

監修医師:
勝木 将人(医師)
目次 -INDEX-
髄芽腫の概要
髄芽腫は小脳に発生する悪性の脳腫瘍です。とくに小児の脳腫瘍の中では発生頻度が高く、小児脳腫瘍全体の約20%を占めており、年間100,000人に対し3.5人の割合で発生すると報告されています。主に幼い子どもに多くみられ、なかでも4歳頃に発症のピークを迎えます。
小脳の役割は身体のバランスや協調性運動(複数の部位を動かして滑らかな動作を生み出す能力のこと)をコントロールすることです。そのため小脳に髄芽腫が発生すると、バランスを保つことが難しくなったり協調性運動に障害が起きたりします。
また、腫瘍が大きくなると脳脊髄液(のうせきずいえき)の流れを妨げ、頭蓋内の圧力が亢進して「頭蓋内圧亢進症状」を引き起こす可能性があります。
髄芽腫の主な治療は外科的手術や化学療法、放射線療法です。髄芽腫は診断時の年齢や播種の有無(さまざまな場所へ広がること)などによってグループ分けされており、各グループに適した治療をおこなう必要があるため正確な診断が求められます。
髄芽腫の原因
髄芽腫の原因は現在のところ解明されていませんが、髄芽腫の発生に関わる可能性のある要素がいくつか明らかになってきています。
一部の患者では、ゴーリン症候群やターコット症候群などの遺伝性疾患を持つ場合、髄芽腫を発症するリスクがあることが知られています。
ただし、偶発的な遺伝子変異などが複雑に絡み合って発症する可能性も推測されているため、特定の環境要因や生活習慣との明確な関連性は、現時点では見つけられていません。
髄芽腫の前兆や初期症状について
髄芽腫の主な症状は小脳の機能障害と、脳脊髄液の流れが妨げられることによる頭蓋内圧亢進症状です。初期症状は比較的緩やかに現れることが多いですが、進行すると急速に悪化する危険があります。
小脳の機能障害
一般的な初期症状は歩行時や立っているときのふらつきです。腫瘍が小脳に発生するため、バランス感覚や協調運動に影響が出ることで生じます。
頭蓋内圧亢進症状
頭蓋内圧亢進症状として多いのは頭痛や嘔吐です。これらの症状は風邪と区別しにくい場合もありますが、通常の治療で改善しない場合や繰り返し現れる場合は注意しなければなりません。
また、眼振(がんしん)という目の小刻みな動きや異常な眠気、意識レベルの低下なども認められることがあります。
各頭蓋骨の縫合線がまだ閉じていない乳幼児の場合、頭蓋内圧亢進に対して頭が拡がるため、これらの症状に加えて頭囲が急に大きくなったり、頭の形が変化したりする場合があります。
髄芽腫の検査・診断
髄芽腫は症状の観察をはじめ、画像検査や脳脊髄液検査、病理検査などの結果を組み合わせて診断します。
画像検査
画像検査ではCT検査やMRI検査によって腫瘍の位置や大きさなどを調べます。転移が疑わしい場合は脳以外の部分に対しても画像検査を実施し、ほかの部位への転移についても調べます。
脳脊髄液検査
脳脊髄液検査は背中に針を刺して脳脊髄液を採取し、腫瘍細胞の有無を調べる検査です。腫瘍が脳脊髄液を通じて他の場所に広がっているか確認するためにおこないます。
病理検査
手術によって摘出した腫瘍の一部を顕微鏡で調べ、髄芽腫であることを確定するためにおこないます。髄芽腫は分類によって治療内容が異なるため、適切な治療計画を立てる上でも欠かせない検査です。
髄芽腫の治療
髄芽腫は外科的手術や化学療法、放射線療法などを組み合わせて治療します。髄芽腫は転移の有無や程度、腫瘍細胞の特徴などによって標準リスク群と高リスク群に大別され、それぞれ治療内容が異なります。
外科的手術
外科的手術では、腫瘍を摘出することで脳への圧迫を取り除き、頭蓋内圧亢進症状を改善させます。また、摘出した腫瘍の一部を分析して分類を特定し、適切な治療につなげます。
腫瘍摘出後は一時的に言葉を話せない場合もあるため(小脳性無言)、話したいことが話せない心理的なストレスに寄り添うことも求められます。
化学療法
化学療法ではいくつかの抗がん剤を組み合わせて使用します。化学療法は入院によって実施することが多く、数週間ごとに抗がん剤を投与します。
抗がん剤の副作用による嘔気で食事を摂れなくなったり、身体の抵抗力が落ちたりすることもあります。副作用症状を可能な限り抑えられるようにさまざまな治療を組み合わせることが重要です。
放射線療法
放射線療法は腫瘍があった部位に対して集中的におこないます。また、腫瘍細胞が脳脊髄液を通じて広がる可能性があるため、脊髄も含めた広い範囲に照射する場合があります。
ただし、幼い子どもは放射線治療による発達への影響が懸念されるため、放射線療法の実施については慎重な判断が求められます。
髄芽腫になりやすい人・予防の方法
髄芽腫は特定の人がなりやすいという明確なリスク因子は、現時点で解明されていません。発症が多いのは主に幼い子どもで、4歳頃にピークを迎えることが知られています。
また、ゴーリン症候群やターコット症候群などの遺伝子異常を持つ場合、髄芽腫の発症リスクが比較的高いことが知られています。
しかし、特定の遺伝的要因や環境要因とは関係なく発生しているケースもあるため、一般的な予防法は確立されていないのが現状です。
これらを踏まえて重要なのは、病気の早期発見と迅速に適切な治療を開始することです。子どもにふらつきや頭痛、原因不明の嘔吐などの症状がみられる場合は、できるだけ早く医療機関を受診しましょう。
とくに症状に対する対症療法で改善しない症状や、繰り返し現れる症状がある場合は注意が必要です。
また、ゴーリン症候群やターコット症候群などの遺伝性疾患を患っている場合、定期的な受診によって経過観察を受けることが重要です。
関連する病気
- ゴーリン症候群
- ターコット症候群
- 星細胞腫
- 上衣腫




