HIV脳症
田頭 秀悟

監修医師
田頭 秀悟(たがしゅうオンラインクリニック)

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鳥取大学医学部卒業。「たがしゅうオンラインクリニック」院長 。脳神経内科(認知症、パーキンソン病、ALSなどの神経難病)領域を専門としている。また、問診によって東洋医学的な病態を推察し、患者の状態に合わせた漢方薬をオンライン診療で選択する治療法も得意としている。日本神経学会神経内科専門医、日本東洋医学会専門医。

HIV脳症の概要

HIV脳症とは、中枢神経組織にヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染することで脳の機能障害をもたらす病気です。脳内の神経細胞や免疫細胞がHIVの影響を受けることで発症します。
HIVはエイズ(後天性免疫不全症候群)の原因ウイルスであり、感染者の体液や血液を介して感染します。

HIV脳症は認知機能に障害が起こることが特徴で、重症度により顕著な機能障害を伴う認知障害(HAD)、軽度神経認知障害(MND)、無症候性神経心理学的障害(ANI)の3つに分類されます。重度のHADになると深刻な認知症状や運動機能障害が生じ、食事や排泄などの日常生活の動作にも支障が出ることもあり、入院が必要になる場合があります。

主な症状は、認知、行動、運動の3つの領域における障害として現れます。記憶力や集中力の低下、判断力の低下、抑うつなどの精神的な症状、歩行障害などがあります。

HIV脳症の治療は、抗レトロウイルス療法(ART)と支持療法があります。ARTにより、HIVの活動を抑え、免疫機能の改善が期待できます。 支持療法は、症状を軽減することを目的に行います。定期的な検査と適切な服薬が、脳症の予防と管理において重要な役割を果たします。
治療を受けていないHIV感染者、免疫力が低下している人、高齢者のHIV感染者はHIV脳症になりやすいと言われています。進行速度には個人差がありますが、適切な治療が行われれば多くのケースで進行を抑制することができます。

HIV脳症の原因

HIV脳症の原因は、HIVが中枢神経系に侵入し、脳内の免疫系の細胞に感染することです。HIV感染が続くことで免疫系が慢性的に活性化し、脳内で慢性的な炎症が引き起こり、脳の細胞にダメージを与えます。その結果、脳の働きが悪くなりHIV脳症が起こります。

HIVへの感染は、HIV感染者との血液や体液の接触によっておこります。具体的な感染経路には、性行為、胎盤や産道、母乳を介しての母子感染、輸血や臓器移植、麻薬等の静脈注射の刺しまわしなどが挙げられます。
唾液や汗、涙、尿、便などは、肉眼で確認できる血液が混じっていなければ感染のリスクはありません。

また、適切な抗レトロウイルス療法(ART)が行われない場合、HIVの増殖が抑えられず、脳への影響が強まります。ARTの中断や正しく服薬できない場合も、HIV脳症の発症リスクを高めます。

HIV脳症の前兆や初期症状について

HIV脳症の症状は、認知、行動、運動の3つに障害が起きます。
認知機能の障害では、記憶力や集中力の低下、判断力の低下が挙げられます。具体的には、最近の出来事や会話を忘れることが増えたり、単純な作業でも集中が続かないようになったりします。

行動の障害としては、抑うつ、不安、意欲の低下、感情の不安定さなどが出現します。ストレスに敏感になり気分の浮き沈みが激しくなる、以前楽しめていた趣味や活動への興味が薄れるなどの症状が現れます。

運動障害には、動作緩慢や失調性歩行があります。歩くスピードが遅くなったり、手先が不器用になったりします。また歩行が不安定になり、転倒しやすくなります。

HIV脳症は初期段階では症状が軽いため、他の病気と見分けがつきにくいことがあります。しかし、早期発見することで進行を遅らせることができます。

HIV脳症の検査・診断

HIV脳症の診断は、神経学的診察、画像検査、血液検査、 髄液検査、認知機能検査が行われます。これらの検査結果を総合的に判断し、他の神経疾患との鑑別を行いながら診断されます。

受診した際に、表情や注意力、話し方などを観察しながら診察します。記憶力、注意力、言語能力、精神症状、運動機能などの神経学的所見を確認します。

他の脳障害を除外するために、髄液検査や画像検査を行います。頭部MRIやCTなどの画像検査では、脳の構造的な異常や萎縮の有無を詳しく調べます。
脳脊髄液検査では、脳脊髄液中のHIV量や炎症マーカーを測定することで、脳内での感染状況を調べます。
血液検査ではHIV量やCD4陽性T細胞数を測定し、全身の免疫状態を評価します。

以上の検査を経てHIV脳症と診断されたら、長谷川式簡易痴呆スケールやMMSEにより認知機能の障害の程度を確認します。

HIV脳症の治療

HIV脳症の治療は、抗レトロウイルス療法(ART)と支持療法です。

抗レトロウイルス療法

抗レトロウイルス療法はHIV量の増殖を抑え、免疫機能を回復させる効果があります。
HIV感染症の2~3種類の治療薬を組み合わせて投与します。

確実に内服治療を継続することで、症状の進行を遅らせることができますが、一定の時間に内服しなかったり飲み忘れたりすると、血中濃度が低い時間帯ができ、耐性ウイルスという薬の効きにくいウイルスが出現しやすくなります。そのため正しい服薬管理が重要です。

支持療法

支持療法は、症状を軽減することを目的に行います。主に認知リハビリテーションやカウンセリングなどを実施します。
認知リハビリテーションでは認知機能の改善や運動機能の向上を目的としたトレーニングやサポートを行います。また抑うつや不安などの精神症状に対しては、抗うつ薬や抗不安薬の使用やカウンセリングが行われます。

HIV脳症になりやすい人・予防の方法

治療を受けていないHIV感染者、免疫力が低下している人、高齢者のHIV感染者はHIV脳症になりやすいと言われています。特に、抗レトロウイルス療法(ART)を適切に行っていない場合や、治療を中断している場合には、HIVの増殖が進み、脳への影響が強まるリスクがあります。

主な予防の方法としては、HIV感染の予防、早期治療、定期検診があります。
HIV脳症を防ぐためには、HIV感染そのものを防ぐことが最も重要です。HIVの感染経路を知り、感染のリスクを避ける行動を心がけましょう。

HIVは感染者の血液や体液を介して感染します。感染予防としては、安全な性行為を心がけることが大切です。コンドームを正しく使用し、複数のパートナーとの性行為は避けましょう。また性行為の際には、性感染症の有無について確認し合うことも大切です。

HIV感染者の中でも高齢者や免疫機能が低下している人は、定期的に医療機関を受診し、ウイルス量や免疫機能の状態を確認することが重要です。またHIVに感染した場合でも、速やかに治療を開始することで脳症のリスクを減らせます。すでにHIVに感染している人は、定期的な神経学的検査を受けることでHIV脳症を早期に発見することができます。


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