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頭蓋底腫瘍
勝木 将人

監修医師
勝木 将人(医師)

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2016年東北大学卒業 / 現在は諏訪日赤に脳外科医、頭痛外来で勤務。 / 専門は頭痛、データサイエンス、AI.

頭蓋底腫瘍の概要

頭蓋底腫瘍は、頭蓋骨の下部にあたる「頭蓋底」の脳や組織に発生する脳腫瘍の総称です。
頭蓋底には脳幹や小脳、脳神経、重要な血管などが密集しており、腫瘍の発生によってそれらの脳神経や血管を直接圧迫することで、深刻な影響を及ぼします。

頭蓋底腫瘍にはさまざまな種類があり、良性の髄膜腫、神経鞘腫、下垂体腺腫、中悪性の軟骨肉腫や脊索腫、悪性の眼窩がん、嗅神経芽腫、耳咽喉原発がん、肉腫、転移性脳腫瘍などがあります。
これらの腫瘍は、遺伝子変異による脳の周辺細胞の異常な増殖や、他臓器のがんの転移によって発症すると考えられていますが、具体的なメカニズムは未だ解明されていません。

頭蓋底腫瘍の症状は腫瘍の発生部位によって異なります。
髄膜腫であれば頭痛や手足の動きにくさ、言葉の出にくさが見られることがあります。
神経鞘腫であれば聴力低下や耳鳴り、めまい、ふらつきなどの症状が現れる可能性があり、腫瘍の成長によって水頭症を引き起こすこともあります。

治療方針は腫瘍の性質や大きさ、症状の有無によって決定されます。
良性腫瘍で無症状の場合は経過観察が選択されることもありますが、良性腫瘍でも症状が出現している場合や中悪性・悪性腫瘍の場合などは、手術や放射線治療、化学療法、ガンマナイフ治療などが検討されます。

頭蓋底腫瘍の治療は非常に難しい場合が多く、慎重な対応が求められます。

特に手術は、高度な技術を要するうえ、長時間に及ぶことも少なくありません。腫瘍を完全に取り除こうとすると、周囲の神経を損傷するリスクが高まり、逆に腫瘍を一部残すと再発や再手術の可能性が高まります。

また、放射線治療後は、腫瘍の浮腫(むくみ)などにより、一時的に症状が悪化することもあります。そのため、放射線治療科と脳神経外科医医が連携し、患者さんごとに最善の方法を検討しながら、慎重に治療を進めていきます。

頭蓋底腫瘍の原因

頭蓋底腫瘍は、遺伝子の変異によって脳周辺の細胞が異常増殖することなどが原因と考えられていますが、はっきりしたことは未だ分かっていません。

下垂体腺腫などは内分泌系の異常が発症に関与している可能性が示唆されています。
高齢者では、ほかの臓器の原発がんが転移することで、頭蓋底腫瘍が生じることもあります。

頭蓋底腫瘍の前兆や初期症状について

頭蓋底腫瘍の初期症状は、腫瘍の発生部位によってあらゆる形で現れます。
腫瘍が脳幹や小脳、脳神経を圧迫すると、頭痛や吐き気などの症状に加え、さまざまな神経症状が生じます。
神経症状として、手足の動きにくさ、言葉の出にくさ、耳鳴り、聴力の低下、めまい、歩行時のふらつき、複視(物が二重に見える現象)、嗅覚障害、嚥下困難、顔面のしびれなどの症状が挙げられます。

これらの症状は、腫瘍の成長に伴い徐々に悪化する傾向があります。
神経鞘腫では水頭症を引き起こすこともあり、上述した神経症状に加えて尿失禁や認知症などが生じて、さらなる症状の悪化につながる可能性があります。

頭蓋底腫瘍の早期発見と適切な治療のためには、これらの症状に注意を払い、異常を感じた際には速やかに医療機関を受診することが重要です。

頭蓋底腫瘍の検査・診断

頭蓋底腫瘍の診断は主に画像検査によっておこなわれます。
一般的にCT検査やMRI検査、血管造影検査が用いられ、これらの検査によって腫瘍の有無や大きさ、周囲の構造物との位置関係を詳細に評価できます。
特に小さな腫瘍の検出にはMRI検査が適しており、CT検査では捉えにくい病変も明確に描出することが可能です。

また、がん細胞に集まる特性のある放射性薬剤を体内に投与し、その分布を特殊なカメラで撮影するPET検査が選択されることもあります。
PET検査は全身のがんの分布を一度に確認できるため、転移性脳腫瘍の診断にも有用です。これらの画像検査を組み合わせることで、頭蓋底腫瘍の正確な診断と適切な治療方針の決定が可能になります。

頭蓋底腫瘍の治療

頭蓋底腫瘍の治療は、腫瘍の種類や大きさ、発生部位などによって異なります。
一般的に手術や放射線療法、化学療法が主な選択肢となりますが、それぞれの症例に適切な方法が選択されます。

小さい良性腫瘍で症状がない場合は、経過観察が選択されることもあります。
しかし、腫瘍が周囲の組織や神経を圧迫している場合は、腫瘍の摘出術が必要になります。
腫瘍の摘出術では、周囲の重要な構造物への影響をできるだけ抑えるために、内視鏡などが活用されることがあります。

腫瘍の大きさや発生した位置などが原因で、完全な腫瘍の摘出が困難な場合、ガンマナイフ治療が併用されることがあります。
ガンマナイフ治療は頭蓋骨を切開せず、専用のヘルメットを装着して放射線を照射し、腫瘍の増殖抑制や停止を図る治療です。
一般的に3cm以内の腫瘍であれば適応可能で、治療後は数年〜数ヶ月の経過に伴って腫瘍が縮小していきます。

中悪性や悪性の腫瘍の場合は、手術に加えて放射線治療や化学療法がおこなわれます。
治療法の選択には、腫瘍の状態だけでなく、患者の全身状態や希望も考慮されます。

これらの治療に加えて、耳鼻科や眼科などの症状に対する治療や、リハビリテーションによる日常生活動作の再獲得も治療の一環として非常に重要です。
頭蓋底腫瘍の治療は複雑で難易度が高いため、専門的な知識と経験を持つ医療チームによる総合的なアプローチが不可欠です。

頭蓋底腫瘍になりやすい人・予防の方法

頭蓋底腫瘍の発症リスクは、疾患ごとに好発年齢が異なります。
多くの頭蓋底腫瘍は中高年齢層で発症しやすい傾向にありますが、一部の腫瘍は若年層でも見られます。
眼窩がんは小児でも発症することがあり、神経鞘腫や下垂体腺腫、嗅神経芽腫などは20代の若年成人でも発症する可能性があります。

頭蓋底腫瘍を予防する確立された方法はありません。
しかし、ほかの臓器から転移性脳腫瘍として発症する可能性も考慮し、全身のがん検診を定期的に受けることが早期発見につながります。
人間ドックや各種がん検診を定期的に受診することで、全身の健康状態を把握し、異常を早期に発見することが可能です。
日常生活で頭痛や視力障害などの症状が現れた場合は、早めに医療機関を受診しましょう。

関連する病気

  • 髄膜腫
  • 軟骨肉腫
  • 脊索腫
  • 眼窩がん
  • 嗅神経芽腫
  • 耳咽喉原発がん
  • 肉腫
  • 転移性脳腫瘍
  • 水頭症

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