

監修医師:
大坂 貴史(医師)
精巣炎の概要
精巣炎は名の通り精巣に炎症が起こる疾患です。原因として多いのがムンプスウイルス、すなわち「おたふく風邪」の原因ウイルスです。ムンプスウイルス感染症に思春期以降にかかると約14〜30%の男性が精巣炎を合併し、そのうちの一部は両側の精巣に炎症が及びます。症状は急性発症の陰嚢の腫れと激しい痛み、発赤、発熱です。重症化すると合併症として精巣が萎縮して、妊孕性の低下につながるおそれがあります。
急性の陰嚢痛をきたす疾患には、精巣炎以外にも精巣捻転などの緊急疾患が含まれます。したがって症状が出た際には速やかな医療機関の受診が必要です。
ムンプスウイルスによる精巣炎は特異的な治療法がなく、安静や冷罨法、鎮痛薬などの対症療法が基本となります。最も効果的な予防策はムンプスワクチンの接種です。ムンプスウイルスワクチンは接種率が低いことが問題視されています。ムンプスウイルス感染症は精巣炎のほかにも難聴、髄膜炎などの合併症が問題となるので、接種歴のない方はワクチンの接種をお勧めします。
精巣炎の原因
精巣炎は精巣に炎症が生じる疾患で、特に思春期以降の男性に多く見られます。その最大の原因はムンプスウイルスで、このウイルスは「おたふく風邪」の原因として有名です。
おたふく風邪は、ムンプスウイルスによって引き起こされるウイルス感染症で、飛沫感染によって人から人へと広がります。典型的には、耳下腺 (耳の近くの唾液腺) の炎症を主症状とし、子どもによく見られる病気ですが、思春期以降に罹患すると合併症のリスクが高くなることが知られています。
とくに男性においては、ムンプス罹患後の精巣炎 (ムンプス精巣炎) がよく知られています。思春期以降の男性がムンプスにかかった場合、約14〜30% の割合で精巣炎を併発するとされています (参考文献 1) 。 また、ムンプスウイルスによる精巣炎症例の 30% は両側に症状が出るとされています (参考文献 2) 。
そのほかのウイルスや細菌によって引き起こされることもあり、性感染に伴って精巣炎を発症することもあります。
精巣炎の前兆や初期症状
多くの場合、ムンプスウイルス感染症の症状、特におたふく風邪が精巣炎の前兆といえます。典型的なおたふく風邪は、数日間の発熱、頭痛、筋肉痛、倦怠感、食思不振で発症し、発症後2日以内に耳下腺が腫れます (参考文献 2) 。
ムンプス精巣炎は、耳下腺炎発症後5〜10日後に現れます (参考文献 2) 。急性の陰嚢の腫れと痛み、陰嚢の発赤が症状で、40℃近くの高熱を伴うことがあります (参考文献 2) 。
おたふく風邪のワクチンを接種していない人がムンプス精巣炎を発症した場合、 30〜50% の確率で精巣が萎縮するとされています (参考文献 2) 。両側が萎縮すると子どもの授かりやすさ (妊孕性) が低下します。
陰嚢が急に痛くなる疾患は、ムンプス精巣炎以外にも、精巣捻転などの緊急疾患もあります。疑わしい症状がある場合には小児科や泌尿器科を受診してください。
精巣炎の検査・診断
診断では病歴聴取と身体所見が基本です。症状として陰嚢の腫脹・圧痛・発赤などがあり、直近で「おたふく風邪」らしい症状があった場合には、ムンプス精巣炎を強く疑います。
超音波検査 (陰嚢エコー) は有効な検査の一つで、精巣内の腫大、血流増加を確認できます。とくに精巣捻転との鑑別においては血流評価が重要で、精巣捻転と判断されれば緊急手術が必要になります。
また、必要に応じてムンプスウイルス抗体の検査や、性感染症をはじめとした別の原因が疑われる場合には尿検査を追加することもあります。
精巣炎の治療
ムンプス精巣炎に対する特異的な抗ウイルス治療は存在せず、対症療法が中心となります。自然軽快することが多いため、安静、陰嚢を冷やす、鎮痛薬などで経過観察をします (参考文献 1) 。
細菌性精巣炎が疑われる場合には抗菌薬による治療を行い、性感染症を背景に持つ場合はパートナーも同時に治療します。
精巣炎になりやすい人・予防の方法
精巣炎は、ムンプスウイルスに対する免疫がない思春期以降の男性に起こりやすいです。したがって、ムンプスウイルスのワクチン接種歴がない人や、周りにおたふく風邪患者がいる場合に精巣炎発症リスクが高まります。
最も効果的な予防策はワクチン接種です。ムンプスウイルスに対するワクチンは任意接種として小児期の接種が推奨されています。ムンプスウイルスのワクチンは接種率が低いことが問題視されています。ムンプスウイルス感染症は精巣炎の他にも髄膜炎や脳炎、難聴といった合併症が知られています。難聴は後遺症として残りやすく、2015~2016年の調査では2年間のうちにムンプスウイルス感染症を原因とした難聴が後遺症として残った症例が300例、そのうち16例は両耳の難聴が残ったと報告されています (参考文献 3) 。
数年に一回は流行して、その度に合併症が問題になるので、一度自分の母子手帳を確認していただき、接種歴がない場合には接種することをお勧めします。
また、性感染症が原因となる細菌性の精巣炎の予防としては、性行為の際のコンドーム使用が有効です。
参考文献
- 1. Azmat CE et al. Orchitis. StatPearls [Internet]. June 26, 2023
- 2. Albrecht MA. Mumps. UpToDate. Mar 19, 2025
- 3. 日本耳鼻咽喉科学会. 2015-2016年にかけて発症したムンプス難聴の大規模全国調査.




