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前立腺肉腫
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

前立腺肉腫の概要

前立腺肉腫は、前立腺に発生する極めて稀な非上皮性悪性腫瘍で、一般的な前立腺の腺癌とは由来・病態ともに全く異なる疾患です。肉腫は前立腺の支持組織である間質細胞に由来し、腫瘍マーカーの PSA は上昇しないという特徴があります。症状は腺癌と同様に排尿障害や血尿が中心です。確定診断には生検による病理診断が不可欠です。治療法は確立されていませんが、可能であれば前立腺の完全切除が行われます。手術と化学療法、放射線治療を組み合わせて、集学的治療を行います。一般的な前立腺癌治療に使われるホルモン療法は無効です。近年ではがん遺伝子パネル検査を活用し、治療対象の変異を探ることもあります。リスク因子としては前立腺炎や生検、放射線治療の既往が言われていますが、はっきりしていません。排尿症状を放置せずに泌尿器科を受診することが早期発見につながります。

前立腺肉腫の原因

前立腺肉腫は前立腺の間質成分から発生する非上皮性の悪性腫瘍で、一般的な前立腺癌 (腺癌; adenocarcinoma) とは全く異なる疾患です。腺癌が前立腺の腺上皮細胞から発生するのに対し、肉腫 (sarcoma) は支持組織を構成する平滑筋細胞、線維芽細胞、脂肪細胞、などの間葉系細胞に由来します。

前立腺肉腫は非常に稀な腫瘍で今まで30例程度の報告、前立腺の悪性腫瘍全体の 0.1% 以下の頻度です (参考文献 1, 2) 。

前立腺肉腫の発生原因は明確には解明されていませんが、前立腺炎の既往や会陰部外傷、前立腺生検の既往、放射線治療が発症リスクになるのではないかと考えられています (参考文献 3) 。

前立腺肉腫の前兆や初期症状

前立腺肉腫の初期症状は一般的な前立腺癌と同様です。前立腺が大きくなって尿道が圧迫されることによる症状が出ますが、これは前立腺肥大症という非悪性疾患も同様です。 排尿時間が長くなる等の排尿障害、尿を出し切れずに膀胱に尿が残ることによる残尿感、尿意を感じることが多くなる頻尿が代表的です。進行すると尿や精液に血が混じることがあります。

これらの症状は前立腺肥大症や前立腺癌とも重なるため、早期に特異的な診断をつけることは困難です。前立腺癌自体は多くの男性が罹患する疾患であり、現在では治療法も発展していて、適切な治療をすれば良好なコントロールが得られることが多いです。 前立腺癌でなくても排尿症状は生活の質を下げるため、症状がある方はお近くの泌尿器科を受診してください。

前立腺肉腫の検査・診断

前立腺肉腫の診断には、画像検査と組織学的検査の両方が必要です。ほかの悪性疾患と同様に、画像検査では腫瘍内の性質を把握できるほか、前立腺の悪性腫瘍であれば膀胱や直腸への浸潤、遠隔転移の有無をチェックし、進行度を把握します。 超音波検査は肛門からエコープローブを挿入して、前立腺の近くから超音波をあてる経直腸超音波検査をすることで、前立腺の状況を詳細に評価できます。

腫瘍マーカーで「PSA」というものを聞いたことがあるかもしれません。これは一般的な前立腺癌で上昇することが多いものですが、前立腺肉腫は由来が全く異なるため、基本的にPSAは上昇しません。

画像検査だけでは前立腺癌と前立腺肉腫の区別をすることはできません。確定診断には、経直腸的、あるいは経会陰的な針生検によって得られた前立腺組織の病理診断が不可欠です。生検組織の病理診断で悪性の間質成分が増殖していることが確認できれば「前立腺肉腫」の診断になります。

前立腺肉腫の治療

症例数が少ないため、前立腺肉腫に対して確立された標準治療はありませんが、現時点で最も有効とされるのは手術での前立腺切除です。進行度に応じて周囲臓器を含めた広範囲切除が試みられます (参考文献 2) 。 手術のほかの化学療法や放射線治療を組み合わせて治療していきます。一般的な前立腺癌とは由来が異なるため、前立腺癌の治療法で頻繁に用いられる「ホルモン製剤」は使えません。 治療法が確立されていないので、治療法の詳細は患者さんごとに一つ一つ考えていくことになるでしょう。このような標準治療が確立されていない疾患に対して「がん遺伝子パネル検査」をして、使えそうな薬剤を探っていくことがあります。がん遺伝子パネル検査は、がんの遺伝子を詳細に解析することで、治療ターゲットになるような変異がないかチェックする検査です。がん遺伝子パネル検査の対象となった症例のうち、約1割が新しい治療法にたどり着くとされています。

前立腺肉腫になりやすい人・予防の方法

症例数が少ないため発症リスクははっきりとはしていませんが、前立腺炎の既往や会陰部外傷、前立腺生検の既往、放射線治療がリスクになるのではないかと考えられています (参考文献 3) 。いまのところ、遺伝的背景や生活習慣との関連は不明です。

前立腺肥大症や一般的な前立腺癌は生涯を通しての発症率が高く、多くの男性が悩まされます。排尿症状を「年だから」と放置せずに泌尿器科に相談することで、生活の質低下がある程度予防できるでしょう。

参考文献

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