

監修医師:
五藤 良将(医師)
目次 -INDEX-
神経線維腫症2型の概要
神経線維腫症2型は、両耳の聴神経に腫瘍ができることが特徴の遺伝性の疾患です。長年、「神経線維腫症2型(Neurofibromatosis type 2, NF2)」という名前で知られてきましたが、実際には、この病気でできる腫瘍は「神経線維腫」ではなく「神経鞘腫(しんけいしょうしゅ)」という種類の腫瘍です。また「NF2遺伝子」という遺伝子の異常が原因となることから、近年では「NF2関連神経鞘腫症(NF2-related schwannomatosis)」という名称が使われつつあります。
神経線維腫症2型の発症率は約33,000人に1人とされるまれな疾患で、厚生労働省の指定難病にも認定されています。2009年から2013年に行われた調査によると、日本国内では約800人が診断されたことが報告されています。
出典:Genomics Reviews: MGenReviews 神経線維腫症II型
発症する年齢には個人差がありますが、10代〜20代で発症することが多いとされています。
出典:公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センター 神経線維腫症Ⅱ型(指定難病34)
神経線維腫症2型では、聴神経にできる腫瘍(前庭神経鞘腫)に加えて、脳や脊髄などの神経にも複数の腫瘍が発生することがあります。聴神経に腫瘍ができると、難聴やめまい、ふらつき、耳鳴りなどの症状があらわれます。また、腫瘍の位置によっては、顔や手足のしびれ、感覚の低下、けいれん、半身まひ、頭痛などが起こることもあります。さらに、神経線維腫症2型では若い年齢で白内障を発症するケースも多く、視力障害が生じることがあります。
神経線維腫症2型でできる腫瘍の多くは良性ですが、腫瘍が大きくなると命に関わる可能性があるため、早期発見と適切な治療が重要です。治療には、手術によって腫瘍を取り除く方法や、放射線による治療が行われます。
神経線維腫症2型の原因
神経線維腫症2型の原因は、22番染色体に存在する「NF2遺伝子」という遺伝子の異常です。NF2遺伝子は、腫瘍の発生を抑制する働きをもつ「メルリン」というたんぱく質をつくる役割があります。しかし、NF2遺伝子に変異が生じると、この機能が正常に働かなくなり、神経の周囲に腫瘍ができやすくなります。
ただし、なぜNF2遺伝子に変異が起こるのかについては、まだ詳しいメカニズムが解明されていません。
神経線維腫症2型の前兆や初期症状について
神経線維腫症2型で最も多くみられる症状は、両耳の聴神経にできた腫瘍によっておこる聴力や平衡感覚の異常です。腫瘍が大きくなると、難聴や耳鳴り、めまい、ふらつきといった症状があらわれます。
このほかにも、脊髄の神経に腫瘍ができた場合には、手足のしびれや感覚の低下、力が入りにくくなるといった症状があらわれることがあります。また、顔の感覚をつかさどる三叉神経に腫瘍ができた場合には、顔のしびれや感覚の低下があらわれます。腫瘍の位置によっては、けいれん発作や半身まひ、頭痛などの症状がみられることもあります。
さらに、神経線維腫症2型では、比較的若い年齢で白内障を発症する傾向があります。白内障によって視力が低下することがあります。
腫瘍の大きくなる速度には個人差があり、腫瘍があっても長期間にわたり無症状で経過することもあれば、若いうちから難聴やめまい、ふらつき、手足のしびれといった症状が急激に進むこともあります。
神経線維腫症2型の検査・診断
神経線維腫症2型の診断には画像検査が用いられ、MRI検査やCT検査により、左右の聴神経に腫瘍が確認されると、神経線維腫症2型と診断されます。
神経線維腫症2型は遺伝性疾患のため、家族に同じ病気を持つ人がいるかどうかも、診断の重要な手がかりになります。家族に神経線維腫症2型と診断された人がいる場合、本人に片側の聴神経腫瘍があるか、あるいは神経鞘腫、髄膜腫、神経膠腫、若年性白内障のうち2つ以上が確認されると、診断に至ります。
診断の際は、腫瘍による症状の程度を把握するために、聴力検査や視力検査、白内障の検査なども行われます。これらの検査によって、腫瘍の進行具合や身体への影響を総合的に判断し、適切な治療が検討されます。
神経線維腫症2型の治療
現時点で、神経線維腫症2型に確立された薬物療法や遺伝子治療はありません。そのため、手術による腫瘍の摘出と放射線治療が治療の基本となります。
聴神経にできた腫瘍に対しては、聴力の温存を重視しながら、腫瘍の大きさや症状などを踏まえて適切な治療方針が決定されます。腫瘍が小さく無症状の場合には、経過観察となることもありますが、一般的には、腫瘍が小さいうちに手術を行えば、顔面神経への影響が少なく、聴力を残せる可能性も高くなると考えられています。
放射線治療、特にガンマナイフなどの定位放射線治療は、小さな腫瘍の増大を抑える手段として有効です。ただし、聴力を残せる可能性は高くなく、副作用も考慮する必要があります。
近年では「分子標的薬」と呼ばれる新しいタイプの薬の研究も進んでおり、海外では腫瘍の増殖を抑える効果が報告されています。日本国内でも臨床試験が進められており、将来的には、治療の選択肢が広がることが期待されています。
神経線維腫症2型では、体のさまざまな場所に腫瘍が生じる可能性があるため、定期的な検査により長期的に経過を観察することが重要です。適切な治療の継続によって、病気の進行を抑えることが可能になります。
神経線維腫症2型になりやすい人・予防の方法
神経線維腫症2型は遺伝性の疾患であり、患者のおよそ半数は親からの遺伝的な影響を受けて発症しています。そのため、家族内に神経線維腫症2型の患者がいる場合は、発症リスクが高まる可能性があります。
神経線維腫症2型は、常染色体優性遺伝という遺伝形式で遺伝するため、両親のいずれかがこの病気を持っている場合、その子どもが発症する確率は約50%です。ただし、家族歴がない場合でも、遺伝子の突然変異によって発症するケースが報告されています。
神経線維腫症2型は人種や性別による発症の差はみられず、誰にでも発症する可能性があります。発症年齢には個人差がありますが、10代から20代にかけて発症することが多いとされています。
現時点では、神経線維腫症2型を完全に防ぐ方法は確立されていません。しかし、家族内に神経線維腫症2型と診断された人がいる場合は、早期発見と適切な治療につなげるため、定期的な検査を受けることが重要です。
参考文献




