目次 -INDEX-

前田 広太郎

監修医師
前田 広太郎(医師)

プロフィールをもっと見る
2017年大阪医科大学医学部を卒業後、神戸市立医療センター中央市民病院で初期研修を行い、兵庫県立尼崎総合医療センターに内科専攻医として勤務し、その後複数の市中急性期病院で内科医として従事。日本内科学会内科専門医、日本腎臓学会腎臓専門医、日本透析医学会透析専門医、日本医師会認定産業医。

持続勃起症の概要

持続勃起症とは、性的刺激・性的興奮と無関係である勃起が4時間を超えて持続している状態と定義されます。虚血性持続勃起症(陰茎に酸素が少ない状態)と非虚血性勃起症(陰茎に酸素が十分にある状態)の2種類に分類されます。4時間を超える場合は何らかの処置が必要とされていることから、虚血があるかどうかの鑑別が重要となります。非虚血性持続勃起症の場合は経過観察を行い自然治癒することが多いですが、虚血性持続勃起症は早期に治療介入を行わなければ不可逆的な性機能障害をきたす可能性があり、外科的治療を含めた治療介入を行う必要があります。

持続勃起症の原因

正常な勃起とは、性的刺激により陰茎海綿体内の血流が一時的に増加することによりもたらされ、陰茎から流出する静脈血が減少することにより維持されます。持続勃起症は大きく2つに分類され、虚血性持続勃起症と非虚血性持続勃起症があります。

虚血性持続勃起症とは、陰茎の酸素が少ない状態を示します。陰茎から流出する静脈血流量が減少することにより陰茎内の血液がうっ滞し勃起が持続します。つまり、陰茎から静脈を通じて血液が出ていかないことにより陰茎が大きくなっているため、新しい血液が陰茎に入りにくくなります。血液がうっ滞すると、十分な酸素を有する新鮮な血液が陰茎に行きわたらないのです。このように、血液自体は十分に溜まっていますが酸素が十分に入った血液が少なく酸欠になることから「虚血」と表現されます。

非虚血性持続勃起症とは、陰茎の酸素が十分に保たれている状態を示します。動脈の損傷により陰茎に流入する動脈血が増加することにより起こります。つまり、陰茎へ血液が動脈を通して入っていきますが、動脈が傷ついたりしているとその分過剰な血液が陰茎に入ってしまう状態です。しかし、静脈という血液を陰茎の外に出すメカニズムは正常であるためうっ滞は起こらず、陰茎には常に酸素を十分に含んだ大量の血液が入ることにより、勃起が維持されるため「非虚血」と表現されます。

両者の相違点は陰茎海綿体が低酸素に晒されるかどうかという点です。虚血性持続勃起症は低酸素状態に晒され治療が必要です。

海外での疫学研究では95%が虚血性持続勃起症とされ鎌状赤血球症による持続勃起症が多いとされますが、本邦の研究では40%程度と報告されています。最多の原因は薬剤性であり、抗うつ薬、抗精神病薬が多いとされます。α1遮断薬、ホスホジエステラーゼ5阻害薬、プロスタグランジン製剤の海綿体注射などによっても引き起こされることがあります。次に原因として多いのが慢性骨髄性白血病で、サラセミアなどの血液疾患で起こることがあります。非虚血性持続勃起症は動脈の破綻が原因となるため、会陰部打撲による鈍的外傷が約86.8%を占め一般的な原因となり、外傷から時間が経過して発症することが多いです。他には泌尿器的手術・処置後、自慰行為などが原因となりえます。

持続勃起症の前兆や初期症状について

虚血性持続勃起症では勃起状態は完全かつ陰茎硬度も極めて硬い状態となり、疼痛を伴います。うっ血のため、陰茎がやや黒ずんだように見えます。一方、非虚血性持続勃起症では陰茎は不完全勃起であり、疼痛を伴わず、血色がよく見えます。非虚血性持続勃起症では、会陰部(陰茎海綿体脚部=いわゆるペニスの根本)を圧迫することにより動脈からの血流が少なくなり、勃起が消失するとされます。

持続勃起症の検査・診断

血液検査では、白血球数や白血球分画、貧血や血液凝固系検査などを行います。虚血性による慢性骨髄性白血病が原因の場合、白血球異常増多が認められます。また、陰茎海綿体内の血液ガス分析は、非虚血性と虚血性の鑑別に有用で、虚血性の場合には血液ガス所見は静脈血の様な所見となり、非虚血性の場合は動脈血の様な所見となることが多いです。超音波によるカラードプラ検査で血流の有無を確認します。造影CTで会陰部損傷の評価を行うこともあります。内陰部動脈造影を行うこともあります。

持続勃起症の治療

虚血性では陰茎海綿体内圧が上昇しており、早急に治療が必要です。脱血・海綿体洗浄・冷却を試みることもありますが、治療成功率は低く推奨されていません。標準的な薬物療法としては、塩酸エチレフレンやエピネフリンといった交感神経刺激薬を投与し勃起を消退させます。約20%程度が奏効します。

外科的治療としては、遠位シャント術を行います。それでも無効であれば近位シャント術を施行します。

非虚血性持続勃起症ではほとんどが経過観察や冷却で改善するとされます。血管造影を行い血管塞栓術を行うこともあり、治療奏効率は1回目で60~70%、2回以上の塞栓術を含めると89%の奏効率とされます。合併症としては勃起不全があり、15~20%に出現するとされます。ホルモン療法を行う方法も報告されていますが、本邦では保険適応に関して制限があり一般的ではありません。

陰茎海綿体の虚血状態が6時間以上持続すると海綿体組織に変化が生じるとされ、12時間で海綿体平滑筋に組織学的変化・間質浮腫が出現します。24時間以上では約90%が治療後も勃起不全となり、36時間持続した場合には、治療後の勃起不全は避けられないとされます。術後の勃起不全が改善するのは1~5ヶ月程度必要とされ、約32%程度が勃起不全が持続したという報告があります。

持続勃起症になりやすい人・予防の方法

10万人あたり0.73例の発症頻度とされています。5~10歳の小児と20~50歳の成人期にピークがあるとされます。予防の方法はエビデンスが十分なものは確立されていませんが、原因となる薬剤を避けること、原因疾患の治療、会陰・陰茎の外傷に注意することが発症を防ぐと考えられます。

参考文献

  • 佐々木 春明, 他:持続勃起症―虚血性持続勃起症と非虚血性持続勃起症. 臨床泌尿器科 65巻 6号 pp. 399-406. 2011
  • 江夏 徳寿:持続勃起症. 臨床泌尿器科 72巻 3号 pp. 248-253. 2018
  • Roghmann F, et al. Incidence of priapism in emergency departments in the United States. J Urol. 2013;190(4):1275.
  • Cherian J, et al. Medical and surgical management of priapism. Postgrad Med J. 2006;82(964):89.
  • Up to date:Priapism

この記事の監修医師