目次 -INDEX-

左心低形成症候群
五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

プロフィールをもっと見る
防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。

左心低形成症候群の概要

左心低形成症候群(Hypoplastic Left Heart Syndrome : HLHS)は、生まれつき心臓の左側の発達が不十分な状態を指します。

左心低形成症候群を発症している新生児は、左心室が通常よりも小さく、左心室から出ている上行大動脈が細くなっています。また、僧帽弁(左心室の入口の弁)の狭窄または閉鎖が見られ、大動脈弁(出口の弁)も狭いか閉じています。
このような状況で新生児期を生き延びることはきわめて困難であり、従来は1か月以上の生存が難しいとされた疾患でしたが、医療技術の進歩により治療の可能性が生まれています。

しかし現在でも、治療には高難度の手術が複数回必要になるなど、左心低形成症候群は先天性心疾患の中でもきわめて重篤な疾患の1つとして知られ、厚生労働省の指定難病に登録されています。

左心低形成症候群は心臓の部屋や弁が十分に成長しないことが原因とされ、遺伝的要因の関与も指摘されていますが、発症メカニズムは現在のところ明確ではありません。。

出生直後にはチアノーゼや呼吸困難、ショックなどの症状が現れ、動脈管が閉じることで急激に状態が悪化します。
診断には心臓超音波検査が用いられ、必要に応じて他の検査も追加されます。

治療は外科手術が基本です。
まず、薬剤投与をおこない、動脈管を開いた状態を保ちます。
その後はノルウッド手術、グレン手術、フォンタン手術という3段階の手術を進めていきます。
患者の状態により代替手術が選択されることもあります。

術後は一時的に退院が可能な場合もありますが、継続的な薬物治療と定期検査が必要で、長期的な治療が不可欠な疾患です。

出典:難病情報センター 左心低形成症候群(指定難病211)

左心低形成症候群の原因

左心低形成症候群は、赤ちゃんが母親のお腹にいるときに心臓が正常に発達しなかったことが原因で発症します。

具体的には、赤ちゃんの心臓が作られる過程において心臓の部屋や弁(心臓の4つの部屋の間にある、血液の流れや方向をコントロールするための組織)などが十分に成長しないために起こると考えられています。
現時点では特異的な遺伝子変異は見つかっておらず、詳しい発症メカニズムは明らかになっていません。

妊娠中の胎児超音波検査で前兆を発見できるケースもあります。ただし、左心低形成症候群があっても妊娠経過、胎児の成長は正常と見分けがつかないことも多いとされています。早期発見と適切な治療開始のためにも、定期的な妊婦検診の受診が推奨されます。

左心低形成症候群の前兆や初期症状について

左心低形成症候群の赤ちゃんは「動脈管開存」「心房中隔欠損」という心臓の構造上の異常も合併しているのが通例で、正常な血液循環ではないものの「動脈管」を通じて全身に血液が巡っています。しかし、動脈管は本来は胎児期に役割を果たす血管であり、生後1日~2日という短期間で閉じてしまいます。

左心低形成症候群の赤ちゃんは、動脈管が閉じると、全身に十分な血液を送れなくなり、急激に症状が悪化します。

具体的には、全身のチアノーゼが目立つようになったり、呼吸が荒くなったり、泣き声が弱くなったりします。
手足が異常に冷たくなったり、脈が速くなったり、脈が触れにくくなったりすることもあります。

さらに低血圧や肝臓が腫れるなどのショック症状も生じることがあります。
これらの症状により、適切な医療処置がなされない場合は、左心低形成症候群の赤ちゃんが新生児期を生き延びるのは難しいとされています。

左心低形成症候群の検査・診断

左心低形成症候群の診断は、心臓超音波検査を用いておこなわれます。

出生後に症状が現れた場合は、心臓超音波検査をおこない、心臓の構造や血流の状態を詳しく調べます。
左心室の大きさや、僧帽弁や大動脈弁が閉じていたり、狭くなっていたりしないかを確認し、診断を確定します。
あわせて、ほかの心臓病を合併していないか、三尖弁に逆流はないかなども詳しく調べます。

さらに必要に応じて、心臓カテーテル検査や造影検査、心臓MRI検査、CT検査など、より詳しい検査を追加でおこなう場合もあります。

赤ちゃんが母親のお腹にいる胎児期にも、妊婦健診でおこなわれる胎児超音波検査により、心臓の異常が発見されることがあります。
胎児期に診断されることで、生まれてすぐに詳しい検査をおこない、早期治療につなげることが期待できます。

ただし、左心低形成症候群があっても妊娠経過、胎児の成長は正常と見分けがつかないことも多いとされているため、必ずしも出生前に発見できるわけではありません。

左心低形成症候群の治療

左心低形成症候群の治療は、外科手術をおこないます。

まず、出生直後からプロスタグランジンという薬剤の点滴治療をおこない、動脈管が開いた状態を保ち全身への血流を維持します。
場合によっては、動脈管にステントと呼ばれる小さな筒状の器具を入れて血管を広げることもあります。

次に、赤ちゃんの全身の血流状態を管理しながら、段階的に手術を進めていきます。
最初にノルウッド手術、次にグレン手術、最後にフォンタン手術と、3回にわたり手術をおこなうのが基本的な流れです。

術前に動脈管が閉じかかっていてショック症状がみられた場合は、強心剤や利尿薬、抗生物質を用いて腎不全や腸閉塞、敗血症、アシドーシスなど命に関わる合併症を防ぐ治療もおこないます。

1回目のノルウッド手術では、新しい大動脈を作り直す手術をおこないます。
手術を受ける病院によっては、ノルウッド手術の代わりに、両側肺動脈絞扼術(りょうそくはいどうみゃくきょうやくじゅつ:左右の肺動脈を絞り込む手術)が選択される場合もあります。
1回目の手術後は、生後6ヶ月頃を目安に2回目の手術としてグレン手術をおこないます。
さらに1〜2歳頃に3回目の手術としてフォンタン手術へ進みます。

ただし、すべての患者がフォンタン手術に到達できるわけではなく、途中で患者の状態を見て慎重な判断が求められることもあります。

グレン手術が終わり、状態が安定している場合は、一度退院して自宅で様子をみながら生活することもできます。
退院後は、薬物治療を続けながら、定期的に超音波検査を受け、次の手術に向けた準備を進めます。

フォンタン手術が無事に終わると、日常生活に大きな制限がない状態での成長発育が期待できるとされています。
ただし、フォンタン手術に成功したからといって、心臓の構造や機能が完全に正常になるものではありません。術後もさまざまな障害が発生するリスクは残るため、定期的な診察や検査、薬物治療を続ける必要があります。

左心低形成症候群になりやすい人・予防の方法

左心低形成症候群は、現時点ではどのような人がなりやすいかは明らかになっていません。
兄弟に左心低形成症候群を持つ子どもがいる場合には、次に生まれてくる赤ちゃんに同じ病気を発症する可能性がわずかに高くなることが知られています。

左心低形成症候群の予防法は、現在のところ確立されていません。
予防が難しい病気ですが、妊婦健診を受けることで早期発見につなげることが期待できます。
胎児エコーで赤ちゃんの心臓の病気が見つかることもあるため、妊婦健診を定期的に受けることが重要です。

早い段階で異常に気づくことができれば、生後すぐに治療を開始できるため、赤ちゃんの命を守るためにも大きな意味があります。

関連する病気

この記事の監修医師