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前立腺炎
村上 知彦

監修医師
村上 知彦(薬院ひ尿器科医院)

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長崎大学医学部医学科 卒業 / 九州大学 泌尿器科 臨床助教を経て現在は医療法人 薬院ひ尿器科医院 勤務 / 専門は泌尿器科

前立腺炎の概要

前立腺炎は、前立腺に炎症が生じる疾患です。前立腺は男性のみに存在する臓器であり、精液の一部を生成する役割を担っています。前立腺炎は幅広い年代の方に見られる疾患ですが、特に若年層から中年層にかけて多く見られます。
前立腺炎は急性と慢性に分類され、さらに細菌性と非細菌性に分けられます。急性前立腺炎は尿が出にくい、痛み、血尿といった尿に関する症状や会陰部付近の痛みが出現します。一方、慢性前立腺炎は原因が特定困難なことも多いため、根本的な治療が難しいとされています。加えて症状が持続しやすく、生活の質を大きく損なうことがあります。

前立腺炎の原因

前立腺炎の原因は多岐にわたりますが、主に以下のように分類されます。

細菌性前立腺炎

細菌性前立腺炎は、細菌感染によって引き起こされます。急性細菌性前立腺炎の主な原因菌は、大腸菌(Escherichia coli)やその他の腸内細菌群です。これらの細菌が尿道を通じて前立腺に侵入し、炎症を引き起こします。慢性細菌性前立腺炎の場合、細菌が前立腺内に持続的に存在し、慢性的な炎症を引き起こします。

非細菌性前立腺炎

非細菌性前立腺炎の原因は明確には解明されておらず、慢性化しやすい傾向があります。何らかの要因により、前立腺に尿が逆流して炎症を起こすことや、長時間の座位などで会陰部が圧迫され、血流障害を起こすことで神経や筋肉が傷害され痛みや炎症を引き起こすと考えられています。
ほかにもストレスや自身の免疫系が前立腺の組織を攻撃することで炎症が生じる自己免疫反応などが原因になりうると言われています。

前立腺炎の前兆や初期症状について

前立腺炎の前兆や初期症状は多様であり、以下のような症状が見られます。これらの症状がある場合は泌尿器科を受診するとよいでしょう。

  • 尿の出が悪い、尿意を感じる頻度が増える
  • 排尿時の痛みや灼熱感、排尿後の違和感
  • 会陰部、下腹部、腰部、陰茎にかけての痛み
  • 尿に血が混じる(血尿)
  • 発熱や悪寒(急性前立腺炎の場合)

前立腺炎の検査・診断

前立腺炎の診断には、以下の検査が行われます。ただし、前立腺炎の症状はほかの疾患でも見られることが頻繁にあるため、原因を調べます。

身体検査

直腸診を行い、前立腺の大きさ、形状、硬さなどを確認します。前立腺が腫れていたり、圧痛がある場合は前立腺炎が疑われます。

尿検査

尿を採取し、細菌の有無や白血球の数を調べます。細菌が検出された場合は、細菌性前立腺炎が疑われます。

前立腺液の検査

前立腺液を採取して顕微鏡検査を行います。前立腺液中の白血球や細菌の有無を確認します。

血液検査

炎症反応(白血球数やC反応性蛋白(CRP))の増加などから炎症の程度を評価したり、臓器の機能を確認するために血液検査を行います。

尿流量検査・残尿測定検査

前立腺炎では排尿障害の患者さんも多く、排尿状態の確認のために行います。

超音波検査

前立腺の大きさを評価したり、結石や膀胱がんなど、その他の泌尿器疾患の有無を検索する場合もあります。

内視鏡検査

膀胱の中の病気による症状でないか、場合によっては直腸などの大腸に症状の原因がないかを確認する必要があることもあります。

前立腺炎の治療

前立腺炎の治療は、原因や症状の重さによって異なります。

細菌性前立腺炎の治療

急性細菌性前立腺炎は、抗生物質の投与が基本となります。治療期間は通常4〜6週間です。症状は治療開始後数日から1週間程度で改善することが多いですが、完全に治癒するまでには数週間かかることがあります。重症の場合は、入院して点滴での抗生物質投与が必要となることもあります。

慢性細菌性前立腺炎の場合も、抗生物質による治療が行われますが、治療期間は6〜12週間と長くなることがあります。また、抗生物質に加えて、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や排尿障害を改善する目的でα遮断薬が併用されることがあります。慢性の場合、症状の改善には数週間から数ヶ月かかることがあり、完治しない場合もあります。その場合は、継続的な管理と追加の治療が必要です。

非細菌性前立腺炎の治療

非細菌性前立腺炎の治療は、症状の管理が主となります。抗生物質は通常効果がないため、以下のような治療法が用いられます。

  • 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
    痛みや炎症を軽減するために使用されます。
  • α遮断薬
    前立腺肥大を抑え、排尿困難を改善するために使用されます。
  • 理学療法
    マッサージ療法などが症状の緩和に役立つことがあります。

また、前立腺炎の治療を始めてからも症状が改善しない場合、以下のような対応が考えられます。

  • 追加の検査
    ほかの潜在的な原因を排除するために、さらなる検査が必要となることがあります。例えば、CTやMRIなどの画像検査や膀胱鏡検査などが行われることがあります。
  • 専門医の紹介
    泌尿器科専門医や疼痛管理専門医の診察を受けることが推奨される場合があります。
  • 集学的疼痛管理
    慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群(CP/CPPS)の場合、薬物療法に加えて理学療法、生活習慣の改善などを組み合わせる治療が有効な場合があります。これを集学的治療といいます。

前立腺炎になりやすい人・予防の方法

前立腺炎のリスク要因には以下のようなものがあります。
年齢
若年層から中年層の男性に多く見られます。
性行為
頻繁な性行為や複数の性パートナーがいる場合、細菌感染のリスクが増加します。
既往症
過去に前立腺炎を経験したことがある場合、再発のリスクが高くなります。

確立された予防方法はありませんが、以下のような方法が考えられます。
適切な衛生管理
性行為後や排便後に適切な清潔を保つことが重要です。
定期的な運動
長時間の座位など特に会陰部に負担をかける姿勢を避け、一定の時間ごとに軽く歩く。また、適度な運動は免疫力を高め、感染症のリスクを減少させます。
バランスの取れた食事
肉を中心とした欧米風のライフスタイルは前立腺肥大をきたしやすくなることが知られています。魚や野菜の摂取に変更することで、尿の通過障害をきたす前立腺肥大の発症や悪化を抑制します。

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