

監修医師:
近藤 類(医師)
所属
平鹿総合病院
科長
目次 -INDEX-
頭部外傷後遺症の概要
頭部外傷後遺症は、頭を強く打つなどの事故によって脳が損傷を受け、治療を経た後も長期間にわたって残る症状のことです。
症状は身体的なものから精神的なものまで多岐にわたり、記憶力の低下、性格の変化、感情コントロールの低下などが特徴的です。また、頭痛やめまいなどの身体症状もともなうことがあります。
脳は前頭葉、側頭葉、頭頂葉、後頭葉、小脳、脳幹などに分類されますが、その中でもさらに場所と機能が細かくわかれています。そのため、頭部外傷によってどの場所が損傷を受けたかによって、あらわれる症状も変わってきます。
頭部外傷後遺症の治療では、薬物療法やリハビリテーションなどによって、日常生活の質の維持・向上を目指します。しかし、症状と長期的に付き合うことも大切で、早期の対応や生活環境の調整もする必要があります。
頭部外傷後遺症の原因
頭部外傷後遺症は、事故などによる頭部への強い衝撃で生じた脳の損傷が原因です。損傷には、受傷直後に起こる一次的な損傷と、時間の経過とともに生じる二次的な損傷があります。
一次的な損傷は、衝撃を受けた時点で起こる脳への直接的な損傷です。頭部への衝撃により、脳が頭蓋骨の内側にぶつかったり、脳の中の神経線維が引き伸ばされたりすることで損傷が生じます。衝撃で脳が回転すると、脳の広範囲が損傷する場合もあります。
二次的な損傷は、一次的な損傷の後に時間の経過とともに生じます。たとえば、脳の腫れや血液循環の低下、炎症などによって脳の機能が一次的な損傷からさらに障害されるケースが挙げられます。
このような損傷により、脳の働きが低下したり神経伝達物質のバランスが乱れたりすることで、さまざまな症状が引き起こされます。
頭部外傷後遺症の前兆や初期症状について
頭部外傷後遺症の症状は、頭痛やめまい、吐き気などのほか、損傷された部位に応じて神経症状や高次機能障害、精神的症状などが起こります。
神経症状
頭部外傷後後遺症では、脳の損傷部位に応じて、手足のどちらかが正常に動かなくなる片麻痺や、物に触れた感じなどがわかりづらくなる感覚障害が起こることがあります。
また、目の機能に関連する神経が障害された場合は、視界がぼやけたり光に敏感になったりする症状が続くことがあります。耳の機能が障害された場合は、耳鳴りや聴覚の過敏さ、めまい感などもあらわれます。
高次脳機能障害
高次脳機能とは、記憶、注意力、判断力、言語理解など、人間が社会生活を送るうえで必要な脳の働きのことです。脳の損傷部位によって高次脳機能障害が起こると、新しい情報を覚えることが難しくなったり、事故の前後の記憶が抜け落ちたりする(記憶障害)ことがあります。
ほかにも集中力が著しく低下し、一つの作業に長時間取り組むことが困難になる(注意障害)、言いたい言葉が出てこない、相手の言葉が理解できない(失語症)などの症状があらわれる場合があります。感情のコントロールが難しくなり、些細なことでイライラしたり、突然泣き出したりする(感情失禁)こともあります。
精神的症状
頭部外傷がきっかけで不安や抑うつ状態になり、社会的な引きこもりにつながることもあります。外傷後のストレス障害(PTSD)を発症することもあり、事故の記憶が繰り返しフラッシュバックしたり、強い不安や恐怖を感じたりします。
頭部外傷後遺症の検査・診断
頭部外傷後遺症は、複数の検査を組み合わせて総合的に判断する必要があります。
問診・診察
はじめに、事故や受傷の状況、意識障害の有無、症状の経過などを詳しく確認します。患者本人が自身の状態を正確に認識できていない場合もあるため、日常生活にどのような影響が出ているか、家族からも情報を集めます。
画像検査
CTやMRIによって、脳の血腫や頭蓋骨などの状態を観察します。必要に応じて、脳の血流状態を確かめるために脳血流シンチグラフィーなどを行うこともあります。
神経学的検査
身体の神経症状を調べるために、運動麻痺や感覚の検査、深部腱反射(筋肉の腱を刺激することで神経の反応を見る検査)などを行います。脳神経の検査によって目の動き、顔の表情なども詳しく調べます。これらの検査によって、脳の損傷でどのような症状が出ているかを確認できます。
高次脳機能検査
高次脳機能検査では、知能検査や記憶検査、注意機能検査、失語症検査などを行うことで、さまざまな高次機能障害の有無やその程度を客観的に評価します。評価の結果は、リハビリテーションの計画にも役立ちます。
頭部外傷後遺症の治療
頭部外傷後遺症の治療は、患者の症状に合わせて薬物療法、リハビリテーション、心理カウンセリングなど、さまざまな方法を組み合わせて行います。
薬物療法
症状に応じてさまざまな薬物療法が行われます。頭痛に対しては鎮痛薬、めまいに対しては制吐薬や抗めまい薬が使用されます。また、不眠や不安に対しては、睡眠薬や抗不安薬が処方されることもあります。うつ状態が強い場合は、抗うつ薬が検討されることもあります。
リハビリテーション
リハビリテーションは日常生活動作の再獲得を目的に行われます。記憶力や注意力、判断力などの改善のために、言語聴覚士や作業療法士による専門的なトレーニングが行われ、日常生活に必要な機能の改善を図ります。また、身体機能の改善を目指すために、理学療法士による運動機能やバランス機能の訓練、作業療法士による日常生活動作の訓練などが行われます。
心理カウンセリング
心理的な問題に対しては、臨床心理士によるカウンセリングが行われます。不安やストレス、うつ状態の改善を目指すとともに、症状との付き合い方や対処法についても指導が行われます。必要に応じて家族へのカウンセリングも提供されます。
頭部外傷後遺症になりやすい人・予防の方法
頭部外傷のリスクが高い人には、接触の多いスポーツ選手、高所作業者、転倒しやすい高齢者などがあります。とくに、一度頭部外傷を経験した人は再度の外傷で症状が重症化する可能性があるため注意が必要です。
予防には、状況に応じた適切な防護具の使用が重要です。スポーツ時のヘルメット着用や、車の運転時のシートベルト着用などが基本となります。また、高齢者は転倒予防のために、住環境の整備や夜間の照明確保などの対策が必要です。




