

監修医師:
林 良典(医師)
目次 -INDEX-
収縮性心膜炎の概要
収縮性心膜炎とは、心臓を包む膜である「心膜」が厚く硬くなり、心臓が正常に拡張するのを妨げる病気です。心臓が広がって血液をため込むための「拡張期」にうまく広がれず、結果として血液を十分に送り出せなくなります。これにより、さまざまな症状や合併症が生じる可能性があります。収縮性心膜炎は稀な病気ですが、放置すると生活の質や健康に大きな影響を及ぼします。心膜は2つの層からなり、外側は繊維性の層で、内側には少量の液体を含む「漿液層(しょうえきそう)」があります。この液体は、心臓が動くときの摩擦を和らげるクッションの役割を果たしています。健康な状態では心膜は柔軟で、心臓の拡張と収縮を妨げません。しかし、収縮性心膜炎になると、炎症や瘢痕(はんこん)化によって心膜が弾力を失ってしまいます。
この病気は、感染症(特に結核)、手術後の瘢痕化、放射線治療、自身の免疫系による疾患などが主な原因です。症状はゆっくりと現れることが多いですが、治療せずに放置すると徐々に悪化する恐れがあります。診断には画像検査や症状の評価が必要です。なお、小児における収縮性心膜炎は厚生労働省によって小児慢性特定疾病に指定されています。
収縮性心膜炎の原因
収縮性心膜炎は、心膜が炎症を起こしたり瘢痕化したりすることにより発症します。主な原因には以下のようなものがあります。
感染症
- ウイルス感染
エンテロウイルスなどのウイルスは心膜に炎症を引き起こし、それが収縮性心膜炎につながることがあります。通常、ウイルス性心膜炎は自然に治ることが多いですが、稀に慢性的な拘束を引き起こす場合もあります。 - 結核(けっかく)
特に発展途上国では、結核菌が感染し、心膜に重度の瘢痕化や硬化を引き起こす場合があります。
手術後の変化
心臓手術によって心膜に生じた瘢痕化が進行し、収縮性心膜炎を発症する可能性があります。
放射線治療
胸部のがんに対する放射線治療を受けた患者さんは、治療の後遺症として心膜が厚くなることがあり、収縮性心膜炎につながることがあります。
原因不明(特発性)
多くの場合、収縮性心膜炎の具体的な原因が特定できません(特発性)。これにより、原因を特定できないまま症状が進行することがあります。
他の病気
リウマチや全身性エリテマトーデス(SLE)といった自己免疫疾患は心膜に炎症を引き起こし、拘束を招く場合があります。また、胸部への外傷によっても瘢痕化が起こり、収縮性心膜炎の原因となることがあります。
これらの原因を知ることは、予防や管理において重要です。感染症のように防ぐことが難しい要因もあれば、早期の医療介入で管理可能なものもあります。
収縮性心膜炎の前兆や初期症状について
収縮性心膜炎の症状は、徐々に現れることが多く、初期は軽度で特定しにくいことがありますが、病状が進行すると次第に明確になります。
- 息切れ
多くの患者さんが、特に運動中や横になっているときに息苦しさを感じることがあります。 - 疲労感
心臓が効率的に血液を送れなくなることで、倦怠感やエネルギー不足を感じやすくなります。 - むくみ(浮腫)
静脈の圧力が上がることで、足や腹部に水分がたまり、むくみが生じます。特に足や腹部(腹水)がむくみやすいです。 - 動悸
- 胸の不快感
胸の圧迫感や痛みを感じることがあり、狭心症など他の心臓疾患と勘違いされることがあります。 - 頸静脈の腫れ
- 咳や喘鳴(ぜんめい)
肺に水分がたまると、咳や喘鳴といった呼吸器症状が現れることがあります。 - 腹水
腹腔(ふくくう)に水分がたまり、腹部が張って不快感を感じることがあります。
一部の人は、心臓が速く打ったり強く打ったりする感じを経験し、不整脈による心臓の負担を感じることがあります。
首の静脈が腫れて見えることがあり、これは静脈が血液をうまく戻せなくなっているために起こります。
これらの症状は他の心不全や呼吸器疾患とも似ているため、診断には慎重な検査が必要です。これらの症状が現れた際は循環器内科を受診しましょう。
収縮性心膜炎の検査・診断
収縮性心膜炎を診断するには、以下のような手順が取られることが多いです。
- 病歴の確認
医師は、症状や過去の感染歴、手術や放射線治療の経験などを確認し、関連する要因を調べます。 - 身体検査
身体検査では、首の静脈の腫れや手足のむくみ、異常な心音などの徴候がチェックされます。 - 画像検査
心エコー(超音波検査):心臓の構造や機能を視覚化するための超音波検査です。収縮性心膜炎に一致する所見が確認できます。
CTスキャンやMRI:心臓や周囲の構造を詳しく見るために用いられ、心膜の厚みを確認できます。 - 心臓カテーテル検査
一部のケースでは、この侵襲的な検査を行い、心臓内の圧力を直接測定して機能を評価します。 - 血液検査
血液検査はほかの疾患を除外するために役立ちますが、収縮性心膜炎の診断には特異的ではありません。 - 鑑別診断
収縮性心膜炎と、同様の症状を示す「拘束性心筋症」との区別が重要です。両者は異なる治療が必要です。
早期の診断が、収縮性心膜炎の効果的な治療と症状管理に重要です。
収縮性心膜炎の治療
収縮性心膜炎の治療方法は、病気の重症度や原因により異なります。
- 薬物療法
収縮性心膜炎を直接治す薬はありませんが、利尿剤を使って体内の余分な水分を減らし、むくみを和らげることが可能です。また、急性期に炎症がある場合は、抗炎症薬を使うこともあります。 - 手術
慢性の収縮性心膜炎で薬が効果を示さない場合、硬くなった心膜を一部または全て除去する「心膜切除術」が行われることがあります。手術により心臓への圧力が軽減され、機能が大きく改善されます。 - 原因の治療
結核などの感染症が原因であれば、適切な抗菌薬を用いた治療が必要です。 - 生活習慣の改善
体調に応じた適度な運動、塩分が少なくバランスのとれた食事、体重管理が推奨されます。 - 定期的なフォローアップ
症状のモニタリングや治療計画の調整のため、定期的な医師の診察が必要です。
収縮性心膜炎の予後は、年齢や健康状態、診断のタイミング、治療への反応によって異なります。
収縮性心膜炎になりやすい人・予防の方法
収縮性心膜炎は、以下のような人にリスクが高まります。
- 過去に心臓手術を受けた人
手術による瘢痕が心膜に残ることで、リスクが増します。 - 放射線治療を受けた人
胸部に放射線治療を受けた人は、数年後にこの病気を発症するリスクがあります。 - 結核の既往歴がある人
結核が多い地域では、この感染症が原因で収縮性心膜炎になることがあり、早期の監視が推奨されます。 - 男性
統計的に、男性の方が女性よりも2〜3倍リスクが高いとされています。 - 高齢者
年齢とともにリスクが高まります。
予防方法
収縮性心膜炎を完全に防ぐことは難しいですが、いくつかの予防策があります。
- 感染症の早期治療
感染症が疑われる場合は、早めに医師の診察を受けることが大切です。 - 放射線の被ばくを最小限に
胸部の放射線治療が必要な場合、医師と相談し被ばく量を減らす対策を講じることが重要です。 - 定期的な健康診断
定期的に健康診断を受けることで、心臓の健康状態を把握し、早期発見につなげます。 - リスクの理解と予防意識
収縮性心膜炎のリスク因子を知り、注意を払うことが大切です。
これらの予防策と早期の症状の把握により、収縮性心膜炎のリスクを大幅に減らし、必要な場合は迅速に治療を受けることが可能です。
関連する病気
- 結核
- 慢性膿胸
参考文献