監修医師:
井林雄太(田川市立病院)
目次 -INDEX-
QT延長症候群の概要
QT延長症候群とは致死的な不整脈のリスクが高まる疾患のひとつです。
心臓は絶えず収縮と弛緩(拡張)を繰り返していますが、QT延長症候群では、心室の収縮から弛緩までの時間が長くなります。この特徴は心電図におけるQT間隔の延長として現れ、病名の由来となっています。
QT間隔が延長していると、多形性心室頻拍(TdP)という不整脈が発生する可能性があります。発生すると脳への血流が減少し、突然のめまいや失神を引き起こします。自然におさまらなければ、致死的な不整脈である心室細動(VF)に進展し、突然死を引き起こすかもしれません。
先天性QT延長症候群の発症率
QT延長症候群の原因として重要なのは、先天的な遺伝子変異です。イタリアでの研究によると、遺伝子変異を持つ先天性QT延長症候群の割合は、およそ2,000人に1人と推定されています。
先天性QT延長症候群の場合、無治療の患者さんの半数以上が、40歳までに不整脈に伴う症状を経験します。初めての症状が突然死または心停止となるケースも、5%未満ですが存在するため、早期発見と予防策が大切です。日本では学校心電図検診が行われ、発見に努めています。
QT延長症候群の原因
QT延長症候群の原因は、先天性のほか、薬剤などに反応して発症する二次性があります。それぞれ説明していきます。
先天性QT延長症候群の原因
先天性QT延長症候群の原因となる遺伝子変異は、心筋の収縮・弛緩に関係する遺伝子で起きており、特徴的な遺伝子型(遺伝子の組み合わせ)として観測されます。一部の遺伝子型を持つ患者さんは、難聴を併せ持ちます。
現在発見されている遺伝子型は18個程です。このうち代表的なものは以下の3種類で、QT延長症候群の患者さんから見つかる遺伝子変異の90%以上を占めます。
遺伝子型 | 割合 | 不整脈を起こしやすい誘因・状況 |
---|---|---|
LQT1 | 40% | 運動中(特にマラソン、水泳や持続する運動) |
LQT2 | 30〜40% | 驚愕・怒り・興奮、音刺激(目覚まし時計や電話の着信音など)、出産前後 |
LQT3 | 10% | 安静時、睡眠中 |
遺伝子型によって、不整脈を起こしやすい誘因や有効な薬剤が異なるため、それぞれに適した対策を取らなければいけません。さらに同じ遺伝子型でも、変異の細かい分類によって対応が異なる場合もあります。新たな遺伝子型の候補も報告されており、今なお研究が進められています。
二次性(後天性)QT延長症候群の原因
二次性QT延長症候群の原因は、薬剤や電解質異常、徐脈などです。よくある原因は薬剤で、以下のような多様な種類が原因となり得ます。
- 抗不整脈薬
- 向精神薬
- 抗菌薬
- 抗真菌薬
- 抗アレルギー薬
- 消化器疾患薬 など
薬剤のほかには、以下もQT延長を起こす可能性があります。
- 電解質異常:低K血症、低Mg血症など
- 徐脈:房室ブロック、洞機能不全症候群など
- 心疾患:心不全、急性心筋梗塞、肥大型心筋症、ストレス心筋症など
- 中枢神経疾患:脳卒中、クモ膜下出血など
- そのほかの疾患:甲状腺機能低下症、神経性食欲不振症など
同じ原因にさらされても、QT延長を起こすかどうかは個人差があります。個人差の背景として、先天性QT延長症候群と同じように遺伝子変異が関わっている場合があります。
二次性QT延長症候群の3割近くに遺伝子変異が隠れているとされ、普段は異常がなくても、薬剤や電解質異常に反応してQT延長を起こしやすい可能性があります。
QT延長症候群の前兆や初期症状について
QT延長症候群の患者さんは、普段は症状がありません。健康診断などの心電図検査で見つかることもあります。指摘されたら早めに循環器内科を受診しましょう。
また、不整脈発生による症状は突然起きます。
まず起きるのは動悸やめまい、失神などです。ただし、失神の原因はQT延長症候群のほかにも多岐に渡り、見分けるのは簡単ではありません。自然に回復したとしても、循環器内科や救急外来を受診するのが望ましいです。
自然に回復しなければ、心肺蘇生・除細動および救急要請が必要となります。QT延長症候群の方が身近にいる場合は、緊急時の対応を学んでおくことをおすすめします。
QT延長症候群の検査・診断
QT延長症候群の診断には、症状や家族歴の問診および心電図検査と、必要に応じて遺伝子検査も行います。二次性を疑う場合は、原因となる薬剤や疾患の有無を調べます。
心電図検査
心電図では、QT間隔の延長やT波の異常といった特徴を確認します。QT間隔は、心拍数で補正したQTc時間を用います。
ただし、安静時のQT間隔が正常な患者さんも少なくありません。遺伝子変異を持つ先天性QT延長症候群であっても、最大40%程の患者さんは、安静時のQT間隔が正常だという報告もあります。QT間隔が一見正常なケースでは、ホルター心電図で1日の変化を調べたり、運動負荷をかけて心電図を測定するなど工夫します。
二次性を疑う場合は、例えば被疑薬を服用中の状態と中止した状態で、心電図を比べることがあります。
遺伝子検査
QT延長症候群において、遺伝子検査は診断および治療計画のために重要です。以下の場合に遺伝子検査が推奨されます。
- 臨床経過や家族歴、心電図から先天性QT延長症候群を強く疑う場合
- 12誘導心電図で顕著なQT延長を認める場合
- 遺伝子変異を持つ患者さんの血縁者に対して必要と認められる場合
二次性QT延長症候群の原因検索
二次性を疑う場合は、問診や検査で原因を探ります。
- 服用中の薬剤やサプリメントを詳細に確認
- 血液検査で電解質異常の有無を確認
- 誘因となる病態の有無を確認:徐脈や心疾患、中枢神経疾患など
特に原因が見つからなければ、先天性と考えられます。
QT延長症候群の治療
QT延長症候群の治療は、不整脈が起きた際の急性期治療と、不整脈を起こさないための予防的治療に分けられます。
ここでは日常生活における予防的治療について説明します。適切な管理により、多くの患者さんが通常の生活を送ることが可能です。
薬物療法
主に用いる薬は、交感神経を抑えて頻脈を落ち着かせる作用を持つβ遮断薬です。多くの遺伝子型で効果が認められており、頻脈時にQT間隔が延長しやすいLQT1で特に効果を発揮します。
β遮断薬だけで制御しきれない場合は、Naチャネル遮断薬やCa拮抗薬といった別の抗不整脈薬を併用します。
ほかには、カリウム補給のためにカリウム製剤が処方されるかもしれません。低K血症がQT延長を悪化させる場合があるため、特に重症例では、カリウム補給が不整脈の予防につながると考えられます。
原因の除去(二次性の場合)
二次性QT延長症候群では、原因を取り除くのが原則です。
- 原因薬剤の中止
- 徐脈の是正
- 電解質の補正
- 基礎疾患の治療
といった対策を行います。
生活習慣の改善
日常生活においては、患者さん個々のリスクに応じて、不整脈の誘因を避けます。
運動制限については、以下の患者さんでは一般的に競技レベルの運動を避けます。
- LTQ1の遺伝子型を持つ
- 高リスクと判断された
- 運動中に失神発作を起こしたことがある
LQT1の患者さんは、水泳やマラソンで不整脈が誘発されやすい特徴があります。
ほかの遺伝子型でも運動制限を必要とする場合があるため、主治医によく確認してください。
LQT2の患者さんは、驚愕・怒り・興奮といった情動ストレスや、電話の着信音や目覚まし時計といった突然の音刺激で不整脈を誘発する可能性があります。このような刺激をなるべく避けましょう。
以下も不整脈の誘因となる可能性があるため、生活習慣を整えることも大切です。
- カフェイン
- 喫煙
- アルコール
- ストレス
- 睡眠不足
植込み型除細動器の使用
薬物療法や生活習慣の改善でコントロールが困難な場合は、植込み型除細動器(ICD)の使用を考慮します。先天性QT延長症候群で使用するかどうかは、以下の項目を組み合わせて決定します。
- 失神や多形性心室頻拍の既往
- 突然死の家族歴
- β遮断薬の有効性
QT延長症候群になりやすい人・予防の方法
先天性QT延長症候群は、原因となる遺伝子変異を持つ人が発症しやすいです。失神や突然死の家族歴がある人は、変異を受け継いでいる可能性があります。
ただし、遺伝子変異を持っていてもQT延長が起きないケースもあるため、病院で精査するのが大切です。
二次性QT延長症候群になりやすいのは中高齢者や女性です。中高齢者では、加齢による薬物代謝機能の低下や、心筋の機能の変化が関わっていると考えられます。女性に多い理由は、女性ホルモンや性周期の関連が考えられています。
不整脈の発生予防
QT延長しやすい体質であることを理解し、誘因となる状況を回避することで、致死的な不整脈の予防につながります。遺伝子変異の種類や失神の経験の有無などによって、適切な対策が異なるため、主治医の指示をよく聞きましょう。また、処方された薬は欠かさず続けましょう。
QT延長作用を持つ薬剤を避けるのも大切です。医療機関を受診する際は、必ず病名を医師に伝えましょう。市販薬を買い求める際も、店頭の薬剤師に病名を伝えて相談してください。
関連する病気
- 不整脈(Arrhythmias)
- トルサード・ポワント(Torsades de Pointes)
- 心室性不整脈(Ventricular Arrhythmias)
- 心房細動(Atrial Fibrillation)
- 遺伝性疾患(Hereditary Diseases)
- 薬剤性QT延長(Drug-induced Long QT Syndrome)
- 低カリウム血症(Hypokalemia)
参考文献