

監修医師:
田頭 秀悟(たがしゅうオンラインクリニック)
目次 -INDEX-
多巣性運動ニューロパチーの概要
多巣性運動ニューロパチーは、体の筋肉を動かす運動神経にだけ影響を与えるまれな病気です。
左右対称ではない筋力の低下や筋萎縮が見られ、手や腕の筋力が弱くなったり、握力が落ちたりします。 進行がゆっくりであるため、最初は気づかない可能性もありますが、悪化すると日常生活に支障が出てきます。 感覚の異常はほとんどなく、手足がしびれるような症状が見られないことが特徴です。
多巣性運動ニューロパチーは、自己免疫の異常が原因と考えられており、体の免疫システムが間違って神経を攻撃することで起こります。
完治が難しい病気ですが、免疫グロブリン療法が効果的とされており、治療を継続すれば生活の質を維持・改善できます。
多巣性運動ニューロパチーの原因
多巣性運動ニューロパチーの原因は、体の免疫システムが誤って自分の神経を攻撃してしまうことです。
神経を包み保護する役割を持つ「ミエリン」という膜が攻撃されることにより、神経の働きが悪くなることで発症します。 神経の本来の働きが悪くなり、筋肉に正しい信号を送れなくなると、筋力低下や筋肉の衰えが引き起こされます。
発症者の血液には「抗GM1抗体」という抗体が見つかっており、神経の働きを邪魔する原因の一つと考えられています。 手や腕を長期間酷使する習慣が、炎症や神経へのダメージにつながる可能性も指摘されています。 しかし、免疫システムがなぜ誤作動を起こすのか、正確な仕組みはまだわかっておらず、研究が進められています。
多巣性運動ニューロパチーの前兆や初期症状について
多巣性運動ニューロパチーの初期症状は、手指や腕の筋力低下から始まります。 筋力低下は左右が非対称に現れるのが特徴で、片方の手や腕、手指などの力が入りにくくなるケースが多いです。 最初は握力の低下が目立ち、物を持ったりつかんだりする動作が難しくなる場合があります。
筋力低下は進行性であり、時間が経つと筋肉が痩せ細っていきます。 感覚障害が見られず、しびれや感覚の異常がない点が他の疾患とは異なります。 筋肉がピクピク動く筋痙攣や寒さによる筋力低下の増悪が特徴的です。 これらの症状は腕や手だけでなく、長い時間の経過で脚にも影響を及ぼします。
多巣性運動ニューロパチーの検査・診断
多巣性運動ニューロパチーの診断は、問診に加え、神経伝導検査と抗GM1抗体検査を実施します。 必要に応じて脳脊髄液検査やMRI検査もおこない、他の病気との鑑別の参考とします。
神経伝導検査
神経伝導検査では、筋肉を動かす運動神経が正しく働いているかを調べます。 多巣性運動ニューロパチーでは、神経が筋肉に信号を送る速度が遅くなったり、途中で信号が止まったりする「伝導ブロック」が確認されます。
抗GM1抗体検査
血液を調べて「抗GM1抗体」という抗体の有無を確認します。 抗GM1抗体は、多巣性運動ニューロパチーを発症した患者の約半数に見られ、診断の手がかりとして重要です。 全員に抗体が見つかるわけではないため、他の検査結果と組み合わせて判断します。
脳脊髄液検査
脳脊髄液検査では、蛋白質の増加や抗GM1抗体の有無などを調べ、診断や治療方針を決定します。 確定診断や他疾患との鑑別、治療効果の確認に役立ちます。
MRI検査(磁気共鳴画像法)
多巣性運動ニューロパチーの患者では、神経の束が肥厚することがあるため、MRI検査によって腕や脚の神経が腫れていないかを確認します。 過去に免疫グロブリン療法で症状が改善した経験がある場合も、診断の重要な参考になります。 MRI検査を用いると、症状が似ている慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(CIDP)や筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの鑑別も可能です。
多巣性運動ニューロパチーの治療
多巣性運動ニューロパチーの治療では、免疫グロブリン療法が効果的な方法とされています。 免疫グロブリン療法では、免疫のバランスを整えて、筋力低下や筋萎縮などの症状を改善することが期待できます。 多くの患者で数週間以内に効果が現れますが、一度の治療だけでは効果が持続しないため、定期的に治療を続ける必要があります。
ステロイド療法はこの病気には効果がなく、むしろ症状を悪化させる可能性があるため使用されません。 一部の患者では、免疫抑制剤が補助的に使用される場合もありますが、副作用が強いため慎重な対応が求められます。 多巣性運動ニューロパチーは根本的な治療法が確立していないため、治療は病気の進行を抑える目的でおこなわれます。
多巣性運動ニューロパチーになりやすい人・予防の方法
多巣性運動ニューロパチーになりやすい人については、特定のリスクが解明されていません。 免疫システムの異常が関係していると考えられているため、自己免疫疾患の素因を持つ人は注意が必要です。 手や腕を頻繁に使う職業や趣味を持つ人では、長期間の負荷が発症に関わる可能性も指摘されています。
予防法についても確立された方法はありません。 免疫機能を十分に保った健康的な生活が、発症のリスクを減らせる可能性があります。 栄養バランスの良い食事をとり、適度な運動や十分な睡眠を心がけることが大切です。
関連する病気
- 慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)
- 筋萎縮性側索硬化症(ALS)
- 血管炎性ニューロパチー
- シャルコー・マリー・トゥース病(Charcot-Marie-Tooth病
- CMT)
- ギラン・バレー症候群(GBS)
- 糖尿病性ニューロパチー
- 重症筋無力症
参考文献




