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慢性精巣上体炎
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

慢性精巣上体炎の概要

慢性精巣上体炎は、陰嚢の上方にある精巣上体に炎症が持続する状態を指し、数カ月にわたって陰嚢の鈍痛や不快感が続く場合に疑われます。多くは急性精巣上体炎をきっかけに発症し、クラミジアや淋菌などの性感染症が背景にありますが、非感染性の例も存在します。診断には病歴や身体診察に加え、尿検査や画像検査が用いられます。感染が明らかであれば抗菌薬による治療を行い、原因が不明な場合にはNSAIDsなどによる対症療法と生活習慣の見直しが重要になります。座りすぎや長距離移動が症状悪化に関係する場合もあり、適度な休憩や陰嚢のサポートが推奨されます。再発や難治例では手術が検討されることもあります。予防にはコンドームの使用や、尿道炎の早期治療、排尿補助器具の衛生的な管理、長い時間座り続けないことが予防になります。

慢性精巣上体炎の原因

慢性精巣上体炎は、精巣上体に慢性的な炎症が持続する状態を指します。急性精巣上体炎が十分に治癒しなかった場合に慢性精巣上体炎へ移行することが多く、数カ月にわたって陰嚢痛や不快感が続く場合には慢性化が疑われます。多くは感染に由来しますが、非感染性の症例もあります。 精巣上体炎の原因として最も多いのは感染症です。クラミジア・トラコマチスおよび淋菌が主な起炎菌です (参考文献1, 2) 。これらは性行為時に感染する性感染症で、尿道から精管を逆流して精巣上体へと到達し、炎症を引き起こします。

非感染性の精巣上体炎は外傷や自己免疫疾患、特定の薬剤の使用が原因となることがありますが、多くは原因不明です (参考文献 3) 。

慢性精巣上体炎の前兆や初期症状について

慢性精巣上体炎の原因である急性精巣上体炎は、発熱を伴う、陰嚢の片側に生じる痛みと腫れで発症することが一般的です (参考文献 1) 。典型的には、数日の経過で徐々に悪化する陰嚢の痛みがあり、数時間で症状が悪化する場合には精巣捻転という他の緊急疾患の可能性が高くなります (参考文献 2) 。 両側で症状が出る場合にはムンプスウイルス感染症 (おたふく風邪) による精巣上体・精巣炎が示唆され、その場合には耳の近くの唾液腺 (耳下腺) の炎症を併発する場合があります (参考文献 2) 。 性活動期の男性は尿道炎から波及して精巣上体炎に至っている場合が多く (参考文献 1) 、 その場合には排尿時の違和感、尿道からの分泌物、尿の混濁などが先行して現れることもあります。

慢性化した場合、発熱などの全身症状は目立たなくなり、鈍痛や不快感が持続するのが特徴です。

精巣上体炎などの男性の性感染症の治療を得意とするのは泌尿器科です。お近くに泌尿器科がある場合はそちらを受診していただき、近くにない場合は内科を受診してください。

慢性精巣上体炎の検査・診断

急性精巣上体炎のエピソードがあり、感染性の慢性精巣上体炎が疑われる場合には、尿路系の構造異常がないかどうか、造影CTや詳しい超音波検査でチェックします (参考文献 3) 。 あらためて原因菌を特定するための尿検査もします。

非感染性の場合には問診がカギになります。抗菌薬治療でも改善しなかったこと、座る時間が長い生活スタイル、重い物を持ち上げるような運動習慣の有無などが重要な手がかりとなります (参考文献 3) 。

慢性精巣上体炎の治療

尿検査の結果、原因と思われる病原体が判明すれば抗菌薬治療を開始します。原因菌によって投与する抗菌薬が異なるので一概には言えませんが、数週間単位での治療が必要になる場合があります (参考文献 3) 。経過によっては外科治療が必要になることもあります。 原因が明らかにならなかった場合には非感染性の慢性精巣上体炎と考えて、原因が不明な場合には、長時間の座位を回避するなどの生活習慣の見直しをします。 急性精巣上体炎とも共通しますが、痛み止めの使用や患部を冷やすことで症状が軽くなることもあります。

慢性精巣上体炎になりやすい人・予防の方法

性感染症由来の精巣上体炎は、若年で性活動が活発な男性に多いです。特にコンドームを使用しない性交渉や、複数の性パートナーがいる場合はリスクが高いといえるでしょう。また、HIV感染者ではサイトメガロウイルスやトキソプラズマなど非典型病原体による精巣上体炎も報告されているほか、コンドームを用いない肛門性向では腸内細菌によって精巣上体炎が引き起こされる場合があります (参考文献 2) 。 先述の通り、尿道炎を先に発症している場合があり、起因菌も重なります。尿道炎の状態で治療することで精巣上体炎を予防することができるので、排尿症状は放置せずに泌尿器科を受診しましょう。

性交渉以外の原因としては泌尿器系疾患 (前立腺肥大症や神経因性膀胱など) に罹患している人や、尿道カテーテル挿入などの泌尿器科的な操作を直近でした人は急性精巣上体になるリスクが上がります (参考文献 2) 。この経路で感染する人は高齢者が多いです。

予防には性感染症予防の基本であるコンドームの使用が重要であるほか、日常的に尿道カテーテルを用いて排尿している場合には、カテーテルの衛生的な管理と清潔な操作を身に着けることが予防になります。性感染症の場合にはパートナーと一緒に治療しないと感染を繰り返すことになるため、パートナーと情報共有して同時に治療をしてください。

非感染性の慢性精巣上体炎は原因不明なことが多いです。普段長い時間座っているような場合、具体的にはデスクワークや車や飛行機での長時間移動が発症リスクとされているので、1~2時間に一度は立ち上がって歩くことが予防になります (参考文献 3) 。

参考文献

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