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前立腺がん
澤田 樹佳

監修医師
澤田 樹佳(富山県のさわだクリニック)

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経歴
20022金沢大学卒 / 2014年金沢大学大学院卒 / 現在は、富山県のさわだクリニック院長 / 専門は泌尿器科、在宅、緩和医療、東洋医学
保有免許・資格
泌尿器科専門医、指導医
医師へのコミュニケーションスキルトレーナー

前立腺がんの概要

前立腺は男性特有の器官で、尿道を取り巻くように膀胱の直下に位置し、栗の実のような形をしています。
前立腺の主な機能は、精液の一部として分泌される前立腺液の生成です。前立腺液中にはPSA(前立腺特異抗原)というタンパク質が含まれており、成分の大部分は精液とともに排出されますが、一部血液にも流れ込みます。

前立腺がんは、前立腺の細胞が異常をきたし、制御不能に増殖する病状を指します。
がん細胞は初期段階で発見されれば治療できる可能性がありますが、進行するとリンパ節や骨への転移を見せるようになります。
前立腺がんは進行が緩やかな傾向にあり、15〜20年程かけて、①局所限局がん→②局所進行がん→③転移がん→④ホルモン不応がん→⑤死亡の順に進行すると考えられています。

また、前立腺がんにはラテントがんという病態があります。ラテントがんとは、生前にはがんが発見されず、ほかの病気による死後の解剖で初めて発見されるがんのことです。前立腺がんは進行が緩やかで寿命に影響を及ぼさないことがあるため、このようなことが起こり得ます。
ラテントがんは加齢とともに増加する傾向にあり、50歳以上の約20〜30%に認められます。そのため、定期的な検査による早期発見が重要とされています。

前立腺がんの原因

前立腺がんは、中高年の男性で発症しやすい傾向にあり、原因は多岐にわたります。例えば、加齢やホルモンバランスの変化、食生活、人種的要素、遺伝的要因が考えられています。

前立腺がんの発症には男性ホルモンが重要な役割を担っているとされ、年齢とともに起るホルモンバランスの変化が、がん細胞の成長を促す一因となります。特に50歳を超えると前立腺がんのリスクが増加するため、定期的な健診が推奨されます。

また、欧米型の食習慣も関与していると考えられています。動物性脂肪を摂取する機会が増えたことで、高脂肪、高タンパク、高糖質の食事は、前立腺がんの発症率を高めると考えられています。
反対に、前立腺がん発症リスクを下げる食べ物として、大豆が挙げられます。大豆製品に含まれるイソフラボンは、エストロゲンと同様の働きを持ちます。エストロゲンは男性ホルモンを抑制する働きがあるため、前立腺がんの抑制には役立つ可能性があります。

前立腺がんの発症には、特に若年で発症した場合は、遺伝的要因(家族歴)も挙げられます。直系親族に前立腺がんの患者さんがいる場合、前立腺がんの発症率が上昇する可能性があります。

これらの要因が複雑に絡み合うことで、前立腺がんは発症しますが、決定的な原因はまだ解明されていません。
したがって、リスクを管理するためには、バランスの取れた食生活、定期的な健康診断、家族歴の把握が重要となります。

前立腺がんの前兆や初期症状について

前立腺がんは初期段階で自覚症状が現れにくい病気です。症状が出始めるのは多くの場合、がんが成長し尿道を圧迫するようになった時といわれています。
尿道が圧迫されると、尿が出にくくなる、排尿回数が増える、残尿感が残る、時には尿失禁が生じるなどの排尿に関する問題が生じます。
これらの症状は、前立腺肥大症と共通しているため、単に年齢による変化と見過ごされてしまうこともあります。
前立腺肥大症は内側から肥大して頻尿や下腹部の不快感などの症状が出てきますが、前立腺がんは主に外側に発症します。

また、がんが進行して周辺の臓器に影響を及ぼすと、血尿や便秘などの症状が現れる場合があります。
さらに進行してがんが骨に転移すると、腰痛などの慢性的な痛みを引き起こす可能性もあります。上記の症状が現れた際は、早急に泌尿器科を受診してください。

前立腺がんの検査・診断

前立腺がんの診断にはいくつかの段階があります。主に、PSA検査、直腸診、前立腺生検、画像診断が行われます。

最初のステップとして行われるPSA検査は、血液中のPSA(前立腺特異抗原)レベルを測定し、がんの可能性を探る検査です。PSAレベルが高い場合、前立腺の問題を示唆している可能性がありますが、PSA検査だけで確定診断を下すことはできません。

次に行われる直腸診では、医師が肛門を通して前立腺を触診し、前立腺の硬さや表面の異常の有無を確認します。
また、経直腸エコーは、超音波を使用して前立腺の画像を詳細にとらえ、がんの位置や大きさを評価するために用いられます。

画像診断では、CT検査やMRI検査を通じて、がんの転移の有無や周辺組織への影響を調べます。CT検査およびMRI検査は影剤を使用するため、アレルギー反応が起こることがあります。
また、骨シンチグラフィは骨転移を探るのに用いられ、前立腺がんの進行度を把握するのに役立ちます。

もし、検査でがんの疑いが強まった場合は、前立腺生検が実施されます。前立腺の小さな組織片を採取し、顕微鏡下でがん細胞の有無を調べます。
前立腺生検の合併症には、出血や感染、排尿困難などが挙げられます。なかでも血尿、血便、精液に血が混じる血精液は頻度が高い傾向にありますが、重篤な感染症はまれといわれています。生検後に発熱などがある場合は、担当の医師へ報告が必要です。

上記の検査を組み合わせることで、前立腺がんの正確な診断、適切な治療へと繋がっていきます。

前立腺がんの治療

前立腺がんの治療法は多岐にわたり、がんの進行度や患者さんの状態に応じて選択されます。
前立腺がんの主な治療法には、監視療法や手術(外科治療)、放射線治療、ホルモン療法(内分泌療法)、化学療法があります。

【監視療法】
監視療法とは、前立腺生検で見つかったがんが大人しく、ただちに治療を開始せずとも余命に影響がないと判断される場合に行われます。経過観察を行いながら過剰な治療を防ぐ方法です。

【手術(外科治療)】
初期の前立腺がんで、がんが前立腺内に限定されている場合、前立腺全摘除術が主な治療として行われます。前立腺と精嚢を摘出し、必要に応じてリンパ節の郭清も行います。
手術方法には、下腹部を切って行う開腹手術、腹部を小さく切開し、内視鏡を使って行う腹腔鏡手術、手術支援ロボットを用いるロボット支援手術があります。

前立腺がん手術後の合併症には、尿失禁や勃起障害(ED)が挙げられます。これらを防ぐことは難しく、尿道括約筋や神経温存の程度、年齢、術前の勃起能などで回復度は異なりますが、完全に戻ることは難しいといわれています。
ただし、神経を温存した手術後の勃起障害の場合は、飲み薬での治療も有効といわれています。

【放射線療法】
放射線療法には、体外照射と組織内照射の二種類があります。
体外照射は高エネルギー放射線を利用してがん細胞を破壊する方法です。
組織内照射では放射性物質を前立腺内に直接埋め込みます。
これらの方法は手術に比べて尿失禁やEDのリスクが低いとされていますが、放射線による皮膚炎や頻尿などの副反応が生じる可能性があります。

【ホルモン療法(内分泌療法)】
ホルモン療法は、テストステロン(男性ホルモン)の生成抑制によりがんの進行を遅らせる治療です。女性ホルモン剤の投与や抗男性ホルモン剤の使用などを行います。
精巣摘除術もホルモン療法に含まれます。男性ホルモンが多く作られている精巣を両側摘出する手術で、外科的ホルモン療法(外科的去勢)とも呼ばれます。

がんが前立腺の外に浸潤している患者さんには、ホルモン療法を単独あるいは放射線療法と組み合わせて行います。
手術や放射線治療を行うことが難しい場合や、放射線治療の前か後、がんがほかの臓器に転移した患者さんには、主としてホルモン療法を行います。

【化学療法】
化学療法は薬の注射や点滴または内服により、がん細胞の消滅や、小さくすることを目的に行われます。転移があるがんで、ホルモン療法が効かない去勢抵抗性のがんに適用されます。抗がん剤を用いた化学療法が必要となる場合もあります。

投与量にもよりますが、貧血や食欲不振、脱毛などの副作用が見られることがあります。

前立腺がんになりやすい人・予防の方法

前立腺がんのリスクは年齢とともに増加し、50歳を超えた男性に顕著だといわれています。しかし、まれではありますが、若年層での発症例も存在します。
前立腺がんになりやすい主な要因には、遺伝的要素、人種的要因、食生活、ホルモンバランス、およびそのほかの生活習慣が含まれます。

遺伝的要素として、前立腺がんの家族歴がある方は、病気のリスクが約2倍以上増加するといわれています。
ご家族がBRCA1やBRCA2などの遺伝子変異を持っている場合も注意が必要です。BRCA1・2のどちらか一方に変化が起こると、煙草やウイルス感染、加齢などでDNAに生じた変化をうまく修復できなくなり、がんが発生しやすくなると考えられています。

食生活も重要な要因で、高脂肪食や赤肉の多い食事はリスクを増加させる可能性があります。
逆に、大豆や野菜や果物、トマトやブロッコリー、オメガ-3脂肪酸を多く含む魚の摂取はリスクを低減する可能性があると考えられています。
食生活の要因は人種的要因ともつながっており、イソフラボンの摂取量や、腸内細菌の量が、欧米の方に前立腺がんが見られやすいことと関係あるのではと考えられています。

テストステロン(男性ホルモン)のバランスも、前立腺がんのリスクと関連しています。
テストステロン(男性ホルモン)のレベルが高かったり、乱れたりしている方はがんのリスクを高めると考えられていますが、まだ十分に解明されていません。

生活習慣のなかでも喫煙、肥満、過度のアルコール摂取は前立腺がんのリスクにつながります。
適度な運動やバランスの取れた食生活、適切な休息とストレス管理が重要です。

前立腺がんの予防には確実な方法がないものの、健康的な生活を心がけ、定期的な検診を受けることで早期発見と早期治療につながります。
定期的ながん検診は前立腺がんの早期発見だけでなく、前がん状態の発見にもつながるため、推奨されています。

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