認識を求め、これが得られないと怒りや不満を感じることがあります。
特権意識
NPDの患者さんは、特別な待遇を受けるべきだと信じており、他者からの特別な対応を期待します。例えば、他者が自分の要求に応じるべきだと考え、これが実現しないと強い不満を感じることがあります。
対人関係の利用
NPDの患者さんは、他者を利用して自分の目的を達成しようとし、対人関係が損なわれることがあります。例えば、他者を自分の利益のために利用し、その結果として対人関係が破綻することがあります。
共感の欠如
NPDの患者さんは、他者の感情やニーズを認識しようとせず、対人関係において問題を引き起こします。例えば、他者の感情や困難に対して無関心であり、これが原因で対人関係が悪化することがあります。
他者への嫉妬
NPDの患者さんは、他者が自分に嫉妬していると信じるか、他者に嫉妬します。例えば、他者の成功や幸福を見て嫉妬し、その人を攻撃的に批判することがあります。
傲慢な態度
NPDの患者さんは、傲慢で横柄な態度を示し、他者との関係が悪化することがあります。例えば、他者を見下し、自己中心的な態度を取ることで、対人関係が損なわれることがあります。
自己愛性パーソナリティ障害の前兆や初期症状が見られた場合に受診すべき診療科は、精神科です。自己愛性パーソナリティ障害は精神的な問題であり、精神科での診察と治療が適しています。
自己愛性パーソナリティ障害の検査・診断
NPDの診断は、DSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル)に基づいて行われます。診断には、以下の症状のうち5つ以上が持続的に存在することが必要です
- 自己の重要性の誇張
- 無限の成功、権力、美しさ、理想的な愛に対する空想
- 特別であるという信念
- 過度の賞賛の必要性
- 特権意識
- 対人関係の利用
- 共感の欠如
- 他者への嫉妬
- 傲慢な態度
診断のプロセス
NPDの診断は、精神科医によって行われます。診断には、以下の手順が含まれます
詳細なインタビュー
患者さんの症状、経験、家族の病歴について詳しく話し合います。
精神健康評価
一連の質問を含む評価を行います。
医学的検査
ほかの可能性のある原因を排除するために、身体検査や血液検査を行うことがあります。
自己愛性パーソナリティ障害の治療
NPDの治療には、主に精神療法が用いられます。薬物療法は、併存するほかの精神疾患の治療に使用されることがあります。
精神療法
認知行動療法(CBT)
否定的な思考パターンを特定し、それを健全なものに置き換えることを目的とします。
スキーマ療法
CBTの要素を取り入れた統合的なアプローチで、不適応な思考や行動パターンを健全なものに置き換えることを目指します。
精神分析療法
過去の経験が現在の行動にどのように影響しているかを探り、感情の理解と管理を助けます。
弁証法的行動療法(DBT)
感情の調整や対人関係のスキルを向上させることを目的とした療法です。
薬物療法
NPD自体を治療するための特定の薬物はありませんが、併存するうつ病や不安障害などの症状を緩和するために抗うつ薬や抗不安薬が使用されることがあります。
その他の治療法
グループ療法
他者との交流を通じて、対人関係のスキルを向上させることができます。
家族療法
家族がNPDについて学び、患者さんをサポートする方法を学ぶことが重要です。
自己愛性パーソナリティ障害になりやすい人・予防の方法
NPDになりやすい人は、以下のような特徴を持つ人が多いとされています。
リスク要因
幼少期の過度の賞賛や批判
幼少期に親や養育者から過度に賞賛されたり批判されたりする経験がある人は、NPDを発症するリスクが高いです。
家族に精神疾患の人がいる
家族に精神疾患の人がいる場合、その子どもがNPDを発症するリスクが高まります。
トラウマや虐待の経験
幼少期にトラウマや虐待を経験した人は、NPDを発症するリスクが高いです。
予防の方法
NPDの予防には、早期の介入と適切な治療が重要です。また、以下のようなセルフケアも推奨されています。
ストレス管理
リラクゼーション法やマインドフルネスを取り入れることが有効です。これにより、ストレスを軽減し、感情のコントロールがしやすくなります。
健康的な生活習慣
規則正しい生活リズムを保つことが重要です。これには、十分な睡眠、バランスの取れた食事、定期的な運動が含まれます。
サポートネットワークの構築
信頼できる友人や家族との関係を大切にし、サポートを受けることが重要です。これにより、孤立感を軽減し、感情の安定を図ることができます。
NPDは適切な治療とサポートを受けることで、症状の改善が期待できる疾患です。専門家の助けを借りながら、長期的な視点で治療に取り組むことが重要となります。
参考文献