

監修医師:
佐藤 浩樹(医師)
目次 -INDEX-
三尖弁狭窄症の概要
三尖弁狭窄症とは、心臓の右心房と右心室の間にある三尖弁という弁が厚く硬くなり、開口部が狭くなって血液の流れが滞る病気です。通常、三尖弁は右心房から右心室へ血液を送り出し、右心室が収縮して肺に血液を送る際にはしっかり閉じて血液が逆流しないように働いています。しかし、三尖弁が狭くなると、右心房から右心室への血液の流れが妨げられてしまいます。狭くなった弁はうまく開かないだけでなく、硬くなったせいでピタリと閉じなくなることもあり、その場合には血液が逆流してしまうこともあります。
三尖弁狭窄症の原因
三尖弁狭窄症は心臓の弁膜症のなかでもまれで、単独で発症することは少なく、ほかの弁の病気と合併することが多いです。多くの場合はリウマチ熱という病気が原因となりますが、以下で詳しく三尖弁狭窄症の原因について解説します。
リウマチ熱
三尖弁狭窄症の原因として最も多いのがリウマチ熱です。リウマチ熱とは小児期に起こる病気で、溶連菌という細菌による咽頭感染症を治療せずに放置した場合に発症することがあります。リウマチ熱になると全身の炎症反応によって心臓の弁が傷つき、後遺症として弁が硬く厚くなってしまいます。リウマチ熱が原因の場合、三尖弁だけでなくほかの弁も同時に悪くなることが多く、特に左心房と左心室の間の僧帽弁も狭くなる(僧帽弁狭窄症)ことがよく見られます
先天性の要因
生まれつき三尖弁が狭い先天性三尖弁狭窄症も原因の一つです。先天性の場合、胎児の心臓が形成される段階で三尖弁の発育に問題が起こり、右心室の入口が狭くなってしまいます。この原因は明確にはわかっていませんが、多くの場合に偶発的に起こり、特定の家系や体質に偏る傾向は知られていません。
三尖弁狭窄症の前兆や初期症状について
三尖弁狭窄症は軽度であれば長い間ほとんど症状が出ないことも珍しくありません。実際、ほかの心臓病の検査中に偶然に見つかる場合もあります。狭窄が徐々に進行して右心房の圧力が高くなってくると、次第に症状が現れます。初期には動悸や疲れやすさ・倦怠感、皮膚の冷たさなどの症状が見られることがあります。さらに進行すると、右心房の圧力が著しく高くなり、下肢のむくみ、腹水、肝臓のうっ血(うっ血肝)など、右心不全の症状がはっきりしてきます。
これらのうち日常生活で気付く症状としては、運動したときの極端な疲労感や息切れ、頸静脈が脈打って膨らんでいるのが見える、右の上腹部を押すと痛む、足がむくみやすくなる、といった症状が挙げられます。これらの症状はほかの心臓弁膜症や心不全でも見られるため、三尖弁狭窄症に特有の前兆ではありません。しかし、特に幼少期にリウマチ熱を患ったことがある方や、心臓のほかの弁膜症だと診断されている方は、こうした症状の変化に気付いたら医師に相談するとよいでしょう。
この際受診すべき診療科は、循環器内科を受診するのが適切です。最初はお近くの内科でも構いません。なお、すでに心臓弁膜症と診断され経過観察中の方がこうした症状の悪化に気付いた場合は、早めに主治医に報告し検査を受けるようにしてください。
三尖弁狭窄症の検査・診断
三尖弁狭窄症ではさまざまな検査を行い、診断をします。本章では、各種検査について解説します。
医師による診察
三尖弁狭窄症が疑われる場合、まず医師による診察が行われます。聴診器で心臓の音を聞くと、三尖弁が狭くなっているとき特有の心雑音が認められます。また、息を吸ったときに音が強くなる傾向があります。
心エコー検査
診断の決め手となる検査は心エコー検査です。心エコー検査では胸に超音波の機械を当てて心臓の中を観察し、三尖弁の形態や血液の流れを調べます。エコー画像で三尖弁が厚く硬くなって動きが悪くなっている様子や、弁の開口部が狭い様子が確認できます。
胸部X線検査
胸のレントゲン写真でもいくつかの所見が得られます。三尖弁が狭く血液が右心房にうっ滞すると、心臓の右上部(右心房)が拡大して映ることがあります。ただし、胸部X線だけで三尖弁狭窄症と特定することは難しく、主に心臓全体の大きさや肺うっ血の有無を確認するために行われます。
心電図検査
心電図では心臓の電気的な活動を記録します。三尖弁狭窄症では右心房に負荷がかかるため、心電図上で右心房の拡大を示唆する波形の変化が現れることがあります。
三尖弁狭窄症の治療
三尖弁狭窄症の治療では内科的治療や手術方法など、さまざまな治療から適切な治療を選択します。本章では、それぞれの治療について解説します。
経過観察と内科的治療
三尖弁狭窄症が軽度で症状がない場合、すぐに積極的な治療を行わず経過観察とすることがあります。定期的に心エコー検査などで狭窄の程度や心臓の状態をチェックし、悪化が見られないか確認します。症状が出現したり、狭窄が中等度以上と判断された場合には、まずお薬による内科的治療が行われます。具体的には、塩分の摂取を控える減塩食を心がけ、利尿薬を用いて体内の水分量を調整します。利尿薬に加え、アルドステロン拮抗薬を使うことで静脈の圧力を下げ、肝うっ血や浮腫の軽減を図ります。これらの薬物療法によって、狭窄そのものを治すことはできませんが、症状を緩和し合併症を抑える効果が期待できます。
手術療法(外科的治療)
三尖弁狭窄症そのものを根本的に治すには、狭くなった弁を広げる手術や、人工弁に取り替える手術が必要になります。ただし、三尖弁狭窄症単独で手術が必要になるケースはまれです。多くの場合、ほかの弁膜症の手術を行う際に、併せて三尖弁の狭窄も治療するという形がとられます。具体的な手術法としては、固着した三尖弁の交連部を切り離して開口部を広げる交連切開術やバルーンカテーテルを用いて弁口を拡張する経皮的バルーン弁裂開術があります。
先天性三尖弁狭窄症の治療
先天性の場合は新生児期から段階的に心臓手術を行う必要があります。右心室が小さくポンプ機能を十分果たせないため、基本的には左心室だけで全身に血液を送る単心室循環へのアプローチがとられます。出生直後は肺動脈と大動脈をつなぐ動脈管が赤ちゃんの命綱ですが、自然に閉じてしまわないようプロスタグランジン製剤で開存を保つ治療を行います。その後、生後1~2週以内に体循環と肺循環をつなぐ短絡路を作るシャント手術(ブラロック・タウシッグ手術)を行い、肺血流を確保します。さらに、成長に合わせてフォンタン手術という根治手術を含む複数回の手術を経て、最終的に全身の静脈血を直接肺動脈に流す特殊な循環を完成させます。
三尖弁狭窄症になりやすい人・予防の方法
本章では、三尖弁狭窄症になりやすい方とその予防方法について解説します。
三尖弁狭窄症になりやすい方
三尖弁狭窄症の発症リスクが高いのは、まず幼少期にリウマチ熱にかかったことがある方です。リウマチ熱による心臓弁膜症は、その後の長い年月を経てから症状が出てくるため、子どもの頃にリウマチ熱に罹患した方が大人になってから三尖弁狭窄症を発症することがあります。特に、リウマチ性の僧帽弁狭窄症などほかの弁膜症を持っている中高年の方は、同時に三尖弁にも狭窄や逆流が生じていないか注意が必要です。
また、全身性エリテマトーデス(SLE)など免疫系の病気を持っている方、カルチノイド症候群と診断された方、心臓に腫瘍があると言われた方なども、ごくまれではありますが三尖弁狭窄症を合併する可能性があります。先天性三尖弁狭窄症に関しては、特定の要因がなく偶発的に発生するため、「こういう方に多い」という傾向はありません。
三尖弁狭窄症の予防の方法
三尖弁狭窄症そのものを直接予防する方法はありませんが、主な原因であるリウマチ熱を防ぐことが結果的に予防につながります。リウマチ熱の予防で特に重要なのは、溶連菌感染症(咽頭炎や猩紅熱)にかかった際に適切な抗生物質治療を受けることです。特に、子どもが高熱やのどの痛みを訴えた場合は早めに医療機関で受診し、溶連菌の検査をしてもらいましょう。
溶連菌感染症と診断された場合は処方された抗生物質を指示どおりに最後まで飲み切ることが大切です。それによってほとんどのリウマチ熱の発症を防ぐことができます。
日常生活においては、定期的な健康診断や心臓の検査で早めに弁膜症の兆候を発見することも有用です。特に心雑音を指摘されたことがある場合や、上記のような症状(動悸・むくみ・倦怠感など)を自覚する場合には、早めに医療機関を受診して心エコー検査などでチェックすることで重症化を防ぐことができます。
先天性三尖弁狭窄症に関しては、残念ながら有効な予防法は確立されていません。妊娠中の適切な管理や風疹ワクチン接種など、間接的な手段は考えられますが、個別の先天性心疾患を完全に防ぐことは困難です。妊娠中の健診をしっかり受け、必要に応じて精密超音波検査を受けることで、生まれてくるお子さんの心臓の状態を早期に把握し、出生後の治療に備えることが可能です。
関連する病気
- 三尖弁閉鎖不全症
- 肺動脈高血圧症
参考文献




