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高宮 新之介

監修医師
高宮 新之介(医師)

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昭和大学卒業。大学病院で初期研修を終えた後、外科専攻医として勤務。静岡赤十字病院で消化器・一般外科手術を経験し、外科専門医を取得。昭和大学大学院 生理学講座 生体機能調節学部門を専攻し、脳MRIとQOL研究に従事し学位を取得。昭和大学横浜市北部病院の呼吸器センターで勤務しつつ、週1回地域のクリニックで訪問診療や一般内科診療を行っている。診療科目は一般外科、呼吸器外科、胸部外科、腫瘍外科、緩和ケア科、総合内科、呼吸器内科。日本外科学会専門医。医学博士。がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了。JATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)修了。ACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)。BLS(Basic Life Support)。

くも膜のう胞の概要

くも膜のう胞とは、脳を包むくも膜という薄い膜の一部が袋状に膨らみ、その中に脳脊髄液が溜まった状態をいいます。
先天的に生じることが多い良性の病変で、いわゆる脳腫瘍(がん)ではありません。全人口の約0.1~0.3%にみられると推定されるまれな疾患で、男性にやや多く、約75%は小児期に発見されることが知られています。くも膜のう胞自体は基本的に脳の発達や知能に直接悪影響を及ぼすものではなく、多くの場合は無症状で偶然発見されます。

くも膜のう胞の原因

くも膜のう胞の主な原因は先天性の要因、つまり胎児の発生過程でくも膜の一部がうまく分離・閉鎖されず袋状になったためと考えられています。明確な遺伝的原因は特定されていませんが、この先天的な膜の異常により、生まれつき袋に脳脊髄液が溜まった状態になります。
また、頻度は多くありませんが後天的な要因で発生する場合もあります。例えば、頭部外傷や脳出血、髄膜炎などの感染症による炎症の後に、くも膜が癒着して袋状の腔が形成され、二次的にくも膜のう胞が生じることがあります。しかし、こうした後天性のくも膜のう胞は全体から見ると少数で、大部分は先天性とされています。

くも膜のう胞の前兆や初期症状について

症状がないことが大半であり、多くの患者さんでは何らかの検査や事故の際に撮った画像検査で偶然に発見されます。前兆となるような特別な自覚症状がないケースも多いのですが、のう胞が大きくなったり脳を圧迫したりすると次のような症状が現れることがあります。こうした初期症状はほかの病気でも見られるため、必ずしもくも膜のう胞特有の兆候ではありません。しかし、原因不明の頭痛やけいれん発作、神経症状が続く場合には注意が必要です。そのような場合は脳の検査が可能な専門科である脳神経外科を受診することがすすめられます。

頭痛

特に朝方の頭痛や慢性的な頭痛が続く場合があります。大きなのう胞によって脳圧が高まると頭痛や吐き気・嘔吐などの 頭蓋内圧亢進症状 を引き起こすことがあります。

けいれん発作(てんかん発作)

脳の一部が刺激されることで痙攣や意識消失発作を起こすことがあります。実際、くも膜のう胞患者さんの約7.5~33%にてんかん発作が見られたとの報告もあり、決してまれではありません。

視力障害・視野障害

のう胞が視神経の近くにできた場合、物が見えにくくなる、視野が欠けるなど視力に問題が生じることがあります。

ホルモン分泌の異常

視床下部や下垂体に近い箇所(鞍上部など)にのう胞ができると、成長ホルモンや性ホルモンのバランスが乱れ、子どもの場合は思春期が早く訪れるなどの内分泌異常を起こすことがあります。

運動麻痺・感覚障害

のう胞が運動や感覚をつかさどる脳の部分を圧迫すると、手足の麻痺やしびれといった神経症状が出ることもあります。ただし、これはのう胞の部位によって異なります。

小児の場合の頭蓋の膨らみ

乳幼児では頭蓋骨の縫合が未成熟なため、のう胞が大きい場合には頭が局所的に膨らんで見えることや、頭囲の増大として現れることがあります。

くも膜のう胞の検査・診断

くも膜のう胞は画像検査によって容易に診断を行うことができます。代表的な検査法には次のようなものがあります。これらの検査によって、くも膜のう胞の有無だけでなく、その大きさや位置、脳への圧迫の程度などが評価されます。診断がついた後は、症状の有無やのう胞の状態に応じて治療方針が検討されます。

CT検査

エックス線を用いた断層撮影で、頭蓋内の構造を把握します。CTでは脳脊髄液が溜まったのう胞は低吸収域として描出され、大まかな位置や大きさを確認できます。救急時や急な頭痛で来院した場合などまずCTで発見されることも少なくありません。

MRI検査

磁気共鳴画像による検査で、脳の詳細な構造や軟部組織をより鮮明に映し出します。MRIではくも膜のう胞内部の液体は脳脊髄液と同じ信号を示し、周囲の脳との関係も含めて確定診断が可能です。放射線被曝がないため、小児でも安心して受けられる検査です。

超音波検査(エコー検査)

乳幼児では大泉門が開いている場合に、頭部エコーで脳内を観察できます。非侵襲的で簡便な方法で、生後間もない赤ちゃんののう胞検出に有用です。

くも膜のう胞の治療

くも膜のう胞は症状の有無やのう胞の大きさや場所によって治療方針が異なります。基本的な考え方として、症状がある場合や周囲の脳を圧迫して障害を起こしている場合には手術による治療が検討されます。一方、症状がなく日常生活に支障をきたしていない場合や、軽い頭痛程度でのう胞との因果関係がはっきりしない場合には、すぐに手術は行わずに定期的な経過観察となることもあります。
手術が必要と判断された場合の主な治療法は開窓術とシャント手術です。
開窓術では、くも膜のう胞の膜に穴を開け、内部の液体を脳のくも膜下腔へ流れ出させる手術です。これにより、のう胞内に液体が溜まり続けるのを防ぎ、脳への圧迫を軽減します。一方、シャント手術では、のう胞の液体を体内の別の場所に逃がすために、カテーテルを留置します。一般的には、のう胞と腹腔(お腹の中)をチューブでつないで液体を腹腔内に排出させる腹腔シャントが行われます。シャントを留置すると、体内で余分な液が吸収されるため、のう胞の大きさを継続的に小さく保つことができます。シャントは半永久的に体内に残す必要がありますが、近年の機械は耐久性も高く生活への影響は少ないとされています。

くも膜のう胞になりやすい人・予防の方法

どのような方がくも膜のう胞を発症しやすいかという明確な危険因子は知られていません。先述のとおり大半は先天性であり、生まれつき起こる現象なので特定の生活習慣や環境で予防できるものではないからです。
男女差は男性にやや多いことが統計的に示されていますが、女性だからといって安心できるほどの差ではありません。また、小児期に発見される例が多いものの、大人になってから偶然見つかる無症状のくも膜のう胞も少なくありません。

予防方法については、先天的な発生そのものを防ぐ手立ては現在の医学ではありません。ただし、後天性要因として知られる頭部への強い衝撃や頭蓋内出血を避けることは、結果的にくも膜のう胞の発生リスクを下げる可能性があります。日頃から頭部を保護する(例えばスポーツでヘルメットを着用する、交通事故に注意するなど)ことは一般的に脳を守るうえで重要です。
さらに、すでにくも膜のう胞があるとわかっている方は合併症の予防に注意が必要です。基本的に日常生活や運動に大きな制限はありませんが、通常より硬膜下血腫の合併率がわずかに高いことが指摘されています。そのため、ボクシングのように繰り返し頭部へ強い衝撃を受ける恐れのあるスポーツは避けるほうが望ましいとされています。実際にのう胞のある方が頭部外傷を負って硬膜下血腫を起こした場合、激しい頭痛や嘔吐、意識障害などが生じますが、こうした際にはできるだけ早く脳神経外科を受診するようにしましょう。

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