

監修医師:
高宮 新之介(医師)
目次 -INDEX-
先天性心疾患の概要
先天性心疾患は、胎児の心臓や周辺血管の発生・発達段階で起こる心臓の構造的な異常であり、複数の疾患の総称です。
「先天性」とは、生まれつき持っている特徴や状態を指します。つまり、赤ちゃんがお母さんのお腹の中にいるときから、すでにもっている体の特徴や病気です。親から受け継ぐ遺伝的なものや、妊娠中に赤ちゃんに影響を与える環境などによって起こると言われています。また、原因が不明なことも多いです。
先天性心疾患を持って生まれる確率は、新生児1000人のうち約8〜10人程度と言われており、軽症なものから命に関わる重篤なものまで幅広く存在します。心臓の左右の部屋を隔てている壁に穴が開いている「心房中隔欠損」や「心室中隔欠損」、心臓や大動脈の異常な接続、心臓の弁の異常など多岐にわたります。
医学の進歩により、現在は胎児の時点、もしくは新生児の時点で発見されることが多いです。また、外科治療の発達と、内科管理の向上により、小児先天性心疾患患者さんの多く(乳児期を過ぎた 先天性心疾患児の 90% )は成人を迎えるようになりました。一方で、小児期に手術方法が未発達あるいは早期診断がなされなかったために、根本的な治療が行われずに成人となっている先天性心疾患の患者さんが多数存在すると言われています。
先天性心疾患の分類は、チアノーゼ型と非チアノーゼ型の大きく2つに分けられます。
チアノーゼとは、皮膚や粘膜が暗紫色になっている状態を言います。血液の色はヘモグロビンの色です。動脈血は酸素と結合しているヘモグロビンで赤く、静脈血では酸素を配り終えた還元ヘモグロビンなので暗紫色です。チアノーゼは血液中の還元ヘモグロビン濃度が高くなっていることを意味します。チアノーゼは全身にみられる場合と、唇や指先など局所的にみられることがあります。
チアノーゼ型
酸素が十分に含まれない血液が体内を巡るため、皮膚や唇が青白くなるのが特徴です。 代表的な疾患としては「ファロー四徴症」、「三尖弁閉鎖症」、「肺動脈閉鎖症」、「総動脈幹遺残症」、「総肺静脈還流依存症」などが挙げられます。
非チアノーゼ型
酸素が不足することはありませんが、心臓の構造に異常があるため、心臓に負担がかかるタイプです。非チアノーゼ型は、左から右への短絡が見られる病変(左右短絡性病変)と、血流が妨げられる閉塞性病変に分かれます。左右短絡性病変の代表的な疾患としては、「心室中隔欠損症」、「心房中隔欠損症」、「動脈管開存症」、「房室中隔欠損症」などが挙げられます。閉塞性病変の代表的な疾患としては、「肺動脈弁狭窄症」、「大動脈弁狭窄症」、「大動脈狭窄症」、「左心低形成症候群」などが挙げられます。
先天性心疾患の原因
先天性心疾患の原因には、下記の項目が挙げられます。
早産児
正期産児に比べ、妊娠37週未満では冠動脈疾患(孤立性動脈管開存症を除く)のリスクが2~3倍高くなると言われています。
家族歴
両親または兄弟が先天性心疾患を有する場合、3~4倍高くなると言われています。家族が有する先天性心疾患の種類と、母親、父親、兄弟、または家族の複数人が罹患しているかどうかによって、リスクは大きく異なると言われています。
遺伝的要因
先天性心疾患の患者さんの7%程度に染色体異常がみられます。例えば、ダウン症候群(21トリソミー)やターナー症候群(Xモノソミー)などが、先天性心疾患のリスクを高めることが知られています。
母体要因
母親が、糖尿病、高血圧、肥満、フェニルケトン尿症、甲状腺疾患、全身性結合組織疾患、てんかんなどを有している場合には、胎児が先天性心疾患になるリスクが高まると言われています。さらに、妊娠中のアルコール摂取や服用した薬剤(リチウム、サリドマイドなど)、喫煙も関連している可能性があると言われています。
子宮内感染
風疹やインフルエンザ、インフルエンザ様疾患などのウィルス感染は先天性心疾患のリスクを高めると言われています。
先天性心疾患の前兆や初期症状について
重篤な先天性心疾患を有する新生児は、出産後に次のような症状を呈することがあります。
ショック
左心低形成症候群や重度の大動脈弁狭窄症・大動脈狭窄症などの先天性心疾患を有する場合に、心原性ショック(心臓または心臓に関連したショックであり、生命維持が困難な状態)を呈する場合があります。新生児の場合には、苦痛を訴えることができません。そのため苦痛の兆候として、うめき声や鼻を鳴らす、頭を上下させるなどがあります。
チアノーゼ
先天性心疾患の概要を参照
肺水腫などによる呼吸の異常
動脈管開存症や大きな心室中隔欠損症では、肺への血流が急激かつ大幅に増加し、肺に水が溜まってしまいます。その結果、酸素を取り込むために頻回な呼吸になったり、努力呼吸(肩が動く呼吸など)が見られる場合があります。
ただし、肺の疾患など、ほかの疾患も疑われる場合があるため、検査を行い鑑別する必要があります。
そのほかに、肝臓が大きくなる、下肢の脈拍の減少や消失、心臓の雑音、腕と足の血圧差、心電図の異常、などの症状が見られる場合があります。具体的にどの診療科を受信するべきかは、症状や疑われる疾患の種類によって異なります。まずは小児科や総合診療科(かかりつけ医)に相談し、適切な専門医を紹介してもらうのがよいでしょう。
先天性心疾患の検査・診断
先天性心疾患の診断を行うためには、下記のような検査があります。
超音波検査
最近では、胎児に超音波をあて先天性心疾患を調べることができます。妊娠7〜8ヶ月になると胎児の心臓が成長するため、超音波検査で調べます。
心電図検査
成人の場合は心電図検査で異常を指摘されることがあります。心電図検査で異常を指摘された後に、超音波検査で調べることが一般的です。
問診
両親の病歴、母親の内服薬や嗜好品(酒・タバコ)、家族歴(先天性心疾患を有する者、突然死した者など)などを確認します。
身体診察
顔色や皮膚の色、異常心音の有無、下肢脈拍の減弱や消失、四肢の血圧差、肺の音などを確認します。
画像検査
レントゲン検査やCT検査で、心臓や心臓周囲の様子を調べることがあります。カテーテル治療や外科的な治療を行う際は、画像検査を治療前に実施することが一般的です。
血液検査
血液中の酸素や二酸化炭素の含有量を調べることがあります。
先天性心疾患の治療
先天性心疾患の治療には、下記のような治療があります。先天性心疾患は、程度や全身状態によって、治療方法が異なります。主治医と十分に相談して治療方法を選択することが重要です。
薬物療法
先天性心疾患によって心不全になる場合があります。心不全とは、心臓の力が弱くなり、全身に十分な血液を送り出せなくなる状態を指します。この状態では、心臓が体に必要な血液を十分に送り出すことができなかったり、心臓に血液をため込む力が弱くなってしまうため、必要な酸素や栄養が体の各部に届きにくくなります。その結果、血液の流れが滞り、肺に水が溜まったり、尿の出が悪くなりむくんだりします。薬物療法は、心臓のポンプ機能をサポートし、利尿薬の使用により体内の余分な水分を排出することで、心臓への負担を軽減することを目的とします。
カテーテル治療
カテーテル心筋焼灼術(カテーテルアブレーション)
不整脈に対して行うカテーテル治療です。足の付け根などの太い血管からカテーテルという管を血管内に入れ、心臓の中から心臓や周囲の血管を焼灼します。焼灼することで不整脈の原因となる異常な電気信号の通り道を遮断し、脈を整えます。
経皮的冠動脈形成術
狭心症や心筋梗塞、閉塞性動脈硬化症に対するカテーテル治療です。手首や肘、足の付け根などの太い血管から、カテーテルを血管内に入れ、狭くなったり、閉塞した血管を広げるための治療です。
経カテーテル的大動脈弁植え込み術
大動脈弁狭窄症の治療方法の一つです。動脈硬化によって大動脈弁が狭窄する病気です。経カテーテル的大動脈弁植え込み術はカテーテルを用いて、狭窄した大動脈弁を人工弁に交換する治療です。
外科的治療
弁置換術および弁形成術
弁膜症の治療方法の一つです。心臓にはいくつかの弁が存在します。弁は血液が逆流しないように心臓の収縮に合わせて動きます。何らかの原因で弁が正常に機能しない状態を弁膜症と言います。手術で胸を開き、十分な働きができない弁を人工弁などに交換する治療です。
先天性心疾患になりやすい人・予防の方法
先天性心疾患は、多くの遺伝子と生活習慣などの環境要因が複雑に影響し、胎児の心臓が作られる過程で何らかの異常が生じるため、予防は困難と言われています。妊娠中は先天性心疾患に影響するとされている飲酒や喫煙は避け、薬の服用や風疹ウイルス感染などに留意したほうが良いでしょう。
関連する病気
- ダウン症候群(21トリソミー)
- ターナー症候群
- エドワーズ症候群(18トリソミー)
- 胎児感染症
- 遺伝性疾患
- 高血圧
- 心筋症
参考文献




