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悪性末梢神経鞘腫瘍
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

悪性末梢神経鞘腫の概要

悪性末梢神経鞘腫 (MPNST) は、末梢神経を取り囲む神経鞘細胞から発生するまれな悪性腫瘍であり、一般集団における発生頻度は 0.001% ですが、神経線維腫症1型 (NF1) 患者では生涯リスクが8〜13%に達します。悪性末梢神経鞘腫は主に、NF1に関連する叢状神経線維腫の悪性化、放射線治療後の二次発生、または孤発性で発症します。臨床的には、腫瘍の急速な増大、持続性または悪化する痛み、局所神経障害が初期の徴候となります。診断にはMRIやPET-CTによる画像評価と、生検による病理診断が必須です。治療の中心は外科的切除ですが、放射線療法や化学療法も併用する集学的治療が行われます。NF1患者や小児がん治療歴のある人では、定期的なフォローと早期の異変察知が極めて重要です。悪性末梢神経鞘腫の予後は依然として厳しく、腫瘍径5cm以上、転移の存在などが悪化因子とされ、早期発見が鍵となります。

悪性末梢神経鞘腫の原因

悪性末梢神経鞘腫 (Malignant Peripheral Nerve Sheath Tumor:MPNST) は、末梢神経の周囲を取り巻く神経鞘細胞から発生する悪性腫瘍です。発生頻度は一般人口の 0.001% と非常に稀ですが、神経線維腫症1型 (Neurofibromatosis type 1:NF1) 患者ではリスクが大幅に高くなり、8~13%の患者が生涯のうちに悪性末梢神経鞘腫を発症するとされています (参考文献 1) 。

悪性末梢神経鞘腫 は主に3つの経路から発生すると考えられています。第一に、NF1 に伴う既存の神経線維腫 (特に叢状神経線維腫) が悪性化する経路です。NF1患者での叢状神経線維腫の存在は、悪性末梢神経鞘腫発生リスクを約20倍に増加させると報告されています (参考文献 1) 。第二に、放射線治療後10~20年を経て、二次的に発生する経路です。小児期にがん治療を受けた生存者では、一般人口に比べて悪性末梢神経鞘腫発症リスクが40倍高まることが示されています (参考文献 1) 。第三に、健常な末梢神経から孤発性に発生するケースもあります。

なお、神経鞘細胞から発生する腫瘍として比較的有名な神経鞘腫 (schwannoma) からの悪性末梢神経鞘腫へ悪性化することは稀であるとされています (参考文献 2) 。

悪性末梢神経鞘腫の前兆や初期症状について

悪性末梢神経鞘腫は体幹や四肢にできる場合が多いことが知られています。腫瘍の大きさや形が急に変わったり、痛み・痺れなどの症状が短期間のうちに悪化することが臨床的な特徴で、特に既に末梢神経腫瘍がある部位に、このような症状が出る場合には注意が必要です (参考文献 1) 。

既に NF1 の診断を受けている方や小児期にがん治療を受けた方でこのような症状があれば、NF1やがん治療をしてもらった病院や、今定期的に通っている医療機関をすぐに受診してください。

悪性末梢神経鞘腫の検査・診断

悪性末梢神経鞘腫の診断には画像検査と生検が必要です。 画像検査では MRI や PET-CT が有用で、腫瘍のサイズや境界が明瞭かどうか、腫瘍内外の変化を評価することができます。しかしながら良性・悪性の区別をすることは難しい場合が多く、診断確定には生検での病理診断が鍵になります。

稀な腫瘍であるため、診断確定までに時間がかかることもあります。他の施設や軟部腫瘍を得意とする病理医に相談し、診断を確定します。

悪性末梢神経鞘腫の治療

手術での腫瘍切除を基本として、放射線治療や化学療法を組み合わせて治療します。 手術での治癒の可能性を高めるために腫瘍から十分距離をとって切除しようとすると、四肢原発の場合には手足を失うことになったり、関節機能が大きく損なわれる場合があるほか、腫瘍の原発部位によっては広範囲の切除が不可能な場合もあります (参考文献 1) 。

手術の他には腫瘍に対して強い放射線をあてる放射線治療や、抗腫瘍薬を使う化学療法を組み合わせて、患者さん個人個人の病気の進行度や、もともとの体力に合わせた治療を組み合わせていきます。

悪性末梢神経鞘腫になりやすい人・予防の方法

悪性末梢神経鞘腫になりやすい人はNF1の患者と、小児期にがん治療を受けていた方です。 NF1患者の悪性末梢神経鞘腫発症リスクは 8〜13% と言われており、これは一般集団の発症率と比較して1万倍です。悪性末梢神経鞘腫患者の半分程度は NF1 患者であるとされており、最も大きなリスク因子です (参考文献 2) 。 小児がん生存者における発症率は一般集団の40倍程度とされています。放射線療法の10-20年後に悪性末梢神経鞘腫を発症することもあります。

悪性末梢神経鞘腫の治療成績は、外科治療やそのほかの治療法が発達した今日でも良好とは言えません。コントロール不良になるリスク因子としては、腫瘍の大きさが 5 cm 以上であること、リンパ節や他の臓器に転移があることなどが知られています (参考文献 1) 。治癒・腫瘍の良好なコントロールをするためには早期発見が重要と言えるでしょう。

悪性末梢神経鞘腫の発症リスクに当てはまる項目がある場合には、定期受診を欠かさないことや、先述のような症状があった場合には直ぐにかかりつけの医療機関を受診することが、早期発見・重症化予防に繋がります。

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