精巣腫瘍
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

精巣腫瘍の概要

精巣腫瘍は、遺伝や環境要因が発症に絡む病気です。家族歴や停留精巣の既往が知られたリスク要因であるほか、胎児期の環境や、低体重出生、放射線被ばくなども発症に関与すると考えられています (参考文献 1) 。初期には痛みのない腫れしこりとして気づくことが多いですが、骨盤周辺の鈍痛、遠隔転移による骨やリンパ節の症状が先行する場合もあります (参考文献 2) 。診断には視触診や超音波検査、CT・MRI、腫瘍マーカーの測定を組み合わせ、悪性が疑われれば手術により精巣を摘出して病理診断を行います。治療は、摘出した精巣腫瘍の病理診断結果と進行度に応じて、化学療法や放射線療法を組み合わせて集学的治療を行います (参考文献 1) 。

精巣腫瘍の原因

成人の精巣に発生する腫瘍の多くは「胚細胞腫瘍」と呼ばれる種類のものです。精巣腫瘍の発生には遺伝要因と環境要因が複雑にかかわることが知られています。後述するような家族歴や停留精巣の既往が発症リスクとして知られている他には、胎内のホルモン環境や母親の喫煙といった胎児のときの要因や、低体重児として生まれること、放射線被ばくなど、様々な因子が関連しているのではと考えられています (参考文献 1) 。

精巣腫瘍の前兆や初期症状について

精巣腫瘍は片方の精巣の、痛みのない腫れやしこりとして気づかれることが多いですが、下腹部や肛門周囲、陰嚢の鈍い痛みを自覚することもあります (参考文献 2) 。
精巣腫瘍は転移しやすい疾患であり、転移による症状で気づかれることもあります。首のリンパ節に転移したときの首のしこり、骨に転移したときの骨の痛みや腰痛、消化管の近くのリンパ節に転移すれば食欲不振や吐き気、肺転移による咳、神経系が障害されることによる痺れや痛み、足の血管が圧迫されたり詰まることによる足の浮腫みが症状として出現することがあります (参考文献 2) 。
精巣腫瘍のなかには、ホルモンを分泌することが特徴のものがあります。それにより性欲減退や胸が膨らんでくる (女性化乳房) という症状が出ることがあります (参考文献 2) 。
精巣腫瘍は比較的早期から精巣以外の場所への転移をきたすことが知られています。気になる症状があればお近くの泌尿器科を受診してください。

精巣腫瘍の検査・診断

問診によって精巣腫瘍の危険因子の有無を評価したり視触診をするほかの検査としては、超音波検査 (エコー) やCT・MRIといった画像診断、精巣腫瘍に関連する腫瘍マーカーの測定をします (参考文献 1) 。エコーは腫瘍の性状や血流を評価することで鑑別が必要な良性疾患と区別することに有用ですし、CTやMRIは転移の有無や病気の進行度合いを評価するために必要です。
これらの結果から「悪性の精巣腫瘍が疑わしい」と判断される場合には、手術で精巣を摘出し、顕微鏡で腫瘍のタイプを確かめる病理診断をします。

精巣腫瘍の治療

手術で精巣を摘出して、病理診断で腫瘍のタイプを確かめ、画像検査から進行度が決まれば、それに応じた治療をしていきます。
精巣腫瘍、特に多い胚細胞腫瘍のなかでも「セミノーマ」と呼ばれるタイプのものか「非セミノーマ」というものかで治療戦略が異なります。ごく初期の状態で腫瘍摘出ができた場合には経過観察のみになることもありますが、それ以外の場合には化学療法や放射線療法を組み合わせて治療をしていきます (参考文献 1) 。

精巣腫瘍は若年の発症が多いことが特徴です。20~30代の患者が多く (参考文献 1) 、結婚や子供のことを考える時期と発症のピークが重なるという残酷さがあります。精巣腫瘍転移があっても化学療法や放射線治療により良好な予後が得られるようになってきていますが、その先の生活が長いからこそ治療による副作用について深く理解する必要があります。疑問に感じることがあれば担当の医師に遠慮せず相談してください。
精巣の摘出やその後の治療が、「子どもができにくくなる」という形で影響してくることがあります。精子の保存を検討することもできますので、ライフプランに関しても担当の医療従事者へご相談ください。

精巣腫瘍になりやすい人・予防の方法

精巣腫瘍、特に胚細胞腫瘍の危険因子がいくつか知られています。血の繋がった親族に精巣腫瘍の患者がいる人は発症率が高いことが知られていて、父親が精巣腫瘍であればリスクが約4倍に、兄弟が精巣腫瘍であれば約8倍の発症リスクがあるとされています (参考文献 1) 。家族歴の他には「停留精巣」がリスクとして知られています (参考文献 1) 。通常は生まれてくるころには陰嚢の中に精巣が入った状態になっていますが、一定確率で陰嚢の中に精巣が入らないまま生まれてくる赤ちゃんがいます。生後半年までは自然に精巣が陰嚢の中に入ることが期待できますが、それ以降は停留精巣として治療介入が必要になります。治療が遅くなるほど精巣腫瘍の発症リスクが高まるとされているため (参考文献 1) 、停留精巣と診断された際には適切な時期に治療をしましょう


関連する病気

  • 精巣癌
  • 精巣嚢胞
  • Leydig細胞腫瘍

参考文献

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