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新生児髄膜炎
佐伯 信一朗

監修医師
佐伯 信一朗(医師)

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兵庫医科大学卒業。兵庫医科大学病院産婦人科、兵庫医科大学ささやま医療センター、千船病院などで研鑽を積む。兵庫医科大学病院産婦人科 外来医長などを経て2024年3月より英ウィメンズクリニックに勤務。医学博士。日本産科婦人科学会専門医、日本医師会健康スポーツ医、母体保護法指定医。

新生児髄膜炎の概要

新生児髄膜炎は、新生児期(生後28日以内)に発症する細菌性またはウイルス性の中枢神経系感染症です。本疾患は死亡や神経学的後遺症を引き起こす可能性があるため、早期の診断と適切な治療が求められます。新生児髄膜炎は主に敗血症に合併して発症し、その頻度は1,000出生あたり0.1~0.5件とされています。特に極低出生体重児では、その発生率が10~15倍に上昇することが報告されています。また、髄膜炎の一部の症例では脳室炎を合併し、より重篤な経過をたどることがあるため、注意が必要です。

新生児髄膜炎の原因

新生児髄膜炎の主な原因菌は、生後1週間未満(早発型)ではB群溶血性連鎖球菌(GBS)および大腸菌が多く、リステリア菌が一部を占めます。生後1週間以降(遅発型)では、GBSや大腸菌に加えて、医療機関に入院している新生児では黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、グラム陰性桿菌などが関与します。特に髄膜炎に続発する脳室炎の症例では、グラム陰性菌(68.9%)が多く、エシェリヒア・コリ(22.2%)、クレブシエラ・ニューモニエ(17.8%)、エンテロバクター・クロアカエ(13.3%)が主要な病原体とされています。
また、新生児期にはウイルス性髄膜炎も発生することがあり、単純ヘルペスウイルス、エンテロウイルス、ヒトパレコウイルスなどが関与します。これらのウイルスは母体由来や周囲の環境から感染することが多いです。

新生児髄膜炎の前兆や初期症状について

新生児髄膜炎は特異的な症状を示さないことが多く、発熱、哺乳障害、元気消失、呼吸困難、嘔吐、低体温または高体温などの非特異的症状がみられます。また、臨床的痙攣を伴うことがあり、病状が進行すると大泉門膨隆がみられる場合があります。
さらに、新生児髄膜炎は脳浮腫、水頭症、脳梗塞、脳膿瘍などを合併しやすく、これらが急速に進行するため注意が必要です。髄膜炎が進行すると意識レベルの低下呼吸不全を引き起こすこともあるため、早期診断が重要です。

新生児髄膜炎の検査・診断

新生児髄膜炎の診断には、髄液検査が不可欠です。髄液検査では、白血球数、蛋白濃度、糖濃度、グラム染色、細菌培養などが行われます。特に、細菌性髄膜炎の診断には髄液からの微生物の同定がゴールドスタンダードとされています。
血液培養が陰性であっても30~38%の細菌性髄膜炎例では髄液培養が陽性であることがあるため、敗血症が疑われる場合には積極的に髄液検査を行うことが推奨されます。
また、細菌抗原検査PCR検査も診断の補助として用いられ、特に抗菌薬投与後の診断に有用です。近年、遺伝子診断技術の進歩により、髄液の微量な細菌DNAを検出する方法が開発され、迅速な診断が可能になりつつあります。
さらに、脳室炎の診断には頭部超音波検査が有用であり、脳室壁の不規則な肥厚や高輝度化、脳室内の浮遊物などの所見が観察されることがあります。

新生児髄膜炎の治療

新生児髄膜炎の治療には、早期の適切な抗菌薬投与が重要です。原因となる細菌やウイルスに応じて、医師が適切な治療法を選択します。細菌性髄膜炎では、特定の抗菌薬が用いられ、治療期間は一般的に2週間から3週間程度となります。治療中は入院が必要となり、経過を慎重に観察しながら適切な処置が行われます。
また、ウイルス性髄膜炎の場合は、ウイルスの種類によって治療方針が異なります。一部のウイルス感染には特効薬があるものの、一般的には対症療法が中心となります。発熱や脱水などの症状を和らげるために、適切な水分補給や解熱剤の使用が行われます。
髄膜炎の合併症として、神経学的な後遺症が残る場合があるため、治療後も定期的な経過観察が推奨されます。特に、聴覚障害や発達遅延などの問題がないかを確認するために、医療機関でのフォローアップを継続することが大切です。

新生児髄膜炎になりやすい人・予防の方法

新生児髄膜炎になりやすい人

新生児髄膜炎のリスク因子としては、早産、低出生体重、母体のGBS保菌、周産期の感染症、NICUでの長期入院、侵襲的医療処置の実施などが挙げられます。

予防の方法

予防策としては、妊娠中のGBSスクリーニングおよび母体への抗菌薬予防投与が重要です。特にGBS陽性の妊婦に対しては、分娩前に適切な抗菌薬を投与することで新生児の早発型GBS感染症のリスクを低減できます。
また、NICUでの感染管理を徹底し、医療従事者の手指衛生を徹底することも、新生児髄膜炎の発生を予防するうえで重要です。母体のワクチン接種(B型肝炎やインフルエンザなど)も、間接的に新生児の感染リスクを下げる手段となります。

関連する病気

  • 新生児敗血症
  • 新生児脳炎
  • 乳児期の髄膜炎

参考文献

  • Hamilton JL, Evans SG, Bakshi M. Management of Fever in Infants and Young Children. American Family Physician. 2020;101(12):721-729.
  • Garges HP, Moody MA, Cotten CM, et al. Neonatal meningitis: correlation among cerebrospinal fluid cultures, blood cultures, and cerebrospinal fluid parameters. Pediatrics. 2006;117(4):1094-1100.
  • Srinivasan L, Harris MC, Shah SS. Lumbar puncture in the neonate: challenges in decision making and interpretation. Semin Perinatol. 2012;36(6):445-453.

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