目次 -INDEX-

高宮 新之介

監修医師
高宮 新之介(医師)

プロフィールをもっと見る
昭和大学卒業。大学病院で初期研修を終えた後、外科専攻医として勤務。静岡赤十字病院で消化器・一般外科手術を経験し、外科専門医を取得。昭和大学大学院 生理学講座 生体機能調節学部門を専攻し、脳MRIとQOL研究に従事し学位を取得。昭和大学横浜市北部病院の呼吸器センターで勤務しつつ、週1回地域のクリニックで訪問診療や一般内科診療を行っている。診療科目は一般外科、呼吸器外科、胸部外科、腫瘍外科、緩和ケア科、総合内科、呼吸器内科。日本外科学会専門医。医学博士。がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了。JATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)修了。ACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)。BLS(Basic Life Support)。

右胸心の概要

右胸心(うきょうしん)とは、心臓が胸の右側にある状態を差します。心臓は通常、左側にありますが、遺伝子疾患など何らかの原因で右側にある方がいます。

右胸心には、鏡合わせのように心臓の位置や内部の構造が左右逆になる鏡像型右胸心と、心臓がそのまま右側に反転する孤立性右胸心があります。鏡像型は心臓の右室と右房、左室と左房が逆になりますが、孤立性右胸心は心房、心室の逆転はありません。どちらも心臓下部のとがった場所(心尖)が逆転(右向き)になるのが特徴です。

右胸心であっても心疾患などの合併症がなければ、健康上の問題はありません。たんなる個性で、支障なく日常生活ができます。心臓を含めて内臓の左右が反転している方(全内臓逆位)は、多くの場合で機能的に問題はありません。 しかし、生まれつき腺毛という組織のはたらきが弱い方(カルタゲナー症候群)は、右胸心など臓器が左右に反転することがあります。右胸心に加えて幼少期から慢性副鼻腔炎、気管支拡張症、風邪をひきやすい(易姓感染)など呼吸器症状が続く場合は、カルタゲナー症候群の可能性があります。

孤立性右胸心の方は、高い確率で心臓の奇形が出ることがあります。複雑な奇形になりやすく、疾患に応じた適切な医療処置が必要です。 右肺の摘出手術後や胸膜炎の後遺症などで、心臓が右側に移動することがあります。これは右側心(うそくしん)という状態で、右胸心とは区別します。右側心は心尖が正常(左向き)です。

右胸心の原因

右胸心の原因は、主に遺伝性と考えられています。胎児期に臓器の位置を決める遺伝子が、何らかの原因で機能しないときに起こると考えられています。どの遺伝子が右胸心の原因なのか、まだ全容は解明されていませんが、徐々に明らかになっています。 特にカルタゲナー症候群は常染色体潜在遺伝で、両親から原因遺伝子を受け継いだ際に発症します。

カルタゲナー症候群(線毛機能不全症候群)は、線毛という組織がうまく動かない先天性疾患です。この疾患がある患者さんには、しばしば右胸心や臓器反転が起こることがあります。 線毛は喉や気管の粘膜にある細かい毛のような組織で、鼻や口から入るホコリや細菌、ウイルスなどの異物をからめ取り、鼻や口から排出する働きがあります。線毛は精子が動くために欠かせない尾部や、卵管で受精卵を子宮まで運ぶために働く絨毛の線毛運動など、生殖にも大きく関わります。

右胸心と線毛は何の関係もないように見えますが、実は大きな関係があります。線毛の生成や運動に関わる遺伝子は、2024年6月時点で50ほど判明しています。そのうちの約半数の遺伝子が、胎児期に臓器の位置を決める遺伝子と関係があることがわかっています。 線毛の生成や運動が阻害されると、吸入された細菌やウイルスを外に出すことが難しくなります。そのため幼少期から慢性副鼻腔炎や風邪など感染症をひきやすい症状が続きます。大人になってから不妊症という形で症状が現れることもあります。

環境要因が重なることもあります。米国国立衛生研究所の発表では、妊娠中の違法薬物、特にコカインの使用が胎児の右胸心の発生リスクを上げるとされています。

線毛機能不全症候群は指定難病で、生涯にわたり適切な呼吸器の管理をする必要があります。しかし管理さえできれば呼吸機能障害の進行を遅らせ、生涯にわたり活動的に生活できるとされています。

右胸心の前兆や初期症状について

たとえ右胸心であっても、心疾患などを併発しなければ健康上問題なく、何の症状も現れません。しかし心疾患を併発している場合は、心臓病と同じ症状が表れます。 酸素不足で顔が青白くなる(チアノーゼ)、息切れなどの初期症状が表れることがあります。この場合はすぐに循環器内科循環器外科を受診してください。

右胸心があり、幼少期から慢性副鼻腔炎や風邪をひきやすいお子さんはカルタゲナー症候群の可能性があり、できるだけ早く小児科を受診してください。線毛の電子顕微鏡検査などで診断を行います。カルタゲナー症候群の場合は痰を吐く訓練など、早期から呼吸器を温存する対策が必要です。

右胸心でなかなか妊娠しない方は、線毛機能不全症候群の可能性があります。女性は婦人科、男性は泌尿器科を受診し、初診で右胸心であることを申告してください。たとえ線毛機能不全症候群でも、顕微授精を行えば妊娠は望めます。

右胸心の検査・診断

心エコーやCT、MRIなどの画像診断で検査、診断を行います。画像で心臓の位置や構造などの詳細を確認し、心奇形やほかの臓器の奇形などを調べます。 特に孤立性右胸心の方は心臓やほかの臓器に奇形が出ることがあります。心臓の右心室と左心室の間の壁に穴がある心室中隔欠損症、心房や心室の壁に異常がある房室中隔欠損症、心室が1つしか形成されない単心室などが代表的な発症例です。

心臓につながる大動脈に奇形が出ることもあります。 心臓には2本の大動脈がつながっています。心臓の右心室―右心房から肺に向かい、血液に酸素を取り入れる肺動脈と、肺から戻った血液を心臓の左心房―左心室から全身に送る大動脈があります。 この2つの動脈がどちらも右室につながり、酸素不足を起こす両大血管右室起始症、肺動脈と大動脈が逆につく完全大血管転位症、肺動脈が狭くなり心臓に過度な負担がかかる肺動脈狭窄症などを発症します。

心エコーでこれらの心奇形を検査、診断することができます。より詳細に検査するために、心カテーテル検査を行うこともあります。

右胸心の治療

右胸心であっても、自覚症状がない限りは経過観察のみ行います。 しかし心疾患がある場合は、投薬や手術などが原則必要です。軽度の心室中隔欠損症の場合は、経過観察のみ行うことがあります。

投薬

心臓を保護するために服薬を行うことがあります。 心不全を併発する場合は血圧を下げる薬を服用します。血圧を上げる物質を抑制するACE阻害薬、血管収縮を抑制するアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)、 血圧を上げるアドレナリンの受容体を遮断するβ遮断薬、ナトリウムを尿で排出させて血圧を下げるMRAなどの投与が有効です。 カルタゲナー症候群の方は感染症リスクが高く、気管支炎や肺炎を発症した際に抗菌剤を投与します。抗菌剤の効果がないウイルス性疾患を防ぐためにも、ワクチン接種で感染予防を併せて行います。

外科手術

心奇形を併発する場合は、正常に心臓が働けるように心臓の外科手術を行います。例えば心室中隔欠損症の場合は、穴に当て布を入れ、塗ってふさぎます。(パッチ閉鎖) 手術の内容や難易度は、心奇形の形状により大きく異なります。

右胸心になりやすい人・予防の方法

右胸心は遺伝的要素で発生すると考えられています。しかし心疾患など内臓の奇形がなければ経過観察で問題ありません。 しかし、健康上問題ない方でも注意すべき点があります。健康診断などで心電図を測る前に、必ず技師に右胸心であることを申告してください。右胸心の心電図の測り方は通常とは異なるため、申告しなければ再検査になります。

右胸心は先天性疾患のため、現時点では明確な予防法はありません。不妊治療中で、自分のお子さんに線毛機能不全症候群の遺伝を避けたい場合は、医療機関で遺伝カウンセリングを行うことをおすすめします。

関連する病気

  • 完全内臓逆位
  • 部分内臓逆位
  • 心房中隔欠損症
  • 心室中隔欠損症
  • ファロー四徴症
  • 大血管転位
  • 肺動脈狭窄
  • 大動脈縮窄
  • カルタゲナー症候群
  • 一次線毛運動不全症
  • 無脾症症候群

この記事の監修医師