

監修医師:
高宮 新之介(医師)
目次 -INDEX-
心内膜床欠損症の概要
房室中隔欠損症(心内膜床欠損症)は、心臓の発生過程における心内膜床の形成不全により生じる先天性心疾患であり、心房中隔欠損、心室中隔欠損、共通房室弁を特徴とします。
心内膜床欠損症の原因
心内膜床欠損症は、心臓が胎児のときに発育する過程で「心内膜床」という部分がうまく形成されないことで起こります。この形成の異常が、心臓の仕切りや弁に影響を与え、以下のような問題を引き起こします。
心臓の仕切りと弁の異常
心臓の仕切り(中隔)や弁が、正しく形作られないことで、血液が正常に流れない状態になります。
房室管の異常
胎児の心臓は、最初「房室管」と呼ばれる1つの通路を持っています。この通路が分かれて弁や仕切りができるのですが、この過程がうまくいかないと異常が起きます。
心内膜床の問題
通常、心内膜床には5つの突起ができ、それが弁や仕切りの一部となります。この突起がきちんとくっつかないと、心房や心室に穴(欠損)が残ることがあります。
心房や心室の仕切りが未完成
心内膜床が正しく発達しないと、心房や心室を分ける仕切りに穴が開いたままになり、血液が逆流したり混ざったりすることがあります。
心内膜床欠損症の前兆や初期症状について
完全型の場合、心臓の仕切りや弁に大きな異常があるため、生まれて間もない赤ちゃんから症状が現れることが多いです。次のような症状がある場合、循環器科を受診することをおすすめします。
早い段階での心不全症状
息苦しそうに浅く早い呼吸をしたり、授乳がうまくできず体重がなかなか増えないことがあります。また、汗をかきやすく、呼吸に努力が見られることもあります。
肺の負担が増える症状
肺に血液が多く流れ込むことで、肺高血圧や息切れが起こりやすくなります。
心電図異常
専門的な検査で、心臓の電気信号に異常が見られることがあります。
不完全型房室中隔欠損症の前兆・初期症状
不完全型では、症状が現れないことが多く、気づかないまま成長するケースもあります。
無症状で過ごすことが多い
病気が進行していない限り、日常生活に大きな影響が出ないことがあります。学校で行われる心臓検診で初めて発見される場合もあります。
心房中隔の異常による影響
心房の仕切りに穴があるため、心臓の右側に負担がかかることがあります。
僧帽弁の異常
心臓の弁に逆流がある場合、血液の流れが正常でなくなり、息切れや疲れやすさにつながることがあります。
心電図異常
不完全型でも、心臓の電気信号に特徴的な異常が見られることがあります。
共通して見られる兆候
心電図での特徴的な異常
心臓の電気信号を調べる心電図で、特定の異常が確認されることがあります。
ダウン症候群やその他の疾患との関連
ダウン症候群の子どもでは、この病気を合併することが多く、特に肺に負担がかかりやすい傾向があります。
胎児診断の可能性
妊娠中に行われる超音波検査で、この病気が見つかることもあります。
心内膜床欠損症の検査・診断
心内膜床欠損症(房室中隔欠損症)の診断には、いくつかの検査が行われます。これらの検査は、病気の種類や重症度を確認し、最適な治療を決めるために重要です。
主な検査方法
1. 心電図検査
心電図は、心臓の電気信号を記録する検査で、次のような異常を確認できます。
左軸偏位: 心臓の仕切り部分が正しく発達していないことで、電気信号の方向が偏ります。
PR間隔の延長: 心臓の電気信号が伝わる速さが遅くなることがあります。
右室肥大または両室肥大: 心臓の右側や両側に負担がかかることがあります(特に完全型で見られます)。
2. 心エコー検査
心エコー(超音波検査)は、心臓の構造や血流の様子を詳しく調べる検査で、診断に最も役立ちます。
心房中隔と心室中隔の欠損確認: 心臓の仕切り部分に穴があるかを確認します。
共通房室弁の形態確認: 通常は分かれている弁が1つになっている場合があります。
血流の評価: 血液が正しく流れているか、逆流があるかを調べます。
心室のバランス: 左右の心室の大きさや働きのバランスを確認します。
3. 心臓カテーテル検査
心臓に細い管(カテーテル)を挿入して、詳細な情報を得る検査です。
血流の評価: 血液が心房や心室間で異常に流れているかを確認します。
肺の状態の確認: 手術前に肺の血圧や血管の状態を詳しく調べます。
4. その他の検査
染色体検査: ダウン症候群などの遺伝的異常があるかを調べます。
胸部X線検査: 心臓や肺に負担がかかっていないかを確認します。
心内膜床欠損症の治療
心内膜床欠損症(房室中隔欠損症)の治療は、大きく分けて内科的治療と外科的治療があります。基本的には手術が必要になる病気ですが、手術までの間に薬などで症状を緩和する治療も行われます。ここでは、それぞれの治療について簡単に説明します。
内科的治療(手術までのサポート)
手術ができるまでの間、心臓や肺への負担を減らし、症状を和らげる治療が行われます。
薬での治療
利尿薬: 血液の流れをスムーズにして、肺や体にたまる水分を減らします。
心臓の負担を減らす薬(ACE阻害薬など): 心臓の働きを助け、症状の進行を防ぎます。
酸素の制限
必要以上の酸素投与は、肺の血管を広げて逆に負担を増やす場合があるため、慎重に行います。
外科的治療(根本的な治療)
この病気を治すには手術が必要です。手術は心臓の異常を修復して正常に近い状態にすることを目的とします。
手術のタイミング
完全型(重症): 早期に症状が現れるため、生後3~6ヶ月頃に手術が行われます。早めに治療をすることで、肺への負担が進むのを防ぎます。
不完全型(軽症): 症状がない場合、就学前を目安に手術を行うことが多いです。無症状のまま成長し、大人になってから手術が必要になることもあります。
手術の内容
心臓の仕切りを修復
心房や心室の間にある穴(中隔欠損)をふさぎ、血液が正しく流れるようにします。
弁の修復
心臓の弁がきちんと閉じるように修復します。
特別な場合の治療
肺動脈絞扼術(PA banding): 低体重で手術が難しい場合、肺への血流を一時的に制限する手術を先に行うことがあります。
単心室治療: 心室の発達に大きな偏りがある場合、1つの心室で血液を循環させる特殊な治療が行われます。
心内膜床欠損症になりやすい人・予防の方法
心内膜床欠損症になりやすい人
ダウン症候群のある人
ダウン症候群を持つ人の約40%が先天性心疾患を合併し、その中で心内膜床欠損症が最も多いと言われています。特に「完全型」がよく見られます。
内臓心房錯位症候群のある人
内臓が通常と異なる配置になる病気(無脾症など)を持つ人は、心内膜床欠損症を含む複数の複雑な先天性心疾患が起こりやすいです。また、脾臓の有無や血流の特殊性により、感染症リスクなど別の問題も生じやすいです。
その他の染色体異常がある人
心内膜床欠損症の患者さんの約半数以上に染色体異常が見られるとの報告があります。
家族に先天性心疾患の人がいる場合
直接のデータは少ないものの、家族に先天性心疾患の人がいると、リスクが高まる可能性があります。
女性
男性よりもわずかに多い傾向がありますが、大きな差はありません。
心内膜床欠損症の予防法
この病気は胎児期に心臓が発達する過程で起こるため、明確な予防法はありません。しかし、以下の方法がリスクの低減に役立つ可能性があります。
葉酸の摂取
妊娠中の葉酸摂取は、一部の先天性異常のリスクを減らす効果があります。心内膜床欠損症への効果は明らかではありませんが、健康維持のために推奨されています。
遺伝カウンセリング
家族に心疾患の人がいる場合や、過去に先天性心疾患の子を持った経験がある場合は、遺伝カウンセリングを受けてリスクを確認することが大切です。
出生前診断
妊娠中に行う超音波検査で胎児の心臓の異常を早期に発見できる場合があります。早期診断により、生まれる前から治療やサポートの準備が可能です。
健康的な生活習慣
妊娠中は、喫煙や飲酒を避け、栄養バランスの良い食事や適度な運動、ストレス管理を心がけることが重要です。これらは胎児の健やかな発育を助けます。
関連する病気
- 房室中隔欠損症
- 二尖弁
- 心室中隔欠損症
参考文献
- 日本循環器学会,日本胸部外科学会,日本産科婦人科学会, 他:2015-2016 年度活動 成人先天性心疾患診療ガイドライン
- 日本循環器学会,日本移植学会,日本胸部外科学会,他: 2017-2018 年度活動 先天性心疾患並びに小児期心疾患の診 断検査と薬物療法ガイドライン(2018 年改訂版)