

監修医師:
久高 将太(琉球大学病院内分泌代謝内科)
目次 -INDEX-
穿通性心臓外傷の概要
穿通性心臓外傷(せんつうせいしんぞうがいしょう)は、刃物や銃器などによる外傷が原因で心臓が直接傷害を受けた状態を指します。
心膜や冠動脈、心筋のほか、弁や大動脈、心房・心室中隔の穿孔などが生じることがあります。心臓は生命維持に不可欠な臓器であるため、このような外傷は非常に危険であり、迅速な対応が求められます。
外傷の程度によっては、心臓の機能が急激に低下し、生命に関わる事態に陥る可能性があります。特に、心臓の主要な血管や弁が損傷した場合、大量出血や心タンポナーデ(心臓を包む膜の中に血液が溜まり、心臓の動きを妨げる状態)を引き起こし、穿刺ドレナージ術や心膜切開術などが必要となります。
穿通性心臓外傷は、医療現場においても緊急度の高い疾患の一つであり、救命のためには、現場での応急処置から専門的な医療機関での治療まで、一連の適切な対応が不可欠です。

穿通性心臓外傷の原因
穿通性心臓外傷の主な原因には「刃物による刺傷」「銃器による受傷」「交通事故によるケガ」などが挙げられます。これらの外傷は、突発的な事故や意図的な暴力行為によって引き起こされ、心臓に直接的な損傷を与えるため、生命を脅かす危険性が非常に高いです。
特に、銃器による受傷は、銃規制の緩い国や地域で多く見られます。銃器による外傷は、刃物によるものよりも広範囲に及ぶことが多く、心臓だけでなく、周囲の臓器や血管にも深刻な損傷を与える可能性があります。銃弾の速度や種類によっては、体内での跳弾や破片による二次的な損傷も引き起こされるため、治療はさらに複雑になります。
また、交通事故による穿通性心臓外傷は、車両の衝突時に発生するガラス片や金属片が原因となることがあります。
穿通性心臓外傷の前兆や初期症状について
穿通性心臓外傷の初期症状は、外傷の程度や損傷した心臓の部位によって異なります。
例えば、胸痛や血圧の低下、呼吸困難、意識障害などがあります。心嚢内に大量の血液が溜まり心タンポナーデとなり、ショックに陥ると、血圧が危険なレベルまで低下して死に至る恐れがあります。
これらの症状が見られた場合は、直ちに救急車を呼び、専門医の治療を受ける必要があります。特に、血圧の低下や呼吸困難、意識障害が見られる場合は、一刻を争う事態であるため、迅速な判断と行動が求められます。
また、胸痛が持続する場合や、時間が経つにつれて症状が悪化する場合も、速やかに医療機関を受診することが重要です。
これらの初期症状は、穿通性心臓外傷だけでなく、他の胸部疾患でも見られることがあるため、自己判断せずに専門医の診断を受けることが大切です。
穿通性心臓外傷の検査・診断
穿通性心臓外傷の診断において、まず行われるのは身体検査です。外傷の部位や状態、患者のバイタルサインなどを確認します。
次に、心臓の電気的な活動を調べる心電図(ECG)検査が行われ、不整脈や心筋の損傷の有無を確認します。胸部X線検査では、心臓の大きさや位置、胸腔内の血液や空気の有無を調べ、心臓や肺の状態を把握します。心エコー検査は、心臓の動きや弁の状態、心膜内の血液の有無をリアルタイムで観察するために行われ、穿通性心臓外傷の診断において非常に有用な検査です。
さらに、CTスキャンを行うことで、心臓だけでなく周囲の臓器や血管の状態も詳細に把握でき、手術の計画を立てる上で重要な情報が得られます。
これらの検査や診断とともに、状況によっては生命を守るために蘇生処置をおこなうこともあります。これらの検査結果を総合的に判断し、迅速かつ正確な診断が求められます。
穿通性心臓外傷の治療
穿通性心臓外傷の治療は、損傷の程度や患者の状態によって異なりますが、主に「穿刺ドレナージ術」と「心膜切開術」の2つの方法があります。
穿刺ドレナージ術
心膜腔内に血液が溜まっている場合、穿刺ドレナージ術という、針を刺して血液を排出する処置をおこないます。穿刺するだけではなく、一定の期間、管を挿入して排液する心嚢ドレナージを行う場合もあります。
これにより、心臓への圧迫を軽減し、心機能の改善を期待します。穿刺ドレナージ術は、局所麻酔下で行われることが多いですが、穿刺によって心臓や血管の別の部位を傷つけるリスクもあるため、慎重に行われます。
また、穿刺後も血液が再び溜まることがあるため、定期的な経過観察が必要です。
穿刺ドレナージ術は、あくまで一時的な処置であり根本的な解決に至らない場合があります。心嚢ドレナージ術後に心膜切開術を行い治療する場合があります。
心膜切開術
重度の損傷や心臓の修復が必要な場合は、開胸手術を行い、心膜を切開して心臓の修復や異物の除去を行います。
開胸手術は、全身麻酔下で行われ、心臓を観察しながら修復作業を行います。手術では、損傷した心臓の組織を縫合したり、人工弁や人工血管を使用したりすることがあります。
また、異物が心臓内に残っている場合は、摘出します。手術後は、集中治療室で厳重な経過観察が行われ、合併症の予防や早期発見に努めます。
これらの治療法に加えて、患者の状態によっては輸血や薬剤投与、人工呼吸器による呼吸管理など、全身管理も並行して行われます。穿通性心臓外傷の治療は、時間との勝負であり、迅速かつ適切な判断と処置が患者の予後を大きく左右します。
そのため、救命救急センターや心臓血管外科のある専門病院での治療が不可欠です。
穿通性心臓外傷になりやすい人・予防の方法
穿通性心臓外傷は、偶発的な事故や犯罪行為によって引き起こされるため、特定の人がなりやすいということはありません。しかし、以下の点に注意することで、リスクを減らすことができます。
刃物や銃器の適切な管理、子どもの手の届かない場所への保管といった安全な生活環境を維持したり、争いごとや危険な場所への立ち入りを避けたりすることです。
また、安全運転や交通ルールの遵守など、交通安全に取り組むことも重要です。
万が一、穿通性心臓外傷が発生した場合には、救急車を呼ぶことが重要です。応急処置としては、止血や呼吸の確保などが挙げられますが、専門的な知識がない場合は、無理に行わず、救急隊員の指示に従うことが望ましいです。
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