

監修医師:
佐伯 信一朗(医師)
核黄疸の概要
核黄疸は、新生児期に起こる重い脳の障害で、血液中のビリルビンという黄色い色素が異常に高くなることで発症します。ビリルビンは、古くなった赤血球が壊れるときに生じる老廃物の一つです。通常は肝臓が処理して便や尿として体外に排出されますが、生まれたばかりの赤ちゃんでは肝臓の働きが未熟なため、ビリルビンが体内に溜まりやすくなります。ビリルビンが高くなると、皮膚や白目が黄色く見える「黄疸」として現れます。
ほとんどの新生児黄疸は自然に軽快しますが、まれにビリルビン値が極端に高くなると、血液中のビリルビンが血液脳関門を越えて脳内に蓄積します。これが神経細胞に障害を与え、核黄疸(ビリルビン脳症)を引き起こします。重症になると、言語障害や運動障害などの一生涯続く後遺症が残ることがあります。適切な管理が普及している現代の日本では、発症頻度は非常に低くなっていますが、完全になくなったわけではありません。
核黄疸の原因
核黄疸の主な原因は、血液中のビリルビン濃度が異常に高くなることです。赤ちゃんの赤血球が大量に壊れる「溶血」と呼ばれる状態があると、ビリルビンの産生量が急増します。たとえば、母親と赤ちゃんの血液型が違い、母親の免疫反応で赤ちゃんの赤血球が壊される「新生児溶血性疾患」などが代表的です。
また、赤血球そのものに弱さがある場合もあります。赤血球膜の異常や、G6PD欠損症といった赤血球酵素の異常は、特定の人種や家系で多く見られることがあります。こうした遺伝的要因によっても溶血が進みます。
さらに、肝臓の未熟さも大きな原因です。特に早産児では肝臓のビリルビン処理能力が低いため、高ビリルビン血症が起こりやすくなります。敗血症や感染症、消化管の閉塞によってもビリルビンが再吸収され、血中濃度が上がることがあります。複数の要因が重なることでリスクはより高まります。
核黄疸の前兆や初期症状について
核黄疸の初期段階は「急性ビリルビン脳症」と呼ばれます。最初は、赤ちゃんが元気がなくなる、眠りがちになる、母乳やミルクを飲む力が弱くなるといった、わかりにくい症状から始まります。次第に泣き声が高く鋭くなったり、体を反らせる動きが出たり、手足が突っ張るような姿勢になることもあります。
さらに進行すると、意識がなくなる、呼吸が止まる、けいれんを起こすなどの重篤な症状が現れます。この段階に至る前に治療を行うことが重要です。治療が遅れると脳のダメージが固定化し、慢性の核黄疸となって、聴覚障害、筋肉の硬直、目の動きの異常、知的発達の遅れ、歯の発育異常などの後遺症を残します。
核黄疸の検査・診断
赤ちゃんが生まれた後は、定期的に皮膚や白目の色を観察し、黄疸の有無を確認します。特に生後24時間以内に黄疸が出た場合は重症化のサインと考え、すぐに血液検査でビリルビン値を測定します。最近では、皮膚の上から専用のセンサーを当てる「経皮的ビリルビン測定器」も活用され、簡便にスクリーニングができます。
経皮的測定で高値が疑われた場合や、治療開始の判断が必要な場合は、正確な血液検査(血清ビリルビン値測定)を行います。赤血球型や直接抗グロブリン試験(クームス試験)により溶血性疾患の有無を調べたり、G6PD欠損症の検査を追加することもあります。また、敗血症などの感染症が疑われる場合には、血液培養などの検査も行われます。
核黄疸の治療
核黄疸を防ぐには、高ビリルビン血症を早く見つけて治療を始めることが最も大切です。治療の基本は「光線療法(フォトセラピー)」です。特殊な青緑色の光を赤ちゃんの皮膚に当てることで、ビリルビンの性質を変え、体内で処理しやすい形にして排泄を促します。光線療法は安全で効果的な方法で、多くの赤ちゃんはこれでビリルビン値が正常に下がります。
もし光線療法だけではビリルビン値が下がらない場合や、急激にビリルビンが上昇して命に関わる危険が高い場合には、「交換輸血」を行います。交換輸血は赤ちゃんの血液を少しずつ入れ替え、過剰なビリルビンや溶血の原因となる抗体を除去します。高度な技術が必要な治療であり、専門病院で慎重に行われます。
治療中でも母乳育児は続けることができます。頻回の授乳によって赤ちゃんの排泄が促進され、ビリルビン値の改善に役立ちます。母乳性黄疸と呼ばれる軽度の黄疸が長引くことはありますが、通常は問題ありません。
核黄疸になりやすい人・予防の方法
核黄疸のリスクが高くなる赤ちゃんにはいくつか特徴があります。たとえば、早産児、溶血性疾患のある赤ちゃん、G6PD欠損症、低出生体重児、敗血症を伴う新生児、出産時に酸素不足があった場合などです。特に複数のリスク要因が重なると、ビリルビンが脳に影響を及ぼすリスクが大きく高まります。
予防には妊婦健診が重要です。母親の血液型を確認し、Rh陰性であれば必要に応じて妊娠中に免疫グロブリン投与を行います。出生後は早期にビリルビン値を測定し、重症化する前に治療を開始します。
アメリカ小児科学会の2022年のガイドラインでも、出生後24〜48時間以内にビリルビン測定を行い、個々のリスクに応じて細かく管理することが推奨されています。G6PD欠損や家族歴のある赤ちゃんは特に注意が必要です。近年はこうした早期介入により、核黄疸の発症は大きく減少しています。
参考文献
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- Maisels MJ. Pediatr Rev. 2006; 27(12): 443-454.
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