監修医師:
大坂 貴史(医師)
感染性心内膜炎の概要
感染性心内膜炎は、心臓の中を裏打ちする「内膜」で起こる感染症です。心臓の部屋は弁という構造で区切られていますが、この弁で感染が起こるときに特に問題になります。
症状として倦怠感や長引く発熱、体重減少といった非特異的な症状に加えて、心臓の症状として大動脈閉鎖不全・僧帽弁閉鎖不全、心不全症状、塞栓症状として脳梗塞をはじめめとした脳血管障害も起こりえます (参考文献 1) 。
血液培養や心臓のエコー検査の所見から感染性心内膜炎と診断されれば、抗菌薬治療を中心として、場合によって外科治療が必要になる場合があります (参考文献 2) 。
感染性心内膜炎になりやすい人の特徴としては心疾患を有していたり、心臓にデバイスが入っている人、アトピー性皮膚炎などの皮膚疾患がある人などがあります (参考文献 2) 。
感染性心内膜炎の原因
心臓の内側は「内膜」という層で裏打ちされていますが、ここで感染症が起こることを感染性心内膜炎といいます。心臓は効率よく全身に血液を送り出すために4つの部屋に分かれていますが、これらの部屋は「弁」という構造で仕切られていて、感染性心内膜炎では弁に感染が起きた際に特に問題になります。
感染性心内膜炎の原因のほとんどは細菌感染で、皮膚疾患や抜歯や歯肉炎等の歯科領域の処置や疾患が原因の1つとなることが知られていますが、感染経路がよくわからないことも多いです (参考文献 1, 2) 。
感染性心内膜炎の前兆や初期症状について
感染性心内膜炎の症状には大きく分けて ①感染症としての非特異的な症状②心臓で感染がおこる凝ることによる心臓関連の症状③血管が詰まったり、破けて出血してしまうことによる症状 の3つがあります (参考文献 1) 。
感染症としての非特異的な症状
体のだるさ、疲れやすさ、長引く発熱、寝汗が酷い、体重が減るといった症状が含まれます。発熱は特に出現頻度が高い症状です。
関節痛、筋肉痛といった整形外科的な症状を自覚する方もいます。
心臓関連の症状
「疣腫 (ゆうしゅ)」とよばれる、脆 (もろ) いイボのようなものが弁にできることによって、弁がしっかり閉まらなくなり、心臓の部屋の間での血液の逆流が起きることがあります。それによって心臓の血液を送り出す力が落ちることにより心不全症状 (息苦しい、咳が出る、身体がむくむ) といった症状が起こります。心臓の左側の部屋の弁で感染性心内膜炎が起こった患者さんのうち、約半数で心不全症状が現れるとされています (参考文献 2) 。
血管が詰まったり、破れることによる症状
軽いものでは、手のひらや足の裏に痛みのない赤い皮疹 (Janeway 疹) がや、手足の指の腹の痛みのある結節 (Osler斑) が 10% 程度の患者さんでみられます (参考文献 2) 。
病気が進行すると、心臓の血管が詰まることによる心筋梗塞やお腹の血管が詰まることによる腹痛といった、重要臓器に血液が行かなくなることによる症状があります。
このような重症塞栓症のなかでも、脳梗塞に代表されるような中枢神経での塞栓症が多くみられます (参考文献 2) 。脳の血管は詰まるだけではなく出血することもあり、脳出血やくも膜下出血は症例の 5~10% でみられるといわれています (参考文献 2) 。
また、中枢神経合併症がある症例では経過が比較的悪いことが知られています (参考文献 2) 。
色々な症状をみてきて「難しい!わからない!」と感じるかと思いますが、その症状の多様性から、医療者にとっても感染性心内膜炎の診断は難しいものとなっています。感染性心内膜炎は、検査をしていっても熱の原因がわからない、「不明熱」の代表的な原因疾患です。熱はほとんどの症例でみられますので、病院へ行っても原因がよくわからない熱が続く方で、上に紹介したような症状がある場合は、その旨を改めて担当の医師へ伝えてみてください。
感染性心内膜炎の検査・診断
感染性心内膜炎は、症状の経過や検査結果を総合して診断していきます。症状は先ほど紹介したのでこの項では検査を中心に紹介します。
まず、血液の中に原因となるような菌が菌いるかどうかを調べる「血液培養」が重要になります (参考文献 1, 2) 。通常、血液は無菌状態なので血液の中に細菌がいるか否か、どのような細菌がいるのかといった情報は、感染性心内膜炎の治療をする際に、どのような抗菌薬を使うかを決める際に重要になってきます。
画像検査として一般的なのは心臓のエコー検査です。エコー検査では心臓の中に本来ないはずの疣腫 (ゆうしゅ) や膿瘍 (膿がたまったもの) の有無、人工弁の構造異状、心臓の部屋の間で血液が逆流していないかどうか等を調べます (参考文献 2) 。エコー検査といえば身体にプローブとよばれる超音波を発する機械をあてて検査するものをイメージするかと思いますが、 エコーの機能が付いた胃カメラのようなものを飲み込んで、より心臓に近い場所から超音波をあてる経食道心エコーの方が診断制度が高いことが知られています (参考文献 2) 。
これらの検査結果と症状を総合的に考えて、診断基準を満たす場合に感染性心内膜炎と診断されます (参考文献 2) 。
感染性心内膜炎の治療
内科的な治療と外科的な治療に分かれます。
内科的な治療は抗菌薬が中心となります。血液培養の結果が分かる前に、可能性が高いと考えられる原因菌に効果がある抗菌薬を投与するエンピリック (経験的) 治療を始めた後、血液培養の結果をふまえて目の前の患者で悪さをしていると考えられる細菌を選択的に攻撃できる抗菌薬に変更します (参考文献 2) 。
基本的には内科的な治療が中心となりますが、抗菌薬治療の効果が思ったように得られないとき、合併症の進行で重篤な状態に陥った時などに外科的な治療をしなければいけない場合があります (参考文献 2) 。外科治療では細菌感染でダメージを受けた心臓の弁を人工のものに入れ替える人工弁置換術や、感染巣を取り除いたうえで自分の弁の形を整える弁形成術が行われます (参考文献 2) 。
感染性心内膜炎になりやすい人・予防の方法
感染性心内膜炎になりやすい人の特徴としては次のようなものが知られています (参考文献 2) 。
- 今までに感染性心内膜炎になったことがある人
- 何らかの心疾患で人工弁置換術を受けたことがある人
- 先天性心疾患のある人
- いわゆる心臓弁膜症を有する人
- 閉塞性肥大型心筋症の人
- ペースメーカーや植込み型除細動器のような「心臓の機械」を身体に入れている人
- 中心静脈カテーテルを長期間入れている人
- 虫歯や歯周病を有する人
- 皮膚疾患のある人 (特にアトピー性皮膚炎)
- ステロイドの全身投与を受けている人
- 肺炎などの他の感染症がある人
感染性心内膜炎の予防方法については様々な議論がなされていますが、一定の結論を得られていないというのが現状です。歴史的には心疾患がある患者に対して歯科処置をした後に抗菌薬投与をしていたこともありましたが、普段から口のケアをしっかりすることの方が重要であり、今では感染性心内膜炎のハイリスクの患者さんに歯科処置の際にも、抗菌薬の予防投与を全例で行うようなことはありません。
感染性心内膜炎の原因菌の侵入経路としてはっきりしているものの中には、口腔内からの侵入の他に皮膚空の侵入があります。歯磨きをしっかりすることはもちろん、アトピー性皮膚炎などの皮膚疾患を持っている方は、皮膚科で適切な治療を受けることが感染性心内膜炎の予防になるといえるでしょう。
参考文献