

監修医師:
前田 広太郎(医師)
三尖弁閉鎖症の概要
三尖弁閉鎖症は胎生期の発生異常によって発症し、右心房と右心室の間の三尖弁が先天的に欠如もしくは閉鎖し、左室が機能的単心室となった状態です。Ⅰ型からⅢ型まで分類されます。胎児期から超音波で診断可能で、病型により症状は異なり出生後はチアノーゼや心不全兆候が出現します。治療は3段階の外科的治療を要します。新生児期に体肺動脈短絡術を施行します。乳児期中期に両方向グレン手術を行い、2歳以降頃にフォンタン手術を行い循環を安定させます。術後も生涯にわたり長期的な多臓器のフォローを要します。
三尖弁閉鎖症の原因
三尖弁閉鎖症は、右心房と右心室の間にある三尖弁が先天的に欠如または閉鎖している疾患です。その結果、右心房と右心室の間に直接的な連絡が存在せず、右室が低形成となり、左室が機能的単心室となります。三尖弁が筋性に閉鎖するのが7割、膜性に閉鎖するのが3割とされます。Ⅰ型(正常大血管関係:70~80%)、Ⅱ型(完全大血管転位:10~25%)、Ⅲ型(修正大血管転位:3~6%)に分類されます。Ⅰ型とⅡ型は心室中隔欠損の有無と肺動脈の閉鎖や狭窄の有無でさらにⅠa、Ⅰb、Ⅰc、Ⅱa、Ⅱb、Ⅱcに分類されます。解剖学的変異は多様で、心室中隔欠損症や大血管の異常など他の構造的心疾患を伴うことがあります。合併する心疾患・奇形として、心房中隔欠損症(100%)、右心室低形成(100%)、心室中隔欠損症(95%)、肺血流出路閉塞(75%)、完全大血管転移症や両大血管右室起始(28%)などが挙げられます。
三尖弁閉鎖症の前兆や初期症状について
右房に還流する静脈血は卵円孔を介して全て左房に流入し、肺静脈血と合流し左室へと流入するため、酸素飽和度の低い血流が増加することによりチアノーゼを呈します。肺血流量によりチアノーゼの程度が規定されます。肺動脈閉鎖のため新生児期から高度のチアノーゼを呈するもの(Ⅰa、Ⅱa)、肺動脈狭窄がなくチアノーゼ目立たず心不全症状が強いもの(Ⅰc、Ⅱc)など臨床症状は多岐にわたります。約半数が出生当日に症状を発症し、30%が1ヶ月以内に症状を呈します。体重増加不良や頻呼吸、哺乳時の呼吸困難、発汗などが挙げられます。心室中隔欠損症による全収縮期雑音や、動脈管開存による連続性雑音などの心雑音があり、他に頸静脈怒張や肝腫大などを呈することがあります。
三尖弁閉鎖症の検査・診断
胎児期に診断可能であり、出生前の心エコー検査(18~22週)で診断可能です。子宮内死亡は約4%とされます。出生後チアノーゼおよび心雑音を呈して新生児期に発見されることもあります。初期検査として経皮的酸素飽和度や血液ガス検査を行います。胸部X線で右房拡大や肺血管陰影の減弱などがみられ、心電図ではP波の増高、左軸偏位などの特徴があります。心臓超音波検査では三尖弁の欠損、心房中隔欠損、右心室低形成といった特徴的な所見が確認されます。
鑑別疾患としては、ファロー四徴症、三尖弁狭窄症、肺動脈閉鎖症、重症肺動脈弁狭窄症といった肺血流が少ないチアノーゼ性心疾患や、完全大血管転移症や総動脈幹症、完全肺静脈還流異常症などがあります。
三尖弁閉鎖症の治療
専門施設での管理が必要です。出生前に診断された場合は新生児集中治療室と小児循環器専門医が整備された医療機関での分娩が推奨されます。困難な場合は、出生後すぐに専門施設へ搬送できるよう準備します。
初期対応として、呼吸循環管理の安定化を行い、後に姑息的手術を経た上で最終的にフォンタン手術を行います。
肺動脈が閉鎖している動脈管依存型の病型(Ⅰa、Ⅱa)では生後早期にプロスタグランジンE1の持続投与により動脈管開存を維持し、体肺動脈短絡術(BTシャント)を行います。肺動脈狭窄型(Ⅰb、Ⅱb)は、適度な肺動脈狭窄で体肺血流比が適正かつ心不全症状がなければ、新生児期の外科的介入を要さないこともありますが、心室中隔欠損は筋性欠損であることから、経時的に狭窄が進行しないか慎重な経過観察が必要です。重度の肺動脈狭窄や肺血流減少があれば、肺動脈閉鎖型と同様にプロスタグランジンの投与と短絡手術の適応となります。
肺動脈狭窄がない(Ⅰc、Ⅱc)症例は、生後高肺血流性の心不全兆候が出現するため、酸素投与や過度の水分負荷は体肺血流の不均衡を増悪する可能性があります。肺血流を制御するために肺動脈絞扼術の適応となります。
乳児期以降は、心房容積減少などにより心房間交通が狭小化した場合には、バルーン心房中隔切開術が行われますが、それでも十分に交通孔が拡大されない場合は外科的心房交通拡大術が行われます。
乳児期中期(6ヶ月~1歳)では両方向性グレン手術(手術死亡率1~2%と低値)で上大静脈を心房から離断して肺動脈に吻合し、上半身からの血流を直接肺に還流させます。
その後、2~4歳頃にフォンタン手術を行い、上下大静脈からの静脈血が心室を介さず肺動脈に直接還流するように血行動態を修正します。順調なフォンタン循環であっても、心室を持たないことから、心臓のみならず内臓臓器にも負担がかかります。フォンタン循環は中心静脈圧が上昇し、心拍出量の低下、軽度の低酸素血症を特徴とする非生理的循環であり、長期的に合併症が起こりえます。術後も不整脈、蛋白漏出胃腸症、血栓形成、肺動静脈瘻、肝機能障害、腎機能障害、感染性心内膜炎などの合併症が長期的に出現する可能性があり、術後も生涯にわたり、心機能や運動耐容能などの定期的評価を要します。心機能や肺血管抵抗値からフォンタン手術の適応外となった症例では、アンギオテンシン変換酵素阻害薬や利尿薬などの対症療法を行います。医療管理の進歩により、1年生存率は90%、10年生存率は約80%まで向上しています。自然経過では外科的治療を受けない場合の自然経過は不良であり、小児期早期に約75%が死亡するとされます。
三尖弁閉鎖症になりやすい人・予防の方法
三尖弁閉鎖症は先天性チアノーゼ性心疾患としては3番目に多いとされ、出生10000人のうち0.5~1.2人が発症し、性差はありません。原因となる遺伝子異常を含めて、発生異常の詳細は完全に明らかにされてはおらず、予防の方法は確立されていません。
参考文献
- 1) 中島 公子: 三尖弁閉鎖症. 小児内科 56巻 4号 pp. 579-581. 2024
- 2)Hoffman JI, et al. The incidence of congenital heart disease. J Am Coll Cardiol. 2002;39(12):1890.
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