

監修医師:
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)
目次 -INDEX-
進行性球麻痺の概要
進行性球麻痺(Progressive Bulbar Palsy: PBP)は、舌や喉の筋肉を動かす神経が徐々に障害されることで、話すことや飲み込むことが難しくなる病気です。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の一形態として分類されることが多く、進行すると全身の筋肉にも影響を及ぼす可能性があります。
進行性球麻痺の原因はまだ完全には解明されていませんが、神経細胞の変性が主な要因と考えられています。
病気の進行を完全に止める治療法はありませんが、嚥下訓練やコミュニケーション補助装置の活用、栄養管理などの対策を行うことで、生活の質を維持することができます。

進行性球麻痺の原因
進行性球麻痺の原因は、まだわかっていませんが、運動神経が徐々に機能を失っていくことが発症の要因であると考えられています。
運動神経は、脳から筋肉へ動作の指示を伝える重要な役割を持っています。進行性球麻痺では特に「延髄」と呼ばれる脳の一部にある神経細胞がダメージを受けることで、舌や喉の筋肉をうまく動かせなくなります。
遺伝的原因として、家族性ALS(遺伝性ALS)の一部で特定の遺伝子変異の関与が確認されています。
ただし、進行性球麻痺の多くの症例は家族歴のない孤発性(原因不明で突然発症)として発症すると言われています。
環境要因としては、ウイルス感染や免疫系の異常、特定の化学物質や金属へ長期間さらされることなどが神経変性を引き起こす可能性として考えられています。
さらに、細胞レベルでは神経細胞への酸化ストレスや異常タンパク質の蓄積も、病気の進行に関与している可能性があります。
進行性球麻痺の前兆や初期症状について
進行性球麻痺では、発音の不明瞭化(構音障害)や飲み込みの障害(嚥下障害)が少しずつ進行します。
初期症状は見過ごされがちですが、悪化すると日常生活に大きな影響を及ぼします。
構音障害
構音障害では舌の動きが重要な「ラ行」や「サ行」の発音が難しくなり、言葉が聞き取りづらいと指摘されます。
症状が進行すると、舌の筋力が低下し、舌自体が萎縮することもあります。
舌が小刻みにピクピクと動く「線維束性攣縮(せんいそくせいれんしゅく)」も特徴の一つです。
嚥下障害
嚥下障害は、食事中にむせる回数が増えたり、飲み込むのに時間がかかるといった変化が見られます。
水やお茶などの液体を飲んだ際にむせやすくなり、次第に固形物の飲み込みにも違和感を覚えるようになります。
進行すると、食べ物が喉を通りにくくなり、誤嚥のリスクが高まります。
進行性球麻痺の検査・診断
進行性球麻痺の診察では、舌や喉の筋肉の衰えがどの程度進行しているのか話し方や飲み込みの状態を観察します。
患者の症状を総合的に評価し、他の疾患との鑑別を行うために、複数の検査が必要になります。
画像検査
進行性球麻痺は、他の神経疾患と症状が似ているため、脳や延髄の異常を確認することが必要です。
MRIやCTスキャンを行い、脳腫瘍や脳梗塞などの病気が関与していないかを調べます。
延髄の変性が進んでいる場合には、MRI画像で異常が確認されることがあります。
筋電図検査
進行性球麻痺では、運動ニューロンが正常に働かなくなるため、筋電図検査を行って神経と筋肉の間の信号伝達が正常に行われているかを調べます。
筋電図では、筋肉がどの程度弱っているのか、神経の指令が適切に伝わっているかを確認でき、他の神経疾患との区別が可能です。
血液検査
血液検査では、進行性球麻痺の診断補助として、筋肉の損傷を示す値の測定が行われます。また、進行性球麻痺と似た症状を引き起こす他の疾患を除外するために、甲状腺機能異常やビタミン欠乏症などを調べる追加の検査が行われることがあります。
脳脊髄液検査
脳脊髄液検査では、進行性球麻痺の診断補助として、細胞数、蛋白質濃度、細胞の種類が評価されます。
リンパ球や好中球が増加している場合、感染症や炎症性疾患の可能性も考えられます。
進行性球麻痺の治療
進行性球麻痺には根本的な治療法がなく、症状を和らげ、日常生活を快適に送るための治療が中心となります。
治療の目的は、発話や嚥下機能の低下による日常生活の困難を軽減し、できる限り快適に過ごせるよう支援することです。
薬物療法
進行性球麻痺の進行を完全に止める薬はまだ存在しませんが、症状を緩和するために神経保護作用がある薬剤が使用されることがあります。
リハビリテーション
進行性球麻痺では発話が徐々に困難になるため、言語聴覚士によるリハビリテーションが重要です。
発音の練習や話し方の工夫を学び、必要に応じて音声合成装置や文字盤などのコミュニケーション補助装置の使用方法も練習します。
また、食事中のむせや誤嚥(食べ物や飲み物が気管に入ること)のリスクに対しては、安全な飲み込み方の練習や食事形状の工夫を行います。
栄養管理
症状が進行し、自力での食事が難しくなる場合、経鼻胃管や胃ろう(直接胃に栄養を送るチューブ)を用いた栄養補給が検討されます。
呼吸管理
呼吸機能の低下が見られる場合には、人工呼吸器の選択肢が挙げられます。
進行性球麻痺になりやすい人・予防の方法
進行性球麻痺は、発症の明確な原因が特定されていないため、完全に予防する方法はまだ確立されていません。
進行性球麻痺は、遺伝的な要因が関与するケースがある一方、環境要因も発症に影響している可能性があります。
神経細胞にダメージを与える酸化ストレスや慢性的な炎症を防ぐために、喫煙や過度の飲酒は控えるのが推奨されます。
参考文献




