

監修医師:
伊藤 規絵(医師)
目次 -INDEX-
レノックス・ガストー症候群の概要
レノックス・ガストー症候群(Lennox-Gastaut症候群:LGS)は、小児期に発症する難治性てんかんを主症状とするてんかん症候群です。
この症候群は、強直発作や非定型欠神発作、脱力発作などの複数のてんかん発作を特徴とし、知的障害や発達遅滞を伴うことが多いようです1)。
小児てんかん患者さんの0.6〜4%程度がLGSと推定されています1)。一般人口におけるてんかんの有病率が0.5〜1%程度であることを考慮すると、LGSの患者数は10万人あたり20-30人程度と推測されています1)。
原因は、脳形成異常や低酸素性虚血性脳症、外傷後脳損傷、遺伝子異常などが挙げられます。
治療には、複数の抗てんかん薬の併用が一般的です。バルプロ酸やラモトリギンなどの薬剤が用いられ、抗けいれん作用があるベンゾジアゼピン系薬剤も使用されます。また、ケトン食療法や脳梁離断術が選択肢として考慮されることもあります7))。日常生活では、規則正しい生活や適切な服薬が重要です。発作による転倒のリスクがある場合には、ヘッドギアの装着が推奨されます。
LGSの患者さんや家族に対する支援が行われています。難病情報センターや小児慢性特定疾病情報センターなどが関与しており、患者会やネットワークづくりも進められています1)。
レノックス・ガストー症候群の原因
複数の要因が関与する難治性てんかん症候群です。
脳形成異常
脳の形成異常は、LGSの原因として最も多く認められる要因の一つです。皮質異形成(脳の発生異常で、てんかんの原因となる大脳皮質の局所的な形成障害)や脳幹形態異常などが含まれます2)。
低酸素性虚血性脳症
新生児仮死や出生時の低酸素状態による脳障害も原因の一つです。これにより、脳の発達に影響を及ぼすことがあります。
外傷後脳損傷
頭部外傷や脳損傷もLGSの原因となり得ます。外傷が脳の機能に影響を与えることがあります。
脳腫瘍や腫瘤性病変
結節性硬化症(全身に良性腫瘍を生じる遺伝性疾患で、皮膚や脳に影響を与える)2)3)や神経線維腫症(遺伝性の病気で神経に良性腫瘍が生じる疾患)4)などの腫瘤性病変も関与することがあります。
代謝異常
一部の代謝異常がLGSの原因となることがあります5)。
染色体異常や先天奇形症候群
ダウン症候群やその他の染色体異常、先天奇形症候群も関連しています5)。
遺伝子異常
GABRB3、ALG13、SCN8A、STXBP1、DNM1、FOXG1、CHD2などの遺伝子変異が一部の症例で報告されています1)。これらの遺伝子は脳の神経細胞(ニューロン)の機能に関与すると考えられています。
レノックス・ガストー症候群の前兆や初期症状について
前兆は、幼少期から小児期に発症することが多く、複数のてんかん発作を特徴とします。睡眠不足や疲労が発作を誘発することがあります。また、日常生活のストレスが発作のきっかけとなることがあります。さらに、環境の変化として、慣れない環境や場所での生活が発作を引き起こす可能性があります。
初期症状には、強直発作(睡眠中に身体が左右対称に固くなり、白目になったり、腕が上がったりする)や非定型欠神発作(数十秒間にわたり、ぼーっとする状態になり、話しかけても反応しないことがある)、脱力発作(突然筋肉の緊張が失われ、崩れるように倒れてしまうことがある)、ミオクロニー発作(手足や顔が一瞬ピクッと収縮する発作で、物を落としたり転んだりすることがある)などが認められます1)。
また、これらの発作は、特に睡眠中に起こることが多く、初期段階では軽い症状から始まることがあります1)。
レノックス・ガストー症候群の病院探し
小児科や脳神経外科、脳神経内科(または神経内科)の診療科がある病院やクリニックを受診していただきます。
レノックス・ガストー症候群の検査・診断
まず、病歴の確認を行います。特にウエスト症候群(乳児期に発症する難治性てんかんで、点頭てんかんとも呼ばれ、特徴的なスパズム発作と発達の退行を伴う)などの既往があるかどうかを確認します6)。
脳波検査は、診断においてとても重要です。睡眠中の速律動(全般性・両側対称性の10〜20Hzの速波律動が見られる)や全般性遅棘徐波(2〜2.5Hzの棘徐波や鋭徐波を認める)が特徴的です2)。また、頭部MRIを用いて脳の形態異常を確認します。血液・生化学的検査では、てんかんの原因となる代謝異常や遺伝子異常の有無を確認します。
鑑別診断
LGSの診断には、ほかのてんかん症候群との鑑別が重要です。特にミオクロニー失立発作てんかんや徐波睡眠時に持続性棘徐波を示すてんかん(徐波睡眠期持続性棘徐波を示すてんかん性脳症;Continuous Spike and Waves during Sleep:CSWS)、非定型良性小児部分てんかん(Atypical benign partial epilepsy of childhood:ABPE)、前頭葉てんかんの一部と鑑別する必要があります。
レノックス・ガストー症候群の治療
薬物療法や食事療法、外科手術、リハビリテーションなどが挙げられます。
薬物療法
主に抗てんかん薬を用いた薬物療法が中心です。複数の発作型があるため、複数の抗てんかん薬を併用することが一般的です。ラモトリギン(強直発作や無緊張発作に対して有効とされている)やバルプロ酸(一般的に使用される抗てんかん薬ですが、LGSでは効果が限られることもある)、フェンフルラミン塩酸塩(フィンテプラ:ドラベ症候群に続き、LGSの治療にも用いられることがある)などが挙げられます。
食事療法
ケトン食療法が有名です。これは、糖質を減らし脂質を増やして体内でケトン体を生成することで、てんかん発作を抑制する方法です。ケトン食は脂質:糖質+タンパク質の比率を3〜4:1に設定し、砂糖や米、パン、パスタなどの炭水化物を制限します8)。また、修正アトキンス食も効果があると報告されています。これは糖質のみを10〜20g/日までに制限し、脂質を多く摂取する方法です9)。
外科手術
薬物療法で十分な効果が得られない場合、外科手術が選択されることがあります。脳梁離断術は、脳の左右を結ぶ脳梁を切断する手術で、全身発作を抑制する効果があります7)。迷走神経刺激術は、迷走神経を刺激することで発作を抑制する方法です。
リハビリテーション
身体障害や知的障害を軽減するために重要です。理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などが協力して、日常生活や社会生活を支援します。
日常生活への配慮
発作を誘発する要因を避けることが重要です。特に、疲労や寝不足、ストレスを避け、規則正しい生活を心がけることが推奨されます。
レノックス・ガストー症候群になりやすい人・予防の方法
なりやすい方として、脳形成異常や低酸素性虚血性脳症が挙げられます。これらは新生児仮死や出生時の低酸素状態が原因となることがあります。また、頭部外傷が脳の機能に影響を与えることがあります。さらに、先にも述べたGABRB3、ALG13、SCN8A、STXBP1、DNM1、FOXG1、CHD2などの遺伝子変異が関与することがあります。また、乳児期にウエスト症候群を経験した子どもが後にLGSになることがあります。
直接予防する方法は現在のところ解明されていません。しかし、発症した場合のてんかん発作を予防したり、発作の頻度や重症度を軽減するための対策はあります。例えば、規則正しい生活が重要です。発作誘発因子の回避としては、疲労や寝不足、ストレスを避けることが推奨されます。適切な治療の継続も大切です。 医師の指示にしたがって抗てんかん薬を服用し続けることが必要です。
参考文献
- レノックス・ガストー症候群(指定難病144)
- https://www.res-r.com/wp-content/uploads/2019/04/Guide-Nanbyo-Epilepsy.pdf
- 結節性硬化症の診断基準及び治療ガイドライン ―改訂版―
- 神経線維腫症Ⅰ型(指定難病34)
- 144 レノックス・ガストー症候群 145 ウエスト症候群 146 大田原症候群 147 早期ミオクロニー脳症 148 遊走性焦点発作を伴う乳児てんかん
- ウエスト症候群(指定難病145)
- Q4:どのようなてんかんに対してどの手術が適切ですか? - 一般社団法人 日本小児神経学会
- 小児難治性てんかんに対するケトン食治療の再検討
- 修正アトキンス食療法とはどのような治療法ですか? | てんかん情報センター




