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前田 広太郎

監修医師
前田 広太郎(医師)

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2017年大阪医科大学医学部を卒業後、神戸市立医療センター中央市民病院で初期研修を行い、兵庫県立尼崎総合医療センターに内科専攻医として勤務し、その後複数の市中急性期病院で内科医として従事。日本内科学会内科専門医、日本腎臓学会腎臓専門医、日本透析医学会透析専門医、日本医師会認定産業医。

精巣損傷の概要

精巣損傷は陰嚢に外力が加わることで発生する外傷です。原因は年齢によって異なりますが、成人では交通事故、自転車事故、格闘技やスポーツ中の股間への衝撃、作業中の事故などが多く、小児では便座での挟み込みや遊具による受傷が典型的です。損傷は鈍的外傷が大部分を占めますが、動物の咬傷などによる穿通性損傷もあります。

初期症状は急激な陰嚢痛、腫脹、皮下出血などで、重症例では陰嚢が大きく腫れて精巣が触診できないこともあります。強い痛みにより吐き気や嘔吐を伴うこともあります。受傷後は速やかに泌尿器科または救急外来を受診することが重要です。

診断には超音波検査が第一選択で、精巣白膜の連続性や血流の有無を確認します。評価が困難な場合にはMRIを行うこともあります。交通事故などでは他の骨盤臓器の損傷も同時に起こる可能性があるため、尿検査や尿道造影による尿路系の評価や、CTによる全身評価も重要です。

治療は損傷の程度によって異なり、軽症例では安静や鎮痛、アイシングなどの保存的治療で経過をみます。精巣白膜の破綻や血流障害がある場合には手術が必要であり、72時間以内に手術を行えば高率で精巣機能を温存できます。穿通性損傷では抗菌薬や破傷風ワクチンなどの感染予防も欠かせません。

予防にはスポーツ中のプロテクターの着用が有効です。小児ではトイレ中に陰嚢を便座に挟んだり、足場の悪い遊具で棒をまたぎこむようなことを避けてください。

精巣損傷の原因

成人では交通外傷、自転車事故、股間に蹴りを受ける、作業中の事故などが主な原因であり、学童期より前では遊具や便座での受傷も多いです (参考文献 1, 2) 。これらの鈍的外傷が多くを占めますが、転倒や動物に咬まれる等で外界と陰嚢内が交通してしまう穿通性の損傷もあります。

精巣損傷の前兆や初期症状について

主な症状は急激な陰嚢痛、腫脹、皮下出血、圧痛などであり、重症であれば陰嚢が大きく腫れて触診困難となることもあります (参考文献 1) 。痛みのために吐き気や嘔吐を伴う場合もあります。精巣損傷は早期治療が重要な疾患です。股間部に衝撃を受けた後はお近くの泌尿器科を受診するか、時間などの問題で泌尿器科を受診できない場合には救急外来を受診してください。

精巣損傷の検査・診断

超音波検査で陰嚢内血種、陰嚢壁の腫脹、精巣内外のエコーパターンに異常がないか確かめます。白膜の連続性が保たれていなかったり、精巣内のエコーが不均一である場合には精巣破裂が疑われます。超音波検査のみで評価が難しい場合にはMRIの撮影をします。 診察の際に痛みが強い場合には、点滴で鎮痛薬を投与しながら診察することもあります。

精巣損傷は交通事故が原因として多いため、精巣損傷と同時に他の外傷性疾患の評価もしなければなりません。泌尿器・生殖器系の外傷を察知するための尿検査や尿道造影検査、全身CTでの骨折・内臓損傷の評価を行います。

精巣損傷の治療

検査の結果、手術の必要がなく保存的加療での経過観察が可能と判断されれば、安静、鎮痛薬投与、陰嚢挙上、アイシングを行います (参考文献 2) 。下着はボクサーパンツよりブリーフパンツのほうが、陰嚢・精巣に負担がかかりにくいため好ましいです。 修復するべき損傷が確認された場合には、早期の手術を行います。72時間以内の手術を行えば、ほとんどの症例で精巣機能を温存できます。72時間以上経過すると治療成績が悪化するため、受傷後早期に受診することが大切です。 手術では、破れた精巣白膜の縫合や、血腫除去、壊死組織の切除などが行われます。精巣温存が困難な場合には摘出術(高位精巣摘除術)を行うこともありますが、若年患者では心理的負担が大きく、術前後の心理的ケアも重要です。

陰嚢に鋭利なものが刺さったり、動物に咬まれて受傷する穿通性精巣損傷では、感染症予防のための破傷風トキソイド投与、抗菌薬投与、ワクチン投与が重要になります (参考文献 2) 。

精巣損傷になりやすい人・予防の方法

精巣損傷は全年齢層に起こりうる外傷です。最も多い交通事故のほかには、暴力・格闘技中の股間への蹴り、コンタクトスポーツ中の股間への衝撃、工事現場での事故が上位の原因です。これらの危険因子に当てはまる方は受傷リスクが高いといえるでしょう。 小児では便座に陰嚢を挟み込む事故や、遊具で遊んでいる際の事故が報告されています。

予防の基本は、リスクの高い場面での適切な保護具の使用です。格闘技では股間への蹴りがルール上禁止されている場合が多いですが、偶発的な事故予防のためにもプロテクターの装着を検討してください。その他のスポーツでも外陰部を守るプロテクターが売っている場合があるので、特にコンタクトスポーツをする場合にはプロテクターの使用についてチーム内で話し合ってみてもよいかもしれません。

股間のプロテクターに限らず、スポーツによる眼の外傷を予防するためのアイプロテクターやサングラスなど、近年保護具の着用が進んできています。プロテクターが「動きにくい」「恥ずかしい」といった理由で避けられるケースもありますが、多くのスポーツ外傷は予防可能です。

小児期においては、幼児のトイレトレーニング時に便座の挟み込みに注意する、不安定な足場で棒をまたぎこむようなことをしない (ジャングルジムなど) といったことが予防になるでしょう。

参考文献

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