

監修医師:
大迫 鑑顕(医師)
目次 -INDEX-
アルコール依存症の概要
アルコール依存症は、慢性的に多量飲酒をする方であれば誰でも発症する可能性のある疾患です。
日本では約100万人程度が潜在的な患者と言われていますが、実際に治療を受けているのは5万人程度で、必要な治療を受けられていない方が多いと考えられています。
アルコール依存とは、アルコールの精神状態に及ぼす効果を反復体験するために、アルコールを絶えず衝動的に求める行為とされています。
肝障害、うつ、不安障害、高血圧、糖尿病、脂質異常、認知症、痛風といった疾患の背景にアルコール問題が隠れているケースは少なくありません。
社会的にも朝から飲酒をしたり、仕事中に飲酒するなど、仕事や人間関係への影響も大きく、これらが互いに影響し合い、治療が困難になることがあります。
必要な治療として、理想的には飲酒をやめられると良いですが、そもそも飲酒量をコントロールできない病気ですので、再飲酒をしてしまうことを繰り返しやすく、むしろ、治療を継続することの方が重要だと考え、断酒ではなく減酒を治療目標として設定することもあります。
薬物療法は補助的に用いられる場合がありますが、精神療法や、アルコール依存症を抱える人同士の自助グループへの参加することが主な治療方法です。
アルコール依存症の原因
アルコール依存症の原因は多岐にわたります。
以下のものが原因として考えられています。
遺伝的要因
家族にアルコール依存症の患者がいる場合、遺伝的にリスクが高まることが知られています。
アルコール依存症の発症には遺伝が50%ほど寄与するという研究もあります。
家族にアルコール依存症の方がいるから必ずアルコール依存症になるとは限らず、より気をつけるという行動を取ることができます。
環境的要因
親や友人の飲酒行動、社会的なプレッシャー、職場環境などが影響を与えます。
特に、飲酒に寛容な文化や社会環境では、アルコール依存症のリスクが高まることが報告されています。
心理的要因
うつ病や不安障害などの精神疾患がある場合、自己治療としてアルコールを使用することが多く、依存症に陥りやすくなります。
また、ストレスの多い生活やトラウマを抱えている場合もリスクが高まります。
アルコール摂取による一時的な安心感や高揚感を求め、様々な要因で精神的に不安定な状態にある方は依存症になりやすいとされています。
生物学的要因
アルコールの代謝に関与する酵素の活性や脳内の神経伝達物質もアルコール依存症の発症に影響を与えることがあります。
アルコールを分解できる酵素の強さが人によって異なることが知られています。また、ドーパミンやセロトニンなどの神経伝達物質のバランスが、飲酒行動や依存の形成に関与しています。
アルコール依存症の前兆や初期症状について
アルコールを摂取する頻度や量が増えて行き、酔うまでに必要な飲酒量も増えていきます。
節度を持った飲酒ができなくなり、ついつい飲みすぎてしまうレベルを超え、飲酒への執着が強くなり、飲み始めたら酔いつぶれるまで止まらなくなります。
家族や友人に隠れて飲酒する隠れ飲酒が始まったり、朝起きてから常にお酒を飲んでいる状態や仕事の最中にお酒を飲むと言った行動にエスカレートしていきます。
他の症状としても飲酒に関連して胃がムカムカする、食欲が落ちる、眠りが浅くなるといった身体的な症状から、集中力が低下し、イライラ、不安、落ち込みが増えるといった精神的な症状が出現します。
また、飲酒をめぐって家族や職場の人と口論になるなど、対人関係や社会生活に影響をきたすことが多いです。
アルコール依存症の前兆や初期症状が見られた場合に受診すべき診療科は、小児科(子供の場合)、精神科、心療内科です。
アルコール依存症は精神的および身体的依存が関与するため、精神科や心療内科での治療が必要です。
アルコール依存症の検査・診断
アルコール依存症の診断には、以下のような方法が用いられます。
医師による問診
飲酒習慣、生活状況、精神状態などを詳細に尋ねます。CAGE質問票やAUDIT(アルコール使用障害同定テスト)などのツールを使った採点方式の検査によるスクリーニングを行います。また、これらは飲酒行動による問題の程度の評価も行います。
血液検査
血液検査を行い、肝障害やビタミン欠乏、血糖値の異常などを評価します。
画像検査
肝障害や脳の異常をきたしていることもあり、腹部超音波検査や頭部CTやMRIの検査を追加する場合があります。
精神科評価
心理的な問題や他の精神疾患の有無を確認するため、精神科医による評価が必要なことがあります。
アルコール依存症の治療
アルコール依存症の治療の上で最も重要なことは、早期に治療を開始することです。
アルコール依存症が進むと、体や精神に悪いばかりではなく、飲酒運転で摘発されたり職場でのトラブルが重なって失業、というように社会・経済的な影響がだんだん大きくなっていく場合があります。
また、友人や家族との関係も影響をうけ、自分の内・外の世界で多くの大切なものを失うこととなります。
最終的には飲酒を完全に辞められることが理想ではありますが、自身の健康上の問題や周囲との人間関係、社会的孤立しやすさなどを考慮すると、治療の上で最大の“害”は、治療を継続できないことですので、現実的には断酒ではなく減酒を治療目標として設定することも多々あります。
飲酒をすることの良い面と悪い面を振り返り、まずは飲酒をしたくなるきっかけを自覚するセルフモニタリングを促し、スモールステップでの変化を促します
多量飲酒をしていて急に断酒をした場合、断酒開始直後は数日〜2週間程度続く、離脱症状が生じる可能性が高いため、離脱症状の予防のために薬物療法を併用します。離脱症状が強い場合や、肝障害などの臓器障害の程度によっては入院で治療を始めることがあります。
他に治療への動機づけやサポートをする精神療法や、飲酒行動に関する認知を改善する認知行動療法を行います。
1人の意思だけでは治療が難しい場合も多く、残念ながら再発することもあります。そのため、アルコール依存症を抱える人同士の自助グループへの参加も重要な治療の一つです。
治療の体験や再発を予防するための工夫などを患者同士で話し合うことができます。
これらの中で飲酒欲求を減少させたり、飲酒時の快感を低減させる薬を使うことがあります。
アルコール依存症になりやすい人・予防の方法
アルコール依存症のリスク因子として以下のものが知られています。
- 家族にアルコール依存症の人がいる
- 高いストレスにさらされている、不安を感じやすい状態である
- うつ病や不安障害などの既往がある
- 若い頃から飲酒を始めた
- 孤立した生活を送っている
これらがあるから必ずなるものではなく、アルコール摂取を適切にすることで予防できると考えられています。アルコール依存症のリスクは純アルコール換算で1日の摂取量が60gを超えると高まるとされています。
厚生労働省のガイドラインでは1️日の適切な飲酒量は純アルコール換算で20g以下(ビール500ml、日本酒1合、ワイン2杯程度)を目安とすることでアルコール依存のリスクが低下するされています。