

監修医師:
前田 広太郎(医師)
陰茎硬化症の概要
陰茎硬化症とは、別名でぺロニー病や形成性陰茎硬化症とも呼ばれます。これは、陰茎の内部にある海綿体を覆っている白膜に異常が起き、そこに炎症と線維化(硬くなること)が続くことで、陰茎が変形したり硬くなったりする病気です。その結果、勃起したときに痛みが出たり、うまく勃起できない(勃起不全)などの性機能の問題が起こることがあります。薬などによる保存的な治療に効果が出にくいことが多く、陰茎の曲がり具合が強い場合には手術が必要になることもあります。
陰茎硬化症の原因
この病気の原因としては、いくつかの全身性の病気や感染症、陰茎への外傷(ぶつけたり、強い力がかかること)などが関係していると考えられています。また、遺伝的な要因も報告されています。陰茎硬化症と診断された人の中では、糖尿病を持っている人が43%、肥満の人が26.7%と比較的多く、これらの疾患との関連性が示唆されています。そのほか、血液透析を受けている人や骨パジェット病という病気を持っている人にも見られることがあります。また、患者の約30~40%が「デュピュイトラン拘縮」という、手のひらの腱が厚く硬くなり、指が曲がってしまう病気を併発していることもあり、遺伝の影響も疑われています。
陰茎硬化症の前兆や初期症状について
この病気の初期には、陰茎に痛みや硬いしこり(プラークや結節)ができることがあります。特に陰茎の背中側に多く見られ、患者の3分の2以上にみられる症状です。また、陰茎が曲がったり(背中側、横、下方向など)、へこんだり、短くなったりする変形が見られるようになります。これらの症状の多くは勃起時に目立ちます。痛みは主に勃起時に出現し、多くは12~24か月以内に自然と消える傾向があります(平均で18か月)。陰茎が曲がる方向は背側(上向き)が最も多く46%、次いで横方向が29%、下向きが9%、複数の方向に曲がる複合型もあります。また、この病気を持つ人の20~50%が勃起不全を抱えています。これは陰茎の変形によって性交が難しくなること、線維化や血管の障害で陰茎が不安定になること、勃起できるか不安になる心理的な要因、血の流れが悪くなることなどが原因です。このような症状により、患者本人とそのパートナーの生活の質が大きく損なわれることがあります。うつ病や自己肯定感の低下、パートナーとの関係が悪くなるリスクが高まり、新しい人間関係を築くことが難しくなることもあります。さらに、体のイメージが損なわれることや、痛み・不快感によって精神的に辛くなることも少なくありません。
陰茎硬化症の検査・診断
診断では、まず年齢や身長、体重、どのような症状があるか、いつから症状が出たか、きっかけとなる出来事があったか、勃起に問題があるかどうか、他に持っている病気や服薬状況、結婚しているか、喫煙や飲酒の習慣などを詳しく聞き取ります。そして、陰茎がどのくらい曲がっているか、硬いしこりがあるか、その大きさや場所を調べます。必要に応じて、勃起時の状態を確認することもあります。画像検査としては、陰茎の超音波検査を行い、しこりの石灰化や線維化の有無を確認することがあります。似たような病気と区別することも大切で、例えば、先天的に陰茎が曲がっている場合(プラークがない)、硬化性リンパ管炎、血管肉腫などの腫瘍などとの鑑別が必要です。
陰茎硬化症の治療
陰茎硬化症は、症状の進み具合によって「急性炎症期」と「慢性期(線維化期)」の2つの時期に分けられます。急性期は勃起時に痛みや変形が進む時期で、慢性期になるとしこりが固定し、症状も落ち着いてきます。治療はまず保存的(手術以外の)方法から始め、慢性期になっても改善しない場合に手術を検討します。急性期には、痛みを和らげたり、線維化を抑えたりする目的で、内服薬や局所注射が行われますが、効果がしっかり証明されている治療法はまだ少ないのが現状です。内服薬には、ビタミンE、タモキシフェン、コルヒチン、カルニチン、ペントキシフィリン、漢方薬、抗アレルギー薬などがあります。局所治療としては、ステロイド、ベラパミル(塗り薬や注射)、インターフェロン、クロストリジウムコラゲナーゼ注射、体外衝撃波結石破砕術、陰茎の牽引療法・吸引療法などがあります。
中でも、アメリカで唯一認可されている注射薬のクロストリジウムコラゲナーゼは、陰茎の屈曲をプラセボ(偽薬)群と比べて改善したと報告されています(クロストリジウムコラゲナーゼ群34%、プラセボ群18%が改善)。ただし、副作用として、皮下出血や腫れ、痛み、まれに陰茎の断裂などもあるため注意が必要です。ベラパミルは、線維化を起こす細胞に働きかけ、コラーゲンを分解させる働きがあり、効果があるという報告もあります。手術は、慢性期に入り、少なくとも3か月から半年以上経過しても改善しない場合や、陰茎の曲がりが30度以上ある場合に検討されます。手術方法には、縫い縮める方法(縫縮法)や、皮膚や人工膜を移植する方法(移植法)があります。ただし、手術後には、陰茎が短くなったり、勃起しにくくなったり、陰茎や亀頭のしびれ、再発、皮膚の下に糸の結び目が触れるなどのリスクもあります。また、陰茎形成手術は健康保険がきかず、自費診療になります。
陰茎硬化症になりやすい人・予防の方法
この病気は以前は珍しいとされていましたが、最近では勃起不全の治療薬の普及によって、患者本人も医師も異常に気づきやすくなり、実際の患者数はもっと多いのではないかと考えられています。報告によっては、有病率が0.7~1.3%とされていますが、5%にのぼるというデータもあります。年齢が高くなるほど発症しやすく、恥ずかしさから医療機関を受診しない人も多いため、実際にはもっと多くの人が発症している可能性があります。また、勃起不全のため性交渉をしていない男性では、陰茎の変形に気づかず診断されないこともあります。リスクとしては、全身性の病気、感染症、陰茎への外傷、遺伝的な素因などが挙げられます。糖尿病や肥満の人に多く見られるというデータもありますが、はっきりとした予防法は今のところ確立されていません。
参考文献
- Schwarzer U, et al. The prevalence of Peyronie's disease: results of a large survey. BJU Int. 2001;88(7):727.
- Kadioglu A, et al. Incidentally diagnosed Peyronie's disease in men presenting with erectile dysfunction. Int J Impot Res. 2004;16(6):540.
- Mulhall JP, et al. An analysis of the natural history of Peyronie's disease. J Urol. 2006;175(6):2115.
- Kadioglu A, et al. A retrospective review of 307 men with Peyronie's disease. J Urol. 2002;168(3):1075.
- 木村 将貴, 他:ペロニー病の病態と治療. 臨床泌尿器科 75巻 9号 pp. 674-677. 2021.




