

監修医師:
大坂 貴史(医師)
類宦官症の概要
類宦官症とは、思春期を迎えるべき年齢になっても、声変わりやひげの発生、精巣や陰茎の成長といった男性らしい体の変化(二次性徴)がほとんど、またはまったく現れない病気です。これは、男性ホルモン(テストステロン)の分泌がうまくいかないことが主な原因です。テストステロンは、精巣という臓器で作られますが、その分泌は脳(視床下部と下垂体)からの信号によって調節されています。この信号がうまく出ない、または精巣がうまく反応しないことで、類宦官症が起こります。この病気は「性腺機能低下症」の一種で、症状の程度には個人差があります。
類宦官症の原因
類宦官症は男性の性腺機能低下症であり、大きく2つのタイプに分けられます。
原発性(精巣の異常による)の類宦官症は、精巣そのものに異常がある場合、脳から「ホルモンを作れ」という指令が出ていても、それに反応できずテストステロンを作れません。原因として多いのは、クラインフェルター症候群といわれ、X染色体が1本多い「XXY」(通常男性はXY染色体を持つ)といった染色体異常により性腺機能が低下します。思春期になっても精巣が大きくならず、精子が作れない(無精子症)をきたします。他にも、精巣がん、放射線や抗がん剤治療の影響で性機能が低下することで発症することもあります。
続発性(脳の異常による)類宦官症は、視床下部や下垂体という脳の部位が正常に機能せず、GnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン、もしくはゴナドトロピン放出ホルモン)といったホルモンなどを出す信号がないまたは届かないため、精巣がホルモンを作らなくなります。中枢性の性腺機能低下症とも呼ばれます。孤発性GnRH欠損症、特発性性腺刺激ホルモン分泌低下性性腺機能低下症などがあります。嗅覚異常を伴う場合は、カルマン症候群と呼ばれ、遺伝子異常(例:ANOS1、FGFR1 など)による疾患です。続発性の他の原因として、頭部への外傷や腫瘍(頭蓋咽頭腫など) 、放射線治療後の後遺症により脳がホルモンを出す信号を出せなくなる場合があります。
類宦官症の前兆や初期症状について
新生児期や乳児期に、小陰茎・停留精巣を呈することがありますが気づかれにくいです。嗅覚異常(無嗅覚)や骨格異常(口唇裂、難聴、合指症など)が診断の手がかりとなることもありますが、小児期では症状がわかりづらく診断困難とされます。ほとんどが、思春期に現れるはずの体の変化が、思春期になっても見られないことで気づかれます。精巣や陰茎が大きくならない、ひげや陰毛が生えない、声変わりしない、手足が細長く見える(骨の成長が続いてしまう)、性欲の欠如、不妊、臭いが分からない(カルマン症候群の嗅覚障害)、これらの症状は一人ひとりで程度が違い、部分的にしか思春期が進まないこともあります。成人男性ではほてり(ホットフラッシュ)、女性化乳房(乳房が女性のように膨らむ)などがみられることがあります。
類宦官症の検査・診断
診断は、以下の検査結果を総合して行います。血液検査では、テストステロンが非常に低いことを確認します。性腺刺激ホルモン(黄体ホルモン、卵胞刺激ホルモン)が低ければ続発性、高ければ原発性を疑います。ホルモン負荷試験として、hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)やGnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)を投与し、ホルモン分泌の反応を見る検査も行われます。画像検査では、脳のCTやMRIで、腫瘍や構造異常がないかを確認します。遺伝子検査ではカルマン症候群やクラインフェルター症候群など、遺伝性疾患の特定を行います。染色体検査で染色体数や構造を確認します。構造異常として口唇裂・口蓋裂、嗅覚異常(無嗅覚・嗅覚低下)、腎形成異常として片側性腎無形成、停留精巣(片側・両側)、骨格異常として合指症など、難聴、歯の欠如(歯牙無形成)などを合併する場合があり、必要に応じて検査を行います。鑑別疾患として、思春期遅延(100人に3人程度みられる)、先天性副腎低形成などの副腎不全があります。
類宦官症の治療
治療は、原因のタイプや年齢、将来の妊娠希望などに応じて異なります。ホルモン補充療法 として、二次性徴を促すために、男性ホルモン(テストステロン)を定期的に注射やジェルなどで投与します。投与により、ひげが生える、声が低くなる、筋肉がつくといった効果が期待できます。原発性ではこの方法が基本的な治療となり、思春期が終了してもホルモン補充を継続します。続発性では、脳の指令が不足しているだけなので、hCG療法(精巣を刺激するホルモン)を使って、体内での自然なテストステロン分泌を促す治療もあります。
将来、子どもを望む場合には、不妊治療としてhCGと卵胞刺激ホルモンの併用や、パルス的GnRH投与が行われます。これにより、精子が作られる可能性が高まります。精子形成成功率は75〜90%とされますが、実際に妊娠できる率については十分なデータがありません。原因疾患がある場合、例えば脳腫瘍などが原因の場合は、外科手術や放射線治療が必要になります。特発性性腺刺激ホルモン分泌低下性性腺機能低下症はこれまで永久疾患と考えられてきましたが、約10%に自然軽快がみられることも報告されていますが再発も報告され、いったん改善したとしても長期的なフォローを必要とします。
類宦官症になりやすい人・予防の方法
原発性であるクラインフェルター症候群は、1000人の男児のうち1~2.5人程度の割合で生まれてくるとされます。その中でクラインフェルター症候群と診断されるのは25~50%程度とされ、生涯にわたって診断されない人もいます。特発性性腺刺激ホルモン分泌低下性性腺機能低下症は男女ともに発症しますが、男性に有意に多いとされ、概ね10万人に1.2〜10名程度と考えられています。フィンランドの疫学調査によると、カルマン症候群の推定有病率は1/48,000人で、男性は1/30,000人、女性は1/125,000とされています。遺伝的な要因(家族に同じ症状の人がいる)を持つ人は発症リスクが高いとされています。クラインフェルター症候群やカルマン症候群のように、先天的な要因が原因であることが多いため、予防は困難です。ただし、早期発見・早期治療により、二次性徴の発来や不妊治療への対応が可能になります。
参考文献
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- 6)Up to date:Clinical features and diagnosis of male hypogonadism
- 7)Up to date:Isolated gonadotropin-releasing hormone deficiency (idiopathic hypogonadotropic hypogonadism)




