

監修医師:
高宮 新之介(医師)
目次 -INDEX-
頭蓋骨線状骨折の概要
頭蓋骨線状骨折とは、頭部に強い衝撃が加わることによって頭蓋骨に直線的な亀裂が生じた状態です。頭蓋線状骨折は成人では一般的な骨折です。線状骨折の特徴は、骨の断片が変位せず、亀裂や線のような形として現れます。
線状骨折は単純骨折とも呼ばれ、骨折線が頭蓋骨の外側から内側まで貫通する完全骨折と、頭蓋骨の一部にのみ亀裂が生じる不完全骨折に分類されます。また、骨折が頭蓋底(頭蓋骨の底部)に及ぶ場合は頭蓋底骨折として区別されることもあります。
線状骨折は合併症を伴わない場合は予後が良好な骨折とされていますが、骨折に伴う脳の損傷や出血などの合併症が生じる可能性があるため、適切な診断と治療が必要です。
頭蓋骨線状骨折の原因
頭蓋骨線状骨折の主な原因は、頭部への直接的な強い衝撃です。以下のような状況で発生することが多くあります。
外傷性要因
交通・自転車事故
交通事故や自転車事故による頭部への強い衝撃が頭蓋骨線状骨折の要因となります。車両の前面衝突やサイドインパクト時の車内構造物との接触、自転車からの転倒で頭部が地面に打ち付けられることで受傷します。
スポーツ関連の事故
コンタクトスポーツでの頭部衝突も骨折の原因となります。ボクシング、ラグビー、アメリカンフットボールなどで、相手選手との接触や地面への転倒によって頭部に強い力が加わることが要因となります。
頭蓋骨の薄い部位(側頭部や頭蓋底)は骨折しやすい傾向があります。また、子どもと高齢者は骨の弾力性や強度の違いから、成人よりも骨折しやすいとされています。
頭蓋骨線状骨折の前兆や初期症状について
頭蓋骨線状骨折の初期症状として以下の症状がある場合は、救急外来もしくは脳神経外科を受診してください。
頭部の痛み
骨折部位に限局した持続的な痛みがあります。この痛みは頭部を動かしたり、軽く圧迫したりすると痛みが強くなることが多く、受傷後数日間は続くことがあります。
出血
頭皮の裂傷がある場合は、外部への出血が見られます。また、骨折部位の下に血液が溜まり、時間の経過とともに打撲部位から離れた場所に広がることもあります。
骨折部の腫脹
骨折部位周辺に軟部組織の腫れがみられます。この反応は出血や炎症反応によるもので、受傷後数時間でピークに達し、徐々に軽減していきます。
打撲による疼痛
外力が加わった部位には、骨折の有無に関わらず打撲による痛みがあります。この痛みは触れると強く感じられ、頭部全体の鈍痛として自覚されることもあります。
めまい・ふらつき
頭蓋骨線状骨折後、脳震盪や内耳への影響により、めまいやふらつき感が生じることがあります。特に姿勢をかえたときに症状が強くなり、数日から数週間持続することもあります。これらの症状は頭蓋内合併症の可能性があります。
吐き気
骨折に伴う脳への衝撃や炎症反応により吐き気が起こります。特に持続する吐き気や嘔吐は頭蓋内圧上昇の可能性が考えられます。
意識レベルの変化
軽度の混乱から重度の傾眠、昏睡までさまざまなレベルの意識変化が起こりえます。
頭蓋骨線状骨折の検査・診断
頭蓋骨線状骨折の検査と診断は以下となります。
身体診察
医師は初期評価として、以下の内容を診察します。
受傷転機の確認
どのような状況で頭部を打撃したかの詳細
症状の評価
頭痛、吐き気、めまい、意識状態
神経学的検査
意識レベル、瞳孔反応、運動・感覚機能、反射反応の確認
頭部の視診・触診
腫脹、裂傷、陥没、圧痛の確認
画像検査
CT検査
頭蓋骨骨折の診断において重要な検査です。頭蓋骨線状骨骨折の29.8%、頭頂側頭線状骨折では73.5%と高い確率で硬膜外血腫が発生します。
線状骨折の検出率が高く、脳実質の損傷や頭蓋内出血なども同時に評価できるため、頭部外傷の初期評価には必須とされています。
MRI検査
骨折自体の評価よりも、脳実質の損傷や浮腫、微小出血などの評価に有用です。急性期よりも亜急性期以降の評価に用いられることが多いです。
正確な診断のためには、臨床症状と画像所見を総合的に判断することが重要です。また、線状骨折自体よりも、それに伴う脳損傷や頭蓋内合併症の評価がより重要であることが多いため、総合的な評価が必要です。
頭蓋骨線状骨折の治療
頭蓋骨線状骨折の治療は、患者さんの状態に応じて分かれます。
保存的治療
単純な線状骨折のみの場合には保存治療を行います。
経過観察
経過観察
意識障害が遅発する場合でも、約83%は受傷後6時間以内に発現すると報告されています。ただし、例外的にそれ以降に症状が現れることもあるため、神経学的変化に対しては少なくとも24〜48時間の継続的な観察が推奨され、入院も検討されます。
神経学的チェック
意識レベル、瞳孔反応、運動機能などの定期的な評価を行います。
頭部CT再検
状態の変化がある場合や経過観察のために行います。
対症療法
疼痛管理
アセトアミノフェンなどの鎮痛薬(NSAIDsは出血リスクがあるため避けることが多い)
安静
骨折部位の安定化と自然治癒の促進を促します。
頭部の挙上
頭蓋内圧上昇を軽減するために行う場合があります。
手術
硬膜外血腫などの頭蓋内病変を伴う場合は血腫の大きさに応じて開頭血腫除去術などの手術を行います。
頭蓋骨線状骨折になりやすい人・予防の方法
頭蓋骨線状骨折は誰にでも起こります。そのなかでも、以下のような方々はリスクが高いとされています。
頭蓋骨線状骨折になりやすい人
小児
頭蓋骨が薄く発達途上であることに加えて、落下・転倒事故、遊具関連の事故などによる頭部への衝撃が主な要因となります。
高齢者
加齢に伴う骨密度低下と骨脆弱性、バランス障害による転倒関連外傷、また抗凝固薬などの薬剤使用による出血リスク増加が主な要因となります。
スポーツ・格闘技
コンタクトスポーツ中の転倒や格闘技の打撃などによる強い衝撃は頭蓋骨線状骨折の要因となります。スポーツでは、ラグビーやアメフトなどのコンタクトスポーツや乗馬や競輪、スケートボードなどで転倒した際に発生することが多いと言われています。
その他
てんかん、起立性低血圧症、メニエール病などの疾患がある方は、突然の意識消失やめまい、平衡感覚の喪失により転倒しやすく、頭部を強打することで頭蓋骨線状骨折を起こすリスクが高くなります。
予防の方法
頭蓋骨骨折を完全に予防することは難しいですが、以下の対策でリスクを大幅に減らすことができます。
ヘルメット・ヘッドギアの着用
自転車・バイク乗車時やスポーツ活動では、適切な規格のヘルメットやヘッドギアを正しく着用することで、頭部への衝撃を分散・吸収し、頭蓋骨線状骨折の危険性を軽減できます。
自宅環境の整備
手すりの設置、滑り止めマットの使用、十分な照明確保、つまずき要因の除去など、転倒予防のための環境を改善することで、転倒の危険性を軽減できます。
適度な運動
ウォーキングや筋力トレーニングなどの運動を定期的に行うことでバランス感覚と筋力を向上することで、転倒の危険性を軽減できます。
こどもの安全対策
こどもの頭蓋骨は薄く未発達なため、安全柵の設置、発育発達に応じた遊び場の選択、ヘルメット着用など、発達段階に応じた安全対策が必要です。
その他
てんかんは発作コントロール、起立性低血圧症は動作をゆっくり行う、メニエール病は専門的治療を受けるなど、各疾患に応じた対策を行うことで転倒の危険性を軽減できます。
関連する病気
- 脳震盪
- 硬膜下血腫
- 頭蓋内出血
参考文献
- 頭蓋骨骨折 | 福岡の脳神経外科
- 線状頭蓋骨骨折患者における硬膜外血腫の頻度:Aurangzeb A, Ahmed E, Afridi EA, Khan SA, Muhammad G, Ihsan A, Hussain I, Zadran KK, Bhatti SN. FREQUENCY OF EXTRADURAL HAEMATOMA IN PATIENTS WITH LINEAR SKULL FRACTURE. J Ayub Med Coll Abbottabad. 2015 Apr-Jun;27(2):314-7. PMID: 26411105.
- 頭蓋骨骨折 – 脳・神経疾患 - 酒田市
- 重症頭部外傷治療・管理のガイドライン作成委員会編,日本脳神経外科学会,日本脳神経外傷学会監修:重症頭部外傷治療・管理のガイドライン.第3版,2013; 医学書院 東京.
(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcns/22/11/22_831/_pdf) - Japan Trauma Care and Research(日本外傷診療機構):Japan Trauma Data Bank Report 2017
https:// www.jtcr-jatec.org/traumabank/dataroom/data/ JTDB2017.pdf
(2018.12.16 accessed).




