

監修医師:
高宮 新之介(医師)
目次 -INDEX-
頭蓋内胚細胞腫瘍の概要
頭蓋内胚細胞腫瘍とは、脳や脊髄を含む中枢神経系に発生する胚細胞由来の腫瘍を指します。
主に松果体や視床下部・下垂体付近、ときには基底核や脳室内など、脳内の正中部分に多く認められることが特徴です。
小児から思春期・若年成人まで幅広い年齢層に見られ、男女比では男性にやや多いと報告されています。
胚細胞は本来、性腺(卵巣や精巣)に分化していく細胞ですが、何らかの要因で脳内などの性腺以外の部位に迷入し、腫瘍化することで頭蓋内胚細胞腫瘍が発生すると考えられています。
腫瘍の種類には単一型(胚細胞腫・絨毛がん・卵黄囊腫瘍など)や複合型(複数の組織が混在)などさまざまなパターンがあり、予後や治療方針も腫瘍の種類や病期によって異なります。
治療の進歩により、腫瘍が限局している段階で適切な対応が行われれば良好な経過を期待できるケースも多く、早期発見と適切な治療が極めて重要とされています。
頭蓋内胚細胞腫瘍の原因
頭蓋内胚細胞腫瘍の原因は、胚細胞(始原生殖細胞)の移動の異常によるものと考えられています。胎生期に卵巣や精巣へ向かうはずの胚細胞が、脳内などの本来とは異なる場所に残ったり迷い込んだりすることがきっかけで腫瘍化すると推定されています。
ただし、なぜ胚細胞が脳内に残存・迷入し、どのようなタイミングで腫瘍化するのかなど、詳細なメカニズムはいまだ明確に解明されていません。
また家族性に発症するケースは報告が少なく、遺伝要因よりも環境や偶発的な細胞変異が重なって起こると考えられています。
頭蓋内胚細胞腫瘍の前兆や初期症状について
初期症状は、腫瘍ができた部位や進行度によって異なりますが、おもな特徴として下記の症状があげられます。
- 頭痛や嘔気・嘔吐が数日から数週間続く(脳圧の上昇による)
- ぼんやりする、眠気が強いなどの意識レベルの低下
- 視野が狭くなる、ものが二重に見える(視路の圧迫や眼球運動障害)
- 思春期や学童期のホルモン分泌異常(思春期の遅れや尿崩症状など)
- 片側の手足が動かしにくい、歩行がぎこちない(基底核などの運動中枢が影響を受ける場合)
受診する診療科目としては、まず脳神経外科または小児の場合は小児脳神経外科が一般的です。
ただし、症状によって内科(小児科)や眼科、耳鼻咽喉科などで検査を受け、頭蓋内病変の可能性が示唆された時点で脳神経外科へ紹介されるケースも少なくありません。
ホルモン異常が疑われる場合には、内分泌内科や小児科との連携も重要です。
頭蓋内胚細胞腫瘍の検査・診断
1)画像検査
頭部CTやMRI検査などを行い、脳内の腫瘤の大きさや位置、性状(嚢胞成分・出血・石灰化など)を詳細に把握します。MRIは腫瘍の広がりを評価するのに役立ち、治療方針の決定にも重要な役割を果たします。
2)血液・脳脊髄液検査
頭蓋内胚細胞腫瘍では、腫瘍由来のマーカー(AFP:アルファフェトプロテインやHCG:ヒト絨毛性ゴナドトロピンなど)が血中や脳脊髄液中に高値を示す場合があります。これらの値は診断だけでなく、治療効果の判定や再発のモニタリングにも用いられます。なお、腫瘍マーカーが上昇しない種類(胚細胞腫=germinoma)の場合もあり、その際は画像所見や病理組織による判断がより重要となります。
3)病理検査(生検)
画像やマーカーのみでは腫瘍の種類を特定できない場合や、治療方針の確立に組織学的確定診断が必要と判断された場合には、脳神経外科医による生検(または摘出標本の一部を用いた病理検査)が行われます。腫瘍組織を詳しく調べることで悪性度や詳細な組織型を確定し、さらに効果的な治療法を選択する手がかりとします。
頭蓋内胚細胞腫瘍の治療
1)外科的治療
腫瘍が摘出しやすい部位に限局している場合や、水頭症など頭蓋内圧亢進を軽減する目的がある場合は外科的に腫瘍の全摘出や部分切除を行います。完全切除が難しい部位にある場合でも、生検を行うことで診断精度を上げ、術後の放射線治療や化学療法をより適切に計画できます。
2)放射線治療
頭蓋内胚細胞腫瘍は放射線感受性が高い種類が多く、外科的治療のみで取り切れない場合や手術のリスクが高い場合には放射線治療が重要な役割を担います。治療範囲や線量は腫瘍の病期や種類によって異なり、通常は腫瘍周囲だけでなく脊髄方向への播種を考慮した照射を検討します。
3)化学療法
プラチナ系製剤(シスプラチンやカルボプラチンなど)を中心とする多剤併用化学療法が行われ、手術や放射線治療の効果を高める目的でも用いられます。化学療法の効果判定としては、画像検査のほか腫瘍マーカーの推移などもあわせて確認し、治療効果を総合的に判断します。
4)治療後のフォローアップ
頭蓋内胚細胞腫瘍の多くは長期生存が期待できる反面、再発リスクの評価やホルモンの補充療法、神経機能のリハビリテーションなど、長期的な経過観察とサポートが欠かせません。特に、下垂体領域の腫瘍でホルモン分泌異常が残存しやすいケースや、放射線治療による晩期合併症のリスクがあるため、定期的な検査や医師との相談を続けることが大切です。
頭蓋内胚細胞腫瘍になりやすい人・予防の方法
現時点では、頭蓋内胚細胞腫瘍の発症リスクを高める遺伝的要因や生活習慣要因は明確に特定されていません。ただし、性分化疾患(例:先天的な性腺機能異常)など、一部の病態が関連する場合があると報告されています。
予防法としては、日常生活のなかで特別な対策をとることは難しいのが現状です。しかし、原因不明の頭痛や視野異常、尿量の増加などの異常が続く場合、早めに医療機関を受診して画像検査や血液検査を受けることが早期発見につながる可能性があります。
関連する病気
- 松果体腫瘍
- 中脳水道狭窄
- 下垂体機能低下症
参考文献
- FrazierALetal.:JClinOncol33:195-201,2015
- 日本病理学会小児腫瘍組織分類委員会・編:小児胚細胞腫瘍群腫瘍小児腫瘍分類図譜第5編.金原出版,6,1999




