

監修医師:
佐藤 浩樹(医師)
目次 -INDEX-
完全大血管転位症の概要
完全大血管転位症は、心臓から出る太い血管である大動脈と肺動脈の位置が、生まれつき通常と異なる病気です。正常な心臓では、右心室から肺動脈が出て肺へ血液を送り込みます。そして左心室から大動脈が出て、酸素を豊富に含んだ血液を全身へ送り出します。
完全大血管転位症は、右心室から全身へ血液を送る大動脈が出て、左心室から肺へ血液を送る肺動脈が出ている状態です。
これにより酸素を十分に含んだ血液を全身に効率よく送ることができず、身体の酸素不足を引き起こします。特徴的な症状として、皮膚や唇が青紫色になる症状(チアノーゼ)が生後すぐに現れます。
完全大血管転位症は、先天性心疾患のなかでも頻度が高い病気の一つです。およそ4,000人〜5,000人に1人の割合で発症し、先天性心疾患の約2%を占めています。男女比は2:1です。
完全大血管転位症は、右心室と左心室の間を隔てる筋肉の壁である心室中隔に欠損(穴)があるケースとないケースに分かれます。心室中隔欠損のないⅠ型は約50%、心室中隔欠損を合併しているⅡ型は約30%、心室中隔欠損に加えて肺動脈狭窄を合併しているⅢ型は約20%の頻度で起こります。
完全大血管転位症は、手術により改善が見込めます。I型とⅡ型における動脈スイッチ術(大動脈と肺動脈を入れ替える手術)を行った場合の生存率は90%以上です。
1950年代以降、肺への血流を維持する薬(プロスタグランジン)が登場したことや、心臓外科が進歩したことにより、治療成績が向上しました。
ただし、治療介入なしでは予後不良であるため、早期の診断と適切な治療が重要です。
完全大血管転位症の原因
正常な心臓が作られるときには、最初に1本の太い血管(総動脈幹)ができます。総動脈幹は仕切りとなる円錐動脈幹中隔によってらせん状に2本に分かれ、大動脈は左心室と、肺動脈は右心室とつながります。
しかし完全大血管転位症ではこの仕切りが直線的にできてしまうため、大動脈が右心室と、肺動脈が左心室とつながってしまいます。
この異常が起きる詳しい原因はまだはっきりしていません。遺伝要因も含めて詳細な病因は不明です。
完全大血管転位症の前兆や初期症状について
続いて、完全大血管転位症の前兆や初期症状と、症状を認めた際に受診すべき診療科目を解説します。
完全大血管転位症の前兆や初期症状
完全大血管転位症の特徴的な前兆・初期症状は、チアノーゼです。チアノーゼとは、酸素の少ない血液が全身に循環するために、皮膚・唇・爪などが青紫色に見える状態です。
完全大血管転位症の程度によって、ほかにも症状がみられることがあります。
- Ⅰ型(心室中隔欠損がない)
生まれた直後から強いチアノーゼがみられる - Ⅱ型(心室中隔欠損を合併)
軽いチアノーゼ・多呼吸・哺乳困難などがみられる - Ⅲ型(心室中隔欠損+肺動脈狭窄)
強いチアノーゼが一般的(程度による)
上記のように、病型によって症状の程度や種類が異なります。
どの診療科目を受診すればよいか
上記の症状が見られた場合、地域の基幹病院や総合病院の小児科・循環器内科・心臓血管外科の受診が必要です。重症度によっては、専門の医療機関や大学病院を紹介してもらうことが推奨されます。
完全大血管転位症の検査・診断
完全大血管転位症は、主に以下の検査を行い診断されます。
視診・聴診
新生児の心臓や呼吸の状態、チアノーゼの程度などを確認します。心雑音が聞こえることもあります。
酸素飽和度の確認
指先や足先にセンサーを装着し、血液中の酸素飽和度を測定します。完全大血管転位症の新生児は、酸素飽和度が低い値を示す傾向があります。
胸部X線検査
心臓の大きさや、大動脈と肺動脈の位置を確認します。
心電図検査
心臓の電気的な活動を記録し、電気の流れの偏りの有無を確認します。
心臓超音波検査(心エコー)
超音波を用いて大血管の位置関係の異常を確認します。心エコー検査による結果は診断基準の一つであり、完全大血管転位症における重要な検査といえます。
心臓カテーテル検査
足や腕の血管から細い管(カテーテル)を心臓まで挿入して行う検査です。心臓を養う冠動脈と呼ばれる血管の走行や、心室中隔欠損の有無や位置を確認します。これにより治療方針や手術方法を検討します。
完全大血管転位症の治療
完全大血管転位症の治療の第一選択は、外科手術です。手術までの間には、内科的な治療が行われます。
内科的治療
内科的治療として、以下の2つの治療法が行われます。
- プロスタグランジンE1の投与
- 心房中隔裂開術(BAS)
それぞれについて、詳しくみていきましょう。
プロスタグランジンE1の投与
大動脈と肺動脈をつなぐ血管である、動脈管が開いた状態を維持する薬です。持続点滴により、プロスタグランジンE1を静脈内に注入します。これにより、肺血流や左心室の圧を維持でき、全身への酸素供給を改善できます。
心房中隔裂開術(BAS)
左右の心房の間にある卵円孔という小さな穴を、カテーテルを用いて広げる治療です。これにより、心房内で酸素の多い血液と少ない血液が混ざり合い、全身への酸素供給を改善できます。特にチアノーゼ症状が強くみられる場合に行われます。
外科的治療
完全大血管転位症の診断が確定したら、外科手術を計画します。選択される手術方法は病型や状態によって異なります。主な手術方法は以下のとおりです。
- 大血管スイッチ手術(ジャテーン手術)
- ラステリ手術
- セニング手術・マスタード手術
続いて、一つひとつ解説します。
大血管スイッチ手術(ジャテーン手術)
肺動脈狭窄がなければ、第一選択として大血管スイッチ手術(ジャテーン手術)が行われます。この手術では、大動脈と肺動脈を根元から切り離し、本来の位置につなぎ替えます。また、心臓に栄養を送る血管である冠動脈の移植も必要です。生後10〜15日頃に行われます。
術後のリスクとして、肺動脈が狭くなったり、大動脈弁の逆流が起きたりする恐れがあります。
ラステリ手術
肺動脈狭窄を伴う場合は、ラステリ手術が選択されます。肺動脈が細く、大動脈と肺動脈を入れ替えられないためです。そのため、左心室から大動脈へ血液が流れるようパッチで仕切ります。また右心室に穴を開け、穴と肺動脈を人工血管でつなぎ、血液が流れるようにします。乳児期から幼児期に行われるのが一般的です。
術後のリスクとして考えられるのは、人工血管が狭くなったり、肺動脈弁の逆流がみられたりすることです。人工血管を使用するため、感染性心内膜炎のリスクもあります。
セニング手術・マスタード手術
セニング手術・マスタード手術は、大動脈と肺動脈を入れ替える代わりに、右心房と左心房の流れを逆にする手術です。
大血管スイッチ手術やラステリ手術が難しいケースにおいて、これらの手術が行われることもあります。具体的には、弁の異常があったり、左心室が弱くなっていたりするケースが挙げられます。
術後のリスクとして考えられるのは、左心室の代わりをしている右心室の機能低下や不整脈、三尖弁の逆流です。
多くの場合において手術は成功し、良好な予後が期待できます。しかし、術後10年以上経過して再手術や不整脈治療が必要となることもあります。手術後も定期的に専門医に受診することが重要です。
完全大血管転位症になりやすい人・予防の方法
続いて、完全大血管転位症になりやすい方の特徴や予防の方法について解説します。
完全大血管転位症になりやすい方の特徴
完全大血管転位症になりやすい方の特徴は、現在のところ遺伝要因も含めて明確にはわかっていません。先天性心疾患の親から子へ、何らかの先天性心疾患が遺伝する可能性は父親で3〜5%、母親では5〜10%といわれています。
家族歴があり、先天性心疾患のリスクを持つ可能性が考えられる場合は、妊娠前に遺伝カウンセリングを受けることも一つの手段です。
完全大血管転位症を予防する方法
原因が明らかになっていないことから、完全大血管転位症を予防する方法も定かではありません。
関連する病気
- 心室中隔欠損症
- 肺動脈狭窄症
参考文献




