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椎骨脳底動脈循環不全
田頭 秀悟

監修医師
田頭 秀悟(たがしゅうオンラインクリニック)

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鳥取大学医学部卒業。「たがしゅうオンラインクリニック」院長 。脳神経内科(認知症、パーキンソン病、ALSなどの神経難病)領域を専門としている。また、問診によって東洋医学的な病態を推察し、患者の状態に合わせた漢方薬をオンライン診療で選択する治療法も得意としている。日本神経学会神経内科専門医、日本東洋医学会専門医。

椎骨脳底動脈循環不全の概要

椎骨脳底動脈循環不全は、椎骨脳底動脈系における脳幹や小脳の脳血流低下によって引き起こされる脳神経症状です。 脳の血管が一時的に詰まり、短時間だけ脳神経症状が出現する「一過性脳虚血発作」の一種であると考えられています。

椎骨脳底動脈は、首の部分を走る椎骨動脈と脳の下部(脳幹や小脳)を走る脳底動脈からなり、後頭部に血液を送る重要な血管系です。

椎骨脳底動脈循環不全は、動脈硬化や心原性の塞栓、血圧変動などによって血流障害が起こることによって発症します。 脳の一部が一時的に虚血状態になり、めまいや平衡障害などの症状が生じます。 めまいは、頭の位置を変えたり起立したりすることで症状が起きやすくなります。

めまい以外にも、脳幹や小脳に関連する症状として、顔や舌などのしびれ、味覚障害、構音障害、嚥下障害などが見られることもあります。 これらの症状は、発症から24時間以内に完全消失しますが、めまいは1ヶ月以内に数回繰り返すことも多いです。

診断には問診によって症状の特徴を詳細に聞き取ることや、CT検査、MRI検査などの脳の画像診断が重要です。 これらの検査によりほかの脳血管疾患との鑑別もおこないます。

治療の基本は薬物療法で、脳血管障害に対する根本的な治療と、めまいに対する対症療法を組み合わせておこないます。 特に随伴症状が多く重症度が高い場合は予後が不良になる可能性があるため、根本的な治療は必須です。

早期発見と適切な治療により、症状の改善と再発予防を図ることが重要です。

椎骨脳底動脈循環不全の原因

椎骨脳底動脈循環不全は椎骨脳底動脈系の血流障害によって引き起こされます。 主な原因として、動脈硬化による狭窄や閉塞が挙げられます。

心臓やほかの部位から飛んでくる血栓による塞栓症も重要な要因です。 血圧の変動による血行力学的な異常や、器械的な椎骨動脈の圧迫も原因になることがあります。 さらに、奇形や乖離(かいり)などの血管の構造的異常も、血流量の一過性減少を引き起こす可能性があります。

これらの要因は、加齢や不規則な生活習慣、貧血、頚椎症、過度な疲労、抑うつ、狭心症などによって誘発されることがあります。 特に高齢者では動脈硬化のリスクが高まるため、注意が必要です。

椎骨脳底動脈循環不全の前兆や初期症状について

椎骨脳底動脈循環不全の初期症状として特徴的なのはめまいです。 めまいは回転性や浮動感、くらみ感として現れることが多く、発症から1ヶ月間に数回繰り返し起こる傾向があります。 特に起立時や頭の位置を変えたとき、首を大きく回したときなどに症状が誘発されやすいのが特徴です。

めまいと同じタイミングもしくはその前後に、小脳や脳幹由来の随伴症状が現れることがあります。

随伴症状には複視や霧視などの視覚異常、顔面や舌、上肢などのしびれ、味覚障害、構音障害、嚥下障害、片麻痺、意識障害、難聴などが含まれます。 特に視覚障害の頻度は高いとされています。 これらの症状はめまいが発症してから数週間〜数ヶ月後に発症することもあるため、長期的な経過観察が重要です。

椎骨脳底動脈循環不全の検査・診断

椎骨脳底動脈循環不全の検査は、詳細な問診から始まります。 問診によって症状の特徴や発症時間、頻度などを詳細に聴取し、症状が椎骨脳底動脈循環不全の特徴に合致する場合、血液検査や血圧検査、平衡機能障害の検査、心電図検査、画像検査がおこなわれます。

画像検査ではCT検査やMRI検査、MRA検査、超音波検査、脳血管造影検査などが実施され、脳血管の状態や血流などを詳細に観察し、ほかの脳血管障害との鑑別がおこなわれます。

診断に重要なのはMRI検査の拡散強調画像です。 発症してから数時間以内の虚血状況を検出できるため、24時間以内に虚血の所見が見られれば椎骨脳底動脈循環不全の可能性が高くなります。

MRA検査や超音波検査は、血管を造影剤なしで撮影できる非侵襲的な方法で、リアルタイムで椎骨脳底動脈の形態や血流量、血流速度などを観察できます。 脳血管造影検査は、全身の血管に造影剤を注入してから脳の撮影をする方法で、より詳細に脳血管の状態がわかるのが特徴です。

これらの検査結果を総合的に評価することで、椎骨脳底動脈循環不全の診断がおこなわれ、適切な治療方針が決定されます。

椎骨脳底動脈循環不全の治療

椎骨脳底動脈循環不全の治療は薬物療法が中心です。 意識障害やけいれんなどの脳神経症状が強い場合は、脳血管障害に対する治療が優先され、機能改善維持薬や脳神経保護薬、脳循環代謝改善薬の投与がおこなわれます。 これらの薬剤により、脳の機能回復を促して症状の改善を図ります。

めまいに対する対症療法として、血流を促す循環改善薬や不安を抑える抗不安薬などを投与することもあります。 特にめまいが長期間続く場合は、急性期が過ぎた後も頓服薬(とんぷくやく)として本人に携帯してもらうことがあります。

脳卒中のリスクが高いと判断される患者では、抗血小板薬や抗凝固薬などによる抗血栓療法を検討することがあります。 抗血栓療法は症状や経過を注意深く観察しながらおこない、必要に応じて薬剤の調整や追加の検査をします。

さらに、生活習慣の改善や適度な運動など、日常生活で実践できる予防策についても指導します。

椎骨脳底動脈循環不全になりやすい人・予防の方法

椎骨脳底動脈循環不全は、主に高齢者や不規則な生活を送っている人、日頃から過度な疲労を感じている人など、動脈硬化を発症しやすい人がなりやすい傾向にあります。 高血圧症や糖尿病、貧血、頚椎症、過度な疲労、抑うつ、狭心症などの既往歴や症状がある人も発症リスクが高くなります。

予防法としては、規則正しい生活を心がけることが重要です。 バランスの良い食事を摂取し、塩分を控えめにすることで、血圧の安定につながります。 適切な運動を習慣づけたり、十分な睡眠を取ったりすることも大切です。 過度なストレスを溜め込まないよう、趣味やリラックスできる習慣を取り入れるなどの解消法も取り入れましょう。 また、喫煙は血管に悪影響を及ぼすため、禁煙も重要です。

これらの生活習慣の改善に加えて、定期的な健康診断を受けることで、早期に潜在的なリスクを発見し、適切な対策を講じることができます。 特に、高血圧や糖尿病などの基礎疾患がある場合は、医師の指示に従って適切な治療を継続することが重要です。

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