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心内膜炎
林 良典

監修医師
林 良典(医師)

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名古屋市立大学卒業。東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科を経て現職。診療科目は総合診療科、老年科、感染症、緩和医療、消化器内科、呼吸器内科、皮膚科、整形外科、眼科、循環器内科、脳神経内科、精神科、膠原病内科。医学博士。公認心理師。日本専門医機構総合診療特任指導医、日本老年医学会老年科専門医、禁煙サポーター。

心内膜炎の概要

心内膜炎は、心臓の内側の膜(心内膜)や心臓の弁に炎症が起きる病気です。弁が傷つくと血液が正常に流れなくなり、心臓全体に負担がかかります。さらに、弁に付着した細菌の塊を疣贅(ゆうぜい)と言い、疣贅が血流に乗ると、脳や肺、手足の血管を詰まらせることがあります。1年間で10万人に2人から6人に発症する程度の稀な病気で、適切な治療を行えば回復が可能ですが、治療を怠ると命に関わる可能性があります。そのため早期発見が重要です。

心臓の構造

心臓は全身に血液を送り出すポンプのような器官です。左右に分かれた心房と心室という部屋があり、それぞれ血液を送り出したり受け取ったりする役割を担います。心臓の中には弁があり、血液が逆流しないようにする「扉」のような役割を果たしています。この弁に炎症が起きると、血液の流れが妨げられ、全身に悪影響を及ぼします。

心内膜炎の原因

心内膜炎はさまざまな原因によって引き起こされます。血液は心臓を通じて全身に運ばれるため、細菌や真菌が血流に乗ると、心臓の弁や内膜に付着しやすいため、これにより炎症や損傷が引き起こされます。

細菌感染

口腔内の細菌
歯肉炎や虫歯の細菌が血流を通じて心臓に到達します。
皮膚の傷
傷口から細菌が侵入し、血流を通じて心臓に到達します。
医療器具
中心静脈カテーテルや人工弁、ペースメーカーなど、医療機器を長期間体内に入れている場合にそれらの器具が感染源になる場合があります。また、注射薬乱用者では、針を介して細菌が血液に入り込むこともあります。

真菌感染

真菌は細菌よりも少ないですが、免疫力が低下している場合にリスクが高まります。

非感染性の原因

悪性腫瘍や全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患が原因となることがあります。この場合、感染ではなく免疫反応による炎症が引き起こされ、その結果心臓内に血栓が形成されることがあります。

心内膜炎の前兆や初期症状について

心内膜炎の初期症状は、風邪やインフルエンザのように一般的な風邪症状に見られることがあります。感染が起こっているので発熱とセットで症状が現れることが多いです。熱が長引いていたり、脳梗塞を発症した際に熱もでている場合、熱が続き皮膚や爪に斑点ができた場合には心内膜炎を起こしていることがあります。心内膜炎が起こった時に見られる症状には、以下のようなものがあります。

発熱

細菌や真菌が体内で増殖すると、免疫系が活性化し、体温が上昇します。これが持続的な発熱につながります。心内膜炎の場合は、高熱が続きなかなか熱が下がらないことが多いです。

疲労感・倦怠感

心臓のポンプ機能が低下し、十分な血液が全身に供給されなくなることで、体がだるく感じられます。

心雑音

弁が炎症を起こすと、正常な血流が妨げられます。その結果、聴診器で心臓の音を確認したときに、異常な音を確認することがあります。

皮膚や目に現れる変化

    点状出血
    皮膚や目の白い部分に小さな赤い斑点が現れる。
    オスラー結節
    指や足の小さな赤いしこり。炎症により血管が詰まることで発生します。

    細菌が心臓弁や血管に付着すると、炎症が全身に波及し、血流の異常や免疫反応が引き金となります。

    塞栓症や感染症

    細菌の塊が血流に乗り、脳や肺、腎臓、手足の血管を詰まらせることがあります。その結果、脳梗塞による片側麻痺や意識障害や、肺塞栓症による息切れや胸痛が起こることがあります。また、心臓の中で増えた細菌が血流にのって全身に送られることで、各臓器で感染症を起こすことがあります。例えば、脳に細菌が飛んだ場合に感染性脳動脈瘤を合併するなど、重篤になることもあります。

    心内膜炎は進行すると命に関わる重篤な症状を引き起こすため、心内膜炎が疑われた場合は、速やかに医療機関を受診する必要があります。心内膜炎の確定診断がされた場合には、一般的に循環器内科で治療を受けることが多いです。

    心内膜炎の検査・診断

    心内膜炎を診断するには、さまざまな検査を組み合わせて行います。

    問診や聴診

    問診によって、経過や症状を確認します。問診の内容から心内膜炎の可能性を疑う場合があります。心臓の音を聴診で確認します。心内膜炎の場合には正常では聴取されない異常な心音が聴取されることがあります。

    血液検査

    感染や炎症が起こっている場合には、白血球値や炎症の値であるCRP値の上昇が見られます。また、血液培養検査によって、どのような菌が血液中に存在するか確認できます。菌の種類によって、感染源を特定し最適な治療薬を決定することにつながることがあります。

    心電図検査

    弁膜症を合併しているため、心臓が大きく肥大したり、心房細動などの不整脈が現れる場合があります。

    レントゲン検査

    胸部のレントゲン検査を行う場合があります。心臓の拡大、あるいは肺に水が溜まった所見が見られます。

    超音波検査

    心臓超音波検査によって、心臓の弁や内側に異常がないかを確認します。心臓の弁、心臓の中に疣贅が見られることで診断が可能となります。また、弁の狭窄や血液の逆流を認めます。

    心内膜炎にはデューク基準という診断基準が存在します。発熱や血液培養の結果、感染の所見と心臓超音波検査で弁に細菌が見られた場合など、診断基準を満たした場合に、心内膜炎と診断されます。

    心内膜炎の治療

    心内膜炎の治療には、細菌に対する治療と、細菌によって傷ついた心臓の治療の2種類に大別されます。

    細菌に対する治療

    これは抗菌薬による治療をさします。菌の塊は血流に乏しいため、抗菌薬が効きにくいです。そのため、心内膜炎の治療の場合は、抗菌薬の投与量を通常より多くし投与期間を長くする必要があります。

    細菌によって傷ついた心臓の治療

    細菌感染によって疣贅が発生し弁を傷つけたり、もともと弁の異常や心臓の異常がさらに悪化した場合には、心不全と呼ばれる状態になります。心不全になると、心臓の動きが悪化することで血液の流れが阻害され、肺に水が溜まったり、全身への血液の流れに変調をきたします。心不全になった場合には、酸素投与利尿剤、強心剤等を使用し心臓の負担を減らす治療を行います。

    まずは薬での治療を行い、感染を抑え、心臓の調子を整えることが原則です。しかし、このような内科的治療で効果が無い場合には、手術が必要になります。また、症状の程度に関わらず疣贅や血栓が大きく、全身に飛んだ場合に重篤な状態になる可能性がある場合には、緊急手術が必要です。
    手術は、菌の塊や血栓を除去と洗浄、細菌によって傷ついた心臓の中の弁を修復もしくは人工物に取り替える手術となります。さらに、細菌が心臓や心臓からでている大きな動脈の奥まで侵入している場合は修復する必要があります。術後は抗菌薬の投与が約6週間行われ、感染の状態が正常に落ち着くまで再発防止に努める必要があります。

    心内膜炎になりやすい人・予防の方法

    心内膜炎は稀な病気ですが、以下の人々はリスクが高いと言われています。

    心臓に既往症がある人

    人工弁や心臓手術、先天性心疾患の既往歴があると、弁に微生物が付着しやすくなります。そのため、歯科治療や外科手術の前に抗菌薬を投与することで感染リスクを軽減します。

    免疫力が低下している人

    糖尿病、HIV感染、がん治療中の人などは、免疫力が低下していることが多く感染リスクが高まります。

    口腔内環境が悪い人

    虫歯が多いなど、口腔内環境が悪い人は心内膜炎のリスクが高いと言われています、そのためきちんと歯磨きを行い、定期的に歯科検診を受けるなどして、口腔内の健康を保つことで、細菌が血流に侵入するリスクを減らします。

    医療機器を使用している人

    カテーテルや心臓のペースメーカーなど医療機器を使用している場合、そこから細菌が侵入するリスクがあります。


    関連する病気

    • 感染性心内膜炎
    • リウマチ熱

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