監修医師:
高宮 新之介(医師)
冠攣縮性狭心症の概要
心臓に栄養を送る血管である冠動脈の血流が低下し、心臓に十分な酸素が送られなくなり、胸が痛くなる病気が狭心症です。
狭心症は主な虚血機序によって、労作性狭心症、冠攣縮性狭心症、微小血管狭心症の3つに大きく分かれます。
冠動脈に狭い部分があり、体を動かしたときに胸が苦しくなるなどの症状が出る疾患が労作性狭心症です。
冠攣縮性狭心症は冠動脈の攣縮(れんしゅく)による疾患です。
冠動脈の比較的太い部分が攣縮という一時的な痙攣により収縮することで胸が苦しくなります。
微小血管狭心症は冠動脈末梢の細い部分の拡張不全や攣縮により虚血症状が出現する疾患です。
これらの病態や機序は一部重複することがあります。
本稿ではこの中の冠攣縮性狭心症について記載します。
冠攣縮性狭心症の原因
冠攣縮性狭心症は血管の攣縮によって起こります。
心臓の表面には冠動脈と呼ばれる心臓自体に血液を送り込む動脈があります。
冠動脈の攣縮によって、一時的に血管が狭くなると、血流が悪くなり心筋に十分な酸素が届かなくなるため、胸が苦しくなります。
冠動脈の攣縮の原因として、血管の内皮機能異常(内皮細胞からの一酸化窒素の産生低下)が考えられています。
冠攣縮性狭心症の前兆や初期症状について
胸痛が主な症状です。
胸痛の性状として、前胸部の締め付けられるような感じ、圧迫されるような感じが特徴的です。
痛みは前胸部だけでなく、肩や首、顎にまで広がることがあります。
胸ではなく上腹部に症状が出ることもあります。
胸痛発作の多くは夜間や明け方、安静時に出現します。
労作性狭心症と比較すると痛みが持続する時間が長いことが多く、その持続時間は数分から15分程度です。
発作の頻度はさまざまで、毎日のように発作が起きる方もいれば、数ヶ月発作が生じない方もいます。
早朝に運動能が低下する、飲酒や過換気によって誘発されるなどの特徴がある場合はさらに冠攣縮性狭心症の可能性が高くなります。
また、薬物への反応も診断の参考になります。
硝酸薬によりすみやかに症状が消失する、カルシウム拮抗薬で発作が抑制されるがβ遮断薬では抑制されないなどの反応が特徴的です。
冠攣縮性狭心症の検査や治療を行う専門科は循環器内科です。
冠攣縮性狭心症の検査・診断
心電図検査
胸痛などの症状が出現した際に心電図検査を行い、心筋の虚血を疑うような所見が認められれば診断できます。
通常の12誘導心電図検査は検査室で電極を胸につけている時間しか検査が行えず、胸痛発作が起きているタイミングにちょうど検査を行うのは困難な場合があります。
そのため、24時間電極をつけるホルター心電図検査を行うことがあります。
ホルター心電図検査は電極をつけたまま自宅に帰り、日常生活の中で心電図変化がないかを確認できる検査です。
心臓カテーテル検査
冠攣縮性狭心症を疑う症状があるにもかかわらず、はっきりとした虚血性心電図変化がない場合、心臓カテーテルを用いた薬物負荷試験で血管の攣縮を確認します。
動脈にカテーテルと呼ばれる細い管を挿入し、それを冠動脈まで進めます。
冠動脈に造影剤を流して血管の中が狭くなっていないかを確認し、過度に狭くなっている部分がなければ薬物負荷試験を行います。
アセチルコリンやエルゴノビンと呼ばれる薬物を、カテーテルを通して冠動脈内に注入します。
その後、冠動脈内に造影剤を流します。
冠攣縮性狭心症の患者さんの場合、冠動脈の攣縮により血管が狭くなり血流が途絶える所見が認められます。
冠動脈CT検査
冠攣縮性狭心症は安静時の胸痛が特徴ですが、同様の症状で冠動脈に器質的な高度狭窄がある場合(血管の痙攣ではなく発作時以外も血管の中が狭くなっている場合)があります。
症状や心電図検査だけでは冠動脈に器質的な狭窄があるのかはわかりません。
器質的な冠動脈狭窄を除外するために、心臓カテーテル検査以外に冠動脈CT検査を行うこともあります。
この検査で冠動脈の攣縮があるかないかを判断するのは難しく、冠攣縮性狭心症自体を調べる検査ではありません。
冠攣縮性狭心症の治療
日常生活の指導
動脈硬化性の疾患と冠攣縮性狭心症の危険因子はほぼ同様とされており、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、過剰飲酒、肥満、運動不足などの危険因子の管理を行います。
禁煙は特に重要です。
運動については中~高強度の有酸素運動(30分以上、週3回以上)が推奨されています。
薬物療法
発作時に行う薬物治療と発作の予防のための薬物治療があります。
発作時の治療として代表的なものは硝酸薬です。
ニトログリセリンや硝酸イソソルビドなどの硝酸薬を使います。
その投与方法としては舌下投与、スプレーによる口腔内噴霧、静脈内投与が挙げられます。
まずは経口投与により症状の改善を目指しますが、病院内において経口投与で冠動脈の攣縮が改善されない場合は、硝酸薬の静脈注射を行うこともあります。
発作を予防するためにも硝酸薬を使うことがあります。
その場合は長時間作用型硝酸薬を用いますが、耐性が生じる可能性も指摘されています。
発作の予防にはカルシウム拮抗薬が第一選択薬として知られています。
カルシウム拮抗薬は冠動脈の攣縮を抑える作用があります。
すでに冠攣縮性狭心症でカルシウム拮抗薬を内服している場合、内服を中止すると冠攣縮性狭心症の症状が増悪することがあり、急な中止を避けることが望ましい薬剤です。
カルシウム拮抗薬に抵抗性の冠攣縮性狭心症に併用が検討される薬剤として、ニコランジルがあります。
β遮断薬は抗狭心症に効果がありますが、従来の非選択的β遮断薬は血管を収縮させ、冠攣縮性狭心症を増悪させると言われています。
冠動脈の有意狭窄があるときはβ遮断薬を使う場合があり、その際には長時間作用型カルシウム拮抗薬の併用が必要になります。
そのほか、難治性の冠攣縮性狭心症に対してファスジル(Rhoキナーゼ阻害薬)の冠動脈内投与などの治療を行うこともあります。
非薬物療法
冠攣縮性狭心症のほとんどはカルシウム拮抗薬や硝酸薬などの薬物療法により発作が抑えられますが、薬物に抵抗性を示す難治性の冠攣縮性狭心症もあり、一部に心室頻拍や心室細動などの致死性不整脈が起きる例もあります。
冠攣縮に伴った心室頻拍や心室細動の既往のある方に対しては十分な薬物療法に加えて、植込み型除細動器の植込みを行う場合があります。
植込み型除細動器は、致死性不整脈の監視と、不整脈発生時に自動的に電気ショックなどの治療を行う機械です。
植込む場合は手術で体の中に機械を入れます。
冠攣縮性狭心症になりやすい人・予防の方法
冠攣縮性狭心症の危険因子は動脈硬化性の疾患とほぼ同様と考えられています。
高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、過剰飲酒、肥満などが代表的な危険因子です。
その中でも喫煙は冠攣縮性狭心症の危険因子として突出しており、禁煙は生活習慣の管理の中で特に重要です。
非喫煙者であっても受動喫煙が冠攣縮性狭心症の危険因子となるため、本人だけでなく家族の禁煙も必要です。
過剰飲酒により発作が誘発されることも冠攣縮性狭心症の特徴であり、節酒が重要です。
特に飲酒後に顔が赤くなりやすいタイプの人(2型アルデヒド脱水素酵素の働きが弱い人)は冠攣縮性狭心症になりやすいと言われており、注意を要します。
また、冠攣縮性狭心症の発作は飲酒中よりも飲酒後数時間経ってから起きることが多いと言われています。
飲酒によりマグネシウムの尿への排泄が増えた結果、組織のマグネシウム欠乏が起こることが機序の一つとして考えられています。
冠攣縮性狭心症は夜間や明け方に起こることが多く、多量飲酒後の夜間から明け方は特に注意が必要です。
冠攣縮の危険因子として、喫煙や飲酒などの環境要因のほかに、遺伝的な要因もあると考えられています。
参考文献