

監修医師:
佐藤 浩樹(医師)
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北海道大学医学部卒業。北海道大学大学院医学研究科(循環病態内科学)卒業。循環器専門医・総合内科専門医として各地の総合病院にて臨床経験を積み、現在は大学で臨床医学を教えている。大学では保健センター長を兼務。医学博士。日本内科学会総合専門医、日本循環器学会専門医、産業医、労働衛生コンサルタントの資格を有する。
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単心室症の概要
単心室症とは、生まれつき心臓のポンプである心室が一つしか機能しない先天性心疾患です。通常、心臓には左心室と右心室がありますが、単心室症ではどちらかが極端に小さく、もう一方の心室(主心室)だけが働きます。左心低形成症候群や三尖弁閉鎖症などが含まれます。約5,000〜10,000出生に1人の頻度で発生します。以前は致死的でしたが、現在は手術により多くの患者さんが成人まで生存可能となっています。単心室症の原因
単心室症は胎児の心臓が形成される過程で起こる構造異常です。具体的には、胎児期の初期に心臓の原型となる心筒がループを形成しながら左右の心房・心室に分かれていく段階で何らかの障害が生じ、左右いずれかの心室の発育が極度に阻害されることが原因と考えられています。 例えば左心低形成症候群では、胎生期に左心室や大動脈の発育が阻害される要因(卵円孔の早期閉鎖、僧帽弁や大動脈弁の閉鎖・重度狭窄による血流低下など)が重なり、左心系構造が著しく小さくなると考えられています。三尖弁閉鎖症では、右側の房室弁が形成されないことによって右心室への流入が途絶え、右心室が十分に成長しないと考えられています。 このようにいくつかの発生学的仮説はあるものの、単心室症の根本原因は完全には解明されていません。現時点で明らかな原因となる遺伝子変異や環境要因は特定されておらず、多くは偶発的に起こる先天的な異常だと考えられています。単心室症の前兆や初期症状について
単心室症は出生前診断が可能な先天性心疾患の一つであり、妊娠中の胎児超音波検査(胎児エコー)で心臓に異常が疑われることがあります。しかし出生前に診断されずに生まれてきた場合、新生児期から乳児期早期に特徴的な症状が現れます。 主な初期症状はチアノーゼ(皮膚や唇が紫色になること)と呼吸障害です。単心室症では全身から戻ってきた青紫色の血液(静脈血)と肺で酸素を取り込んだ赤い血液(動脈血)が一つの心室で混ざり合うため、全身に送られる血液の酸素が不足し、生まれて間もない赤ちゃんでも唇や手足が紫色になるチアノーゼが見られます。 特に肺動脈が狭いタイプ(肺血流が少ない場合)では、酸素投与に反応しない重度の低酸素状態に陥ります。一方で肺動脈が狭くないタイプ(肺血流が多い場合)では、生後しばらくすると心臓に負担がかかりすぎて心不全症状(呼吸が荒い、哺乳不良、体重の増えが悪い、汗をかきやすいなど)が出現することがあります。 これらの症状は出生直後から数日以内に現れることが多いため、通常は産科医や新生児科医によって早期に指摘され、専門の小児循環器科医に引き継がれます。近年は新生児の出生時に経皮的な酸素飽和度スクリーニング(足の酸素濃度測定)を行う施設もあり、このような重症の先天性心疾患は早期発見されやすくなっています。もしご家庭で退院後の赤ちゃんにチアノーゼや哺乳困難などの異常が見られた場合は、迷わず小児科を受診してください。 単心室症が疑われた場合、専門的な設備のある病院に搬送され小児循環器科(小児科のなかで先天性心疾患を専門とする診療科)の医師による診察が行われます。また、成長後にフォンタン手術を受けた患者さんも、運動時の息切れや動悸などに注意が必要です。定期的に小児循環器科や成人先天性心疾患専門外来でフォローアップを受け、症状の変化があればすぐに相談することが大切です。単心室症の検査・診断
単心室症の診断には、心臓の構造を詳しく調べる検査が必要です。基本となるのは心エコー検査(超音波検査)で、胎児期から施行可能です。心エコーによって心室が一つしか機能していないこと、すなわち両方の心房からの血液が一つの心室に流れ込んでいる構造であることが確認できます。出生後に単心室症が疑われる場合、新生児集中治療室などで迅速に心エコーが行われ、ほとんどのケースはそれで診断が確定します。 加えて、心臓の詳細な構造や血流の状態を評価するために心臓カテーテル検査(細い管を心臓に入れて内部の圧力測定や造影を行う検査)や心臓MRI検査、心臓CT検査が行われることもあります。例えば心臓カテーテル検査では、肺動脈と大動脈の間の短絡(シャント)の有無や肺血管抵抗の値を測定し、外科治療の方針決定に役立てます。 MRIやCTでは心室や血管の形態を立体的に描出できるため、手術のシミュレーションに用いられることもあります。これらの検査結果を総合して単心室症のタイプ(主心室が左か右か、合併奇形の有無など)を判断し、適切な治療計画が立てられます。単心室症の治療
現在の医療では未発達な心室を出生後に正常な大きさ・機能にまで成長させることはできません。そのため、単心室症に対する治療は根治術(元の正常な心臓構造に戻す手術)ではなく、姑息術(症状を和らげるための手術)の組み合わせとなります。具体的には、生後すぐから乳児期・幼児期にかけて複数回の心臓手術を段階的に行い、一つの心室で全身と肺循環を維持できる特殊な血行動態(フォンタン循環)を確立することが目標となります。代表的な手術術式は以下のとおりです。肺動脈絞扼術(肺動脈バンディング)
肺血流が多すぎる場合に、生後早期に肺動脈にベルトを巻いて血流量を制限し、心不全症状を軽減します。体肺シャント手術
肺血流が不足する場合に、生後早期に鎖骨下動脈と肺動脈を人工血管でつなぐ手術(ブラロック・タウシグ(BT)シャント)を行い、肺に流れる血液量を確保します。ノーウッド手術
主に左心低形成症候群に対して、生後すぐ行われる大がかりな再建術式です。体肺シャントに加え、大動脈と肺動脈をつなぎ合わせて一本の大きな大動脈を作り、右心室から全身へ血液を送る経路を新たに形成します。両方向性グレン手術
生後6ヶ月〜1歳前後で行う第2段階の手術です。上半身から心臓へ戻る大静脈(上大静脈)を直接右肺動脈に接続し、上半身の静脈血が心臓を経由せず肺に流れ込むようにします。これにより主心室の負担を減らし、チアノーゼを一部改善します。フォンタン手術
2〜4歳頃に行う最終段階の手術です。下半身から戻る大静脈(下大静脈)も肺動脈に直接つなぎ、全身からの静脈血がすべて肺に流れ込んでから心室に戻るように経路を変更します。このフォンタン手術によって、全身に送られる血液は酸素豊富なものとなり、日常生活上のチアノーゼはほぼ解消されます。単心室症になりやすい人・予防の方法
単心室症の明確なリスク要因は知られておらず、多くは偶然に起こります。ただし、遺伝子異常や特定の症候群との関連もあります。 また、先天性心疾患を含む先天異常全般のリスクを減らす目的で推奨されている対策はいくつかあります。例えば、妊婦さんが葉酸を適切に摂取すること、妊娠前に風疹ワクチンを接種しておくこと、妊娠中の喫煙や飲酒を控えること、そして糖尿病などの持病を良好に管理することなどです。葉酸サプリメントの適切な用量の服用は胎児の神経管閉鎖障害の予防に有用ですが、一部の研究では先天性心疾患の発生率も低下しうることが報告されています。 また、肥満や喫煙、糖尿病などは先天性心疾患全般のリスク因子と指摘されており、妊娠中はできる限りこれらを避けることが望ましいとされています。ただし、これらを守ったからといって単心室症の発生を完全に防げるわけではなく、現時点では偶発的に起こる先天的な問題であることを念頭に置いておく必要があります。 妊娠中の定期健診で胎児超音波スクリーニングを受け、出生前に診断がつけば出産施設の選択や出生直後の治療準備を行うこともあります。また出生後の乳児健診を通じて、何か気になる症状があれば早めに医療機関に相談することが、重篤な状態になる前に対処するうえで大切です。関連する病気
- 総肺静脈還流異常(TAPVR)
- 大動脈転位症(TGA)
- 心房中隔欠損症(ASD)、心室中隔欠損症(VSD)
- 三尖弁閉鎖症
- 僧帽弁閉鎖症/小形成
- 肺動脈閉鎖症
参考文献




