

監修医師:
林 良典(医師)
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目次 -INDEX-
脳震盪の概要
脳震盪(のうしんとう)は、頭部に強い衝撃が加わることで脳が一時的な機能障害を起こす状態です。頭部に衝撃がなくても、身体への衝撃から脳が揺さぶられることもあります。この機能障害は可逆的で、通常は数日から数週間で改善しますが、適切な治療を行わない場合には後遺症や慢性的な症状を引き起こす可能性があります。脳震盪は頭蓋骨内で脳が揺れたり、回転したりすることで、神経細胞やその周囲の構造に微細な損傷が生じ発生します。損傷は細胞レベルであり、MRIなどの画像診断では検出できない場合もあるため、診断には症状と背景情報の詳細な確認が必要です。
脳震盪の原因
脳震盪は頭部や身体への強い衝撃により、脳が揺さぶられることで起こります。これにより神経線維が伸びたりねじれたりし、脳の機能に異常が生じることが脳震盪の原因です。また脳震盪の発生要因は多岐にわたります。外部からの衝撃や急激な加速・減速が主な要因であり、特にスポーツ事故に注意が必要です。ラグビー、アメリカンフットボール、サッカー、ボクシング、アイスホッケーなどの競技では、頭部への衝撃が避けられない場面が多く、脳震盪のリスクが高まります。よく見られる脳震盪の発生状況として、競技者同士の衝突や床やボール、ポールなどの物への激突があげられます。
スポーツ事故だけでなく、車両同士の衝突や、車両と歩行者との接触などによる交通事故、日常生活や職場、階段などでの転倒、暴力行為による頭部の衝撃も脳震盪の原因です。脳震盪は骨折のように目で見てわかるわけではないので、気づかずに過ごしてしまう事もあります。その結果、後遺症や最悪の場合死に至ることもあるので注意が必要です。
脳震盪の前兆や初期症状について
脳震盪の初期症状は、頭部や身体への衝撃後すぐに生じることもあれば、24〜48時間以内に遅れて症状がみられることもあります。遅発性の症状を見逃さないためにも、脳震盪の可能性が認められた時点で、経過を注意深く追うことが重要です。初期症状だけでなく、新たな症状の出現や症状の進行がないかを確認します。
主な症状
- 頭痛
- めまい
- 霧の中にいるような感覚
- 失見当識
- 複視
- 嘔吐
身体的兆候
- 意識消失
- 外傷性てんかん
- スポーツ時の不適切なプレイ動作
- 足のふらつき
- 転倒時防衛反応の消失
- うつろな表情
- 起き上がるのが遅い
- 頭を抱える
- バランス障害
- 協調運動障害
- 耳鳴り
- 光/音への過敏
行動の変化
- 不適切な感情
- 苛立ち
- 緊張や不安に感じる
認知障害
- 反応時間の鈍化
- 混乱/失見当識
- 注意力や集中力の低下
- 脳震盪発症前後の記憶の喪失
睡眠障害
眠気
これらの症状が確認された場合、速やかに脳神経外科、神経内科を受診してください。軽微な症状でも適切な診察を受けることが重要です。
また競技中による事故によりRED FLAGSと呼ばれる以下の症状が見られた場合、脳震盪よりも重い脳損傷の可能性があるので、救急車をすぐに呼びましょう。
- 首の痛み、圧痛
- 物が二重に見える
- 手足の脱力、痺れ、チクチクした痛み
- 強い頭痛
- けいれん発作
- 意識消失
- 意識障害
- 嘔吐
- 落ち着きがなくなる
- 興奮状態やかんしゃく
- 首の痛みや圧痛
初回の脳震盪から完全に回復していない段階で、再度頭部に衝撃を受けることで発生するセカンドインパクトシンドロームにも注意が必要です。これは死亡率が30〜50%にも達すると報告されている極めて深刻な状態です。
最初の脳震盪により、脳が脆弱な状態となっているため、この状態で二度目の衝撃を受けると、脳が急激に腫れ上がり、血管が破綻しやすくなります。その結果、脳を包む硬膜の下に血液が貯留する「急性硬膜下血腫」を引き起こす可能性が極めて高くなります。特に18歳未満の若年スポーツ選手に多く見られることが特徴です。
発症の多くは、最初の脳震盪から十分な回復期間を置かずに競技に復帰したケースです。二度目の衝撃を受けた際には、ほぼすべての症例で急性硬膜下血腫を伴うことが報告されています。
脳震盪の検査・診断
脳震盪の検査は、主に症状に基づく臨床的評価によって行われます。
スポーツ競技中の事故による脳震盪の評価と管理については、現場に待機している医師が担当することが基本となります。医師が不在であれば、専門的な訓練を受けたスタッフが症状の確認を実施する場合もあります。診断においては、Standardized Assessment of Concussion(SAC)を用いた診断ツールを利用し総合的に判断します。
例えば、スポーツ事故で選手が負傷し脳震盪の可能性が考えられる際は、まずRED FLAGSにあげられる症状がないかを確認します。
次に、脳震盪の兆候を観察します。
- プレー面に横たわったまま動かない
- バランスがくずれる
- 歩行障害
- 無表情またはうつろな表情 など
次に、記憶力の確認として、以下のような質問を投げかけます。
- ここはどこの競技場ですか
- 前回の試合は勝ちましたか
- 先週はどの大会に参加しましたか など
そして、症状を確認した上で評価を行います。脳震盪が疑われる選手に対しては、即座にプレーを中止させ、脳神経外科などの専門医による診察が必要です。また重篤な脳損傷の可能性を排除するため、MRIやCTなどの画像検査も実施されます。
脳震盪の治療
脳震盪の治療は安静にする保存的療法が基本です。症状悪化を避けるためにも、回復初期は学校や職場での活動、運動、飲酒に注意します。脳に負担がかかるゲームやテレビ、コンピューターの使用なども避けるべきです。
安静と脳の回復
衝撃を受けた後の48時間は特に重要です。物理的・精神的活動を最小限に抑えます。スポーツや仕事への復帰は、医師の管理下で段階的に行うことが重要です。
段階的復帰プログラムの計画
完全回復後、軽度の運動や日常活動から徐々に通常の生活に戻ることを目指します。スポーツ選手において、復帰の目安として成人は7〜10日、13歳未満では4週間以上の経過観察を行います。
薬物治療
頭痛がある場合の薬剤として推奨されるのは、アセトアミノフェンです。NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)は出血リスクを考慮し、使用を控える場合があります。
精神的ケア
必要に応じてカウンセリングや認知行動心理的サポートを受けます。スポーツ事故が原因の場合において、女子選手は男子選手よりも影響を受けやすく、回復に時間がかかるかも知れないと考えられています。
脳震盪になりやすい人・予防の方法
脳震盪のリスクとしては、特にスポーツ競技者で高い傾向です。脳震盪を予防するために、スポーツ時には以下のポイントに注意しましょう。また子どもが競技者の場合は指導者の判断が重要になります。
- 体格差や体力差をなくす
- 施設設備に不備がないか確認する
- 身体にあった防具を身につける
また脳震盪の既往歴がある人に対して、衝突の少ないポジションで対応することも大切です。競技において脳震盪の症状があったり、疑ったりする場合はプレーから即座に外しましょう。
スポーツ事故による脳震盪を防ぐためにも、以下のポイントを競技者に周知・理解してもらう事も重要です。
- スポーツにおいては安全第一を徹底する
- 脳震盪の症状を共有し、該当する症状がある場合には報告する重要性を伝える
関連する病気
- 脳震盪
参考文献




