

監修医師:
豊島 大貴(医師)
【資格】
日本心エコー図学会 SHD心エコー図認証医
【所属学会】
日本内科学会、日本循環器学会、日本心エコー図学会、日本超音波医学会、日本心血管インターベンション治療学会など
目次 -INDEX-
肺動脈弁狭窄症の概要
肺動脈弁狭窄症(はいどうみゃくべんきょうさくしょう)は、心臓から肺に血液を送る際に圧力を調整したり、心臓への逆流を防止したりする役割を持つ「肺動脈弁」が狭くなる病気です。 肺動脈弁が狭くなると、血液が肺に流れにくくなり、心臓の右心室(心臓から肺に血液を送る部屋)に負担がかかります。 右心室に負担がかかると筋肉が厚くなり、心臓の働きに影響を与えます。
軽症の場合は通常、自覚症状が現れないですが、重症になると息切れ、疲れやすさ、唇や指先が青紫色になる「チアノーゼ」が見られることがあります。 また、新生児期には心不全や命に関わる重篤な症状を引き起こす場合もあります。
肺動脈弁狭窄症は先天性心疾患の一つで、心エコーや心臓カテーテル検査を通じて診断されます。 軽症の場合は治療を必要とせず、重症な場合でもカテーテル治療や手術を選択すれば、予後は良好だと言われています。
肺動脈弁狭窄症の原因
肺動脈弁狭窄症は、胎児期に肺動脈弁が正常に発達しなかったことが原因で発症します。 心臓や血管が形成される過程で起こる先天的な問題である場合がほとんどです。
具体的な原因はまだ完全には解明されていませんが、遺伝や妊娠中の母体の健康状態が関係している可能性があります。 肺動脈弁そのものだけでなく、心臓の構造や肺動脈血管全体の異常が関与することもあります。 ファロー四徴症などの先天性心疾患と関連して発症しているケースもあります。
なお、まれにリウマチ熱や感染性心内膜炎などの炎症性疾患、カルチノイド症候群による化学物質の影響、ほかの心疾患の進行によって肺動脈弁に器質的な変化を与え、後天的に狭窄が発症する場合もあります。
肺動脈弁狭窄症の前兆や初期症状について
肺動脈弁狭窄症の症状は、狭窄の程度によって異なります。
軽度の場合には無症状で経過し、健康診断や心雑音の検査で偶然発見されます。
中等度から重度の肺動脈弁狭窄症では、運動時に息切れを感じることが多く、場合によっては狭心症のような胸の痛みを伴うこともあります。
血流が十分でない状況では失神を起こしたり、軽い運動でも強い疲労感を訴えたりします。
全身の酸素不足により唇や指先が青紫色になる「チアノーゼ」は、肺動脈弁狭窄症の特徴的な症状の一つです。
乳幼児では、泣いたり動いたりすると呼吸が速くなる、体重が増えにくいといった症状が現れることがあります。 新生児期に重度の肺動脈弁狭窄症を発症した場合、重症化し命の危険にさらされる可能性もあります。
学校生活において中等度以上や重度の場合、特に治療前は運動負荷が右心室に大きな影響を与える可能性があるため、運動制限が必要です。
肺動脈弁狭窄症の検査・診断
肺動脈弁狭窄症の検査では、聴診、画像検査、心電図検査や心エコー検査を用いて心臓や血流の状態を詳しく調べます。 必要に応じて心臓カテーテル検査が行われ、これにより狭窄の位置や重症度が詳細に判断されます。
聴診
診察では、医師が聴診器で心音を聴取します。 肺動脈弁狭窄症では、駆出性収縮期雑音(「ザー」っという音、だんだん大きくなり、ピークを過ぎるとまただんだん小さくなる)やクリック音(「カチッ」というような短い音)といった特徴的な雑音が聞こえます。
画像検査
胸部エックス線検査(レントゲン検査)を行い、肺動脈や心臓の大きさ、形状を確認します。
心電図検査
心電図を用いて、右心室の負担や心拍の異常を調べます。
心エコー検査
心エコー検査では、超音波を使って心臓の構造や血液の流れを詳しく観察します。 肺動脈弁の狭窄の程度や血流速度、右心室の圧力などが測定され、重症度の判断に役立ちます。
心臓カテーテル検査
細い管を血管を通して心臓に挿入し、肺動脈と右心室の圧力差を直接測定します。 より詳細な情報である狭窄の正確な位置や重症度を特定できます。
肺動脈弁狭窄症の治療
肺動脈弁狭窄症の治療方法は、狭窄の程度に応じて異なります。 肺動脈弁狭窄症の重症度は、右心室と肺動脈の間の圧較差や血流速度によって評価されます。 軽度の場合、特別な治療を行わず、定期的に経過を観察するだけで済むことが一般的です。中等度以上の狭窄では、血液の流れを改善するための治療が必要となります。 治療には、カテーテル治療と手術の2つの方法があり、治療後も心臓の状態を定期的に確認し、必要に応じて適切な対応を続ける必要があります。
カテーテル治療
カテーテル治療は、狭窄部分を広げるための治療法です。 細い管を血管を通して心臓に挿入し、狭い部分でバルーン(風船)を膨らませて弁を広げます。 体への負担が少なく、主に中等度から重度の狭窄に対して行われます。
手術
手術は、カテーテル治療が適さない場合や、狭窄が非常に重度の場合に行われます。 肺動脈弁を直接切開して広げたり、形を整える「弁形成術」などが行われます。 現在では手術の頻度は減少していますが、一部の症例では重要な治療法となります。
肺動脈弁狭窄症になりやすい人・予防の方法
肺動脈弁狭窄症は主に先天性の疾患であり、生まれつき肺動脈弁が正常に発達しなかったことが原因で起こるため、予防は難しいとされています。
妊娠中の母親が健康管理をしっかり行うとリスクを軽減できる可能性があります。 母親がバランスの良い食事を摂り、感染症、特に風疹を予防することが大切であり、妊娠前に風疹ワクチンを接種することも推奨されます。
家族に先天性心疾患の既往がある場合には、遺伝カウンセリングを受けることで、胎児のリスクを事前に把握できます。
後天的な肺動脈弁狭窄症にならないためには感染性心内膜炎などの感染症の予防が重要です。 手洗いや衛生管理を徹底し、インフルエンザなどの予防接種を心がけましょう。
関連する病気
- ファロー四徴症
- 心室中隔欠損症
- 右室流出路狭窄
- 肺動脈弁形成不全
- 肺高血圧症
- 右心不全
- 大動脈肺動脈間開存症




